第276話 バレとる…


 場所はセレンディバイト社の事務所。


「デルファちょっといい?」

「何だい?オリア」

「朝ラビスちゃんから渡されたの、ヨコとカルちゃんからの手紙!」


 手紙を受け取ったオリアとデルファの会話。


「へぇ、今読ませてもらうよ。…………………社長の手紙、半分読んでも農作業の事しか書かれてないんだけど?」

「ふふふ。久しぶりの畑仕事が楽しかったのでしょうね、ヨコらしい」

「だったらニーコ村に帰省で良かったんじゃないかい?」

「それだとそのまま王都に戻ってこないかもってカルちゃんが」

「この手紙を読むに冗談に思えないね………………同期や先輩の冒険者とも仲良くなって、フリー討伐ではゴブリンやヘルハウンドを狩った…ね。なかなか順風満帆じゃないか」

「ほんとね。冒険者って危険そうだからどうかと思ったけど、カルちゃんの言う通り凄く良い気分転換なってるみたい」

「カルの手紙は………………社長の監査報告って感じだね。食欲も増進して昼寝も取って順調に回復傾向。ただ、ぶり返す可能性がないとは言えないから予定通り残り半月もここで様子を診る…か」

「私の方は順調だし、デルファも問題ないよね。あと半月ヨコが休んでも?」

「ああ、問題ないよ。…カルが冒険を続けたいからこう書いてる気もちょっとするけどね」

「それラビスちゃんも言ってた、不満そうな顔で。ヨコに早く帰って来て欲しいんだろうね」

「そう思ってるのはラビスだけじゃないさ。「社長は体調不良で長期休暇」とだけ伝えているから従業員達も心配している。みんな社長の元気な姿を見たいと思ってるよ」

「そうだね。私も早く元気になったヨコに会いたい」





 場所は変わって、ハイネの書斎。


「清髪剤とちゃんこ鍋屋の状況報告は以上になります」

「ああ、ご苦労ラビス」

「それとヨコヅナ様から手紙が届きました」

「私の方にも届いているよ」


 手紙を受けとったラビスとハイネの会話。


「…そうなのですか」

「自分にだけ手紙が届いたと思ったか?」

「私の方から手紙を送りましたから。ハイネ様は送っていませんよね」

「冒険者組合所を経由すれば冒険者に手紙を送れると知らなかったのでな」


 因みに麻薬密売の事件以降…正確にはハイネがヨコヅナを否定して揉めたとラビスが聞いた以降二人の関係はかなり冷えている。


「ヨコヅナの手紙は半分が『国営農業』での畑仕事の話だったな」

「ニーコ村に帰省して畑仕事すればそれで良かったとも思えますね」

「そのまま王都に戻って来ないかったら困るだろ」

「ヨコヅナ様はそんな無責任ではありませんよ」

「……そうか、そうだな。カルから見ても順調に回復してきているとあったから一先ず安心だな。ぶり返す可能性はあるとも書いてあったが…」

「カル様が冒険をしたいからあのように書いていると思えますがね」

「私はカルの診断を信用している。…会社は順調なのだろ?」

「数字の上では」

「だったらあと半月程度構わないじゃないか」

「別に否定はしていません。手紙からそう読み取れたと言うだけです」

「…そう言えば手紙にバジリスクの事が書かれていなかったな。コフィーの情報が間違っていたのか……?」

「バジリスク?何の話ですか?」

「コフィーから聞いたんだ。名前までは分からないが、半月前に冒険者になった肩に銀髪の少女を乗せている大柄の男が、素手でバジリスクを狩ったと。噂の出所もナインド町だ」

「それはどう考えてもヨコヅナ様の事ですね。……なるほど、違和感がなさ過ぎて光景が目に浮びます」

「ヨコヅナがバジリスクを素手で狩る姿がか?」

「それもですね。仕事があるので、今日はもう宜しいでしょうか?」

「……ああ。ヨコヅナが居ないあと半月頑張ってやってくれ」

「ハイネ様に言われるまでも無いですよ、私はヨコヅナ様の補佐ですから」


 そう言ってラビスは書斎から退出する為扉のノブに手をかけ、もう一度振り返る。


「仮にニーコ村に帰省してヨコヅナ様が戻らなかったとしても私は困りませんよ」

「何?」

「私もニーコ村に住めば良いだけですから」





 さらに場所は変わってコフィーリアの自室。


「……わざわざ手紙を送って来るから、どんな冒険譚が書かれているのかと思って読んでみれば」

「冒険譚は、ゴブリンやヘルハウンドを狩った、の一行ぐらいですかね~」


 手紙を受け取ったコフィーリアとユナの会話。

 コフィーリアへの届け物は安全と認められているルートでない場合、まず他の者が中身を確認する。なので先にユナも手紙を読んでいる。


「私に手紙で近状報告を送ってくること自体は正しいと思うわ。でも何故半分が畑仕事の話しなのよ!冒険者になったのに」

「まぁ~、半月の内の十日間『国営農業』で仕事をしていたわけですから~、割合的に間違ってはいませんね~」

「それでも、普通王女に送る手紙でこんな内容書く?」

「ヨコヅナ様は普通では無いですから~。姫様もだからヨコヅナ様に目をかけているのでしょ~。予想の斜め上に行くこともあれば、斜め下に行くこともありますよ~」

「…そう言われると、否定のしようがないわね」

「でも、バジリスクのことは書かれていませんね~。情報が間違っていたのでしょうか~?」

「……いえ、多分カルが少しだけ書き換えたのだと思うわ」

「手紙をですか~?」

「誤字がないか確認するとでも言って預かり、書き換えヨコが再確認することなく送ったのでしょ」

「何の為にですか~?」

「ユナは同僚が「体調不良で長期休暇を取ってるのにバジリスクを狩った」と聞いたらどう思う?」

「…さっさと帰ってきて仕事しろと思いますね~」

「カルはまだ冒険がしたくて呼び戻されたくないから書き換えたのよ」

「八大魔将がせこい事しますね~」

「……ユナはカルが八大魔将と信じているの?」

「本物と思っているわけではありませんが~。以前ご報告した通り~、絶対敵にしない方がいい相手です~。姫様はどうお考えなのですか~?」

「今は何とも言えないわ。でも、あの二人が一緒だと私の利になる事も多いから、あと半月冒険がしたいと言うなら好きにさせるわ」

「そうですね~。私もあの二人を一緒にしておいた方が良いと思います~」

「……だた、この手紙を読んで一つ危惧したことはあるのよ」

「何ですか~?」

「私が冒険者になったときも、研修で十日間も畑仕事をしないといけないのかしら?」

「…冒険者にならなければいいと思いますよ~」

「それだとヤズミとの約束をはたせないじゃない」

「旅行として遠出する時に同行させるだけでいいと思いますよ~」

「それだと面白くないじゃない」

「結局それなんですね~」

「王女特権で研修免除出来るように根回ししておく必要があるわね」




 こんな感じで手紙によりヨコヅナが順調に回復していることはちゃんと伝わった。

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