第362話 転生したらゴブリンやった 3


 今までは被害が冒険者だけで、それが討伐隊が来ない理由やったかもしれんけど、一般人商人にまで被害が出たらさすがに来るやろ。

 どないしよ…?

 

 座禅を組んで米神に唾塗ってポクポク考えた結果、一つの妙案が閃いた。

 討伐隊が来てもボスが討たれたら納得するんじゃないやろかと。

 突然ゴブリン被害が増えたら原因があると考えるのが人間やろ、しかも罠や連携を使い出したなら仕込んだ奴がおるとも考えるはずや。

 まぁ、どっちもワタシやねんけど。

 つってもワタシは殺される気ないで、こんなちっぽけなゴブリンをボスとは思わんやろし。

 ボス役はトル君や。新参を身代わりにするみたいになってまうけど…みたいやなくてまんま身代わりやな。

 トル君が廃屋におるだけでボス認定してくれそうやけど、廃屋に近づくほど強いゴブリンが襲ってきて、廃屋前には警護するゴブリンを配置しとけばよりそれっぽいやろ。

 ゴブリンにも能力に違いがある。大柄(ゴブリンにしてはやけど)で力が強い奴もおれば、小柄で足の速い奴。刃物を扱うのが上手い奴、罠を作るのが上手い奴。器用な奴には弓で矢を飛ばせるのもおる。

 色々試しながらそれぞれの能力にあった役目を割り振った。

 あと、穏健派には食料調達の面で協力してもらう事にした、過激派は冒険者に対しての盾役とも言えるしな。

 

 ワタシ自身で変わったことが二つ。

 一つは武器を新しくしたこと。ワタシの身体能力はゴブリンの中でも低い方やからどないしようか悩んどってんけど商人の馬車で良いモン見つけた、ボーガンや。これなら弓より狙いを付けやすいし力弱くても威力ある矢を放てる、連射出来ひんのが弱点やけどな。

 もう一つは廃屋を塒にしたこと。

 ゴブリンのみんなはトル君をボスとは認めたくないんやて。ワタシがおらな警護したくないんやて。慕ってくれるんは嬉しいけど、逆に危険になんねんな~。それ言うても、あねさんは俺らが守りますんで、って伝えてくるんよ。

 しゃあないから廃屋に住むことにした、ロウタロウも一緒なら逃げることは出来るやろ。

 


 ある程度体制が整ってきたある日。

 見張りが三人の冒険者が森に入ったと知らせに来た。

 どんな見た目の冒険者で今までのと違ってたりしないか聞いたけど、大きいのと中ぐらいのと小さいので特に違いはないらしい。

 一般人商人殺したのに討伐隊やなくまだショボ冒険者が来るんか…?ひょっとして一人も逃がさんかったから気づかれてないんかな……、この辺は考えても答え出えへんな。

 三人ならワタシやトル君が出るまでも無いやろ。見張りにはそいつら監視させて異変があったらまた来るよう言って送り出した。

 少しして違う見張りからまた三人の冒険者が森に入ったって知らせが来た。

 んん、さっきとは違う冒険者パーティーか?どんな見た目か聞いたら、大きいのと中ぐらいのと小さいのらしい、一緒やんけ!

 その身張りには既にその報告は聞いたから元の配置場所に戻るよう言って送り出した。

 そしたらしばらくして最初の見張りが慌てた様子でまた来た。

 落ち着かせて話聞くと、最初の三人は罠にもかかって倒せそうやってんけど途中からさらに三人乱入してきてその三人はメチャクソ強いくて30匹ぐらいのゴブリンを蹴散らしたらしい。


 やってもうたぁっ!?


 別々の冒険者パーティーやったんやんけ!しかも強い方をほったらかすとかコントかいな!

 冒険者は六人で行動し、廃屋に向かって来てるらしい。

 どないしよ、逃げるか?いや、まだ負けると決まったわけやない、トル君とゴブリンの連携なら勝てるかもしれん。まずトル君呼びに行くか。

 あ、トル君飯食っとる…飯の邪魔すると機嫌悪なるんよな、でもそんなこと言ってる場合ちゃうし……。


 ちょっと落ち着けワタシ、はぁ~、ふぅ~、はぁ~、ふぅ~、深呼吸してと。


 強い冒険者が来るのは想定内や。漫画とかの定番シナリオで、冒険者にはA、B、C、Dみたいなランクがあって、DやCの低ランク冒険者に多くの被害が出てるから、BかAの高ランク冒険者が原因究明兼討伐に来たって感じやろ。ならボス身代わり作戦で難は逃れれる。


 ワタシにある選択肢は三つ。

 1.命大事と今すぐ逃げる。

 2.みんなと一緒に冒険者と戦う。

 3.こっそり様子を観察して、状況に応じて行動する。


 ………3やな。今後の為に高ランク冒険者の実力は知っときたいし、勝てそうならトル君連れ出して総力戦や。


 ワタシは警護のゴブリン達に冒険者が攻めてくることを伝え、廃屋の正面を観れる小部屋でボーガンを持って待機する。

 そう経たん内にロウタロウの吠える声が聞こえた。

 廃屋に走って近づいて来るのが二人…いや、大きいのの肩に小さいのが乗ってて三人やな。何で肩乗ってんねん!とツッコんでたら小さいのが光の弓矢を作り出して、ここからは見えへんけど多分バルコリーのゴブリンを射抜かれた。

 光魔法!?メッチャかっこええやん!

 小さいのが肩から降りて大きいのが戦闘態勢になる。見張りは大きいのが一番ヤバイ言うとったな、素手でゴブリン潰すとか。

 いやいや、トル君じゃあるまいし人間にそんなこと出来るわけ……あるし!?

 素手っちゅうか手の平で殴って潰しとる!?張り手やん!お前は力士かっちゅうねん!!

 あともう一人中ぐらいで黒づくめの奴がおる、周りを警戒しながらサクッと1匹斬り裂きおった。なんやなんや力士のお仲間は忍者とでも言いたいんか?にしては小さいのに和の要素ないやんけ、設定改めて出直してこい!

 とかツッコんでたらトル君呼びに行く間もなくゴブリンがあと一匹になってもうた、警護として配置したのはいわゆる精鋭ゴブリンやってんけどな…。

 大きいのが最後のゴブリンぶん投げおった、だからお前は力士かっちゅうねん!!

 扉が壊れる破壊音のあとトル君の咆哮が聞こえた。投げられたゴブリンが当たったんかな、飯の最中にぶつけられて怒ってるっぽいな。

 廃屋の外に出るトル君。勝てるかなトル君…?無理な気するなぁ~、だって相手の表情が今までのショボ冒険者とは違うねんもん「お、倒し甲斐のあるモンスター出て来たな」みたいな顔してんねんもん。

 どうないしよ、ワタシが加勢しても焼け石に水やろうしな…。

 とか考えてたら中ぐらいの黒いのがトル君の腕斬って武器落とさせて、そんでトル君と被って見えにくかったけど大きいのの攻撃でトル君がこっちに吹っ飛んできた。壁突き破ってトル君の上半身が部屋の中に、反射的に大丈夫かと近づいた瞬間トル君を光の剣が次々と串刺しにした。

 

 ……あぁ~、これが高ランク冒険者か。今までとは桁が違うどころか次元が違うやろ!あれか、Aを超えたSランクとかで英雄クラスとかそんなんか?何でそんなんゴブリン討伐に来さすねん!アホちゃうか!!


 もうええわ、逃げさせてもらうわ。


 廃屋に入ってすぐの正面ホールには商人から奪った金目のモン置いてある、ボスのトル君倒してお宝あったら冒険者は満足するやろ。

 あいつらがお宝に夢中になってる間にロウタロウ呼んで逃げよ。ロウタロウ無事かな…?戦闘には加わるな言うてあるから大丈夫やとは思うけど…。

 と部屋の隅で縮こまって逃走方法を考えてたら、

 壁を破壊して大きいのが入って来た。


 なんでやねん!?ちゃんと入口から入れや!!


 恐怖が加わってツッコミがてらにボーガンを大きいのに向けて射ってもうた。

 かわしおったでこの距離で!?しかも、


「お前がボスだべな」


 言葉は分からんけど意味は分かった。こいつ、ワタシがボスやと気づきおった。

 ワタシはボーガン本体を投げつけ部屋を出る。

 入口の方は仲間の冒険者がいるはずやから正面ホールへと進む。当然大きいのは追ってきたけど、ワタシより金目のモンに気をとられれば……って見向きもせんのかい!

 ワタシはホールにある階段へと向かい駆け上がる、大きいのも続いて上がろうとするが一段目の板が抜ける。

 ひっかかったなアホ!この階段はボロボロ過ぎてゴブリンならともかくお前みたいなデカいのが上がれる強度はないねん。

 ワタシは上がって来れない大きいのを尻目に階段の途中にある窓へと飛び移る、そして指笛を吹いてロウタロウを呼ぶ。

 やった!生きとったんやなロウタロウ!

 ワタシはロウタロウの背に目掛けて飛び降りる。

 

 これで逃げれる!


 そう思った瞬間、壁をぶち抜いて出てきた腕がワタシの頭を鷲掴みにした。


 なんでやんねん!!?

 

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