第188話 ……別に、いいんじゃがな…


 ハイネはネックレスを手に取り眺めながら、贈り主を思い浮かべる。


「あのヨコヅナがネックレスを、とはな…「日頃、お世話になってるお礼ですだ」、か……ふふ、」


 同居人からの突然の贈り物。

 渡された時は少し驚いたが、嬉しい気持ちに自然と笑みになるハイネ。

 そんなハイネのいる自室の扉がコンコンとノックされる。


「ハイナ様、今宜しいでしょうか?」

「ラビスか良いぞ」


 持っていたネックレスを机に置き、ラビスの入室を許可するハイネ。


「失礼します……定期報告に来ました」


 言われるまでもなく、ハイネは用件が分かっていた。

 正式に決めたわけではないが、最近はお互いが家にいる場合、ヨコヅナが昼寝の時に、ラビスは仕事の進捗報告を済ますのが当たり前になっている。


「ではさっそく……おや、それは…」


 書類を取り出し、報告しようとしたラビスだが、言葉を止め机に置かれたネックレスに視線を向けた。


「ん、ああ、出しっぱなしだったか…」


 ネックレスを箱に直そうとするハイネに、


「ヨコヅナ様からのプレゼントですか?」

「そうだ。日頃世話になってるお礼と言ってな……でもよく、ヨコヅナからだと分かったな…聞いていたのか?」

「いえ、ハイネ様の贈り物については何も聞いておりません」

「そうか…」

「ただ、私もプレゼントを貰いましたので…あと、カル様も貰っていました」

「…え」


 ラビスの言葉に意表を突かれるハイネ。


「それは……まぁ、そうか…」


 お世話になっているお礼、なのだからラビスやカルレインが貰っていても、何もおかしくはない。おかしくはないが、ちょっと何にかアレなハイネ。


「私への贈り物は黒い靴でしたよ」

「あ…、一人一人違うのか?」

「ええ、カル様には王都で人気のお菓子詰め合わせでした。…相手の事考えて選んでおられるようです。……カル様は少し不満そうにしていましたが…」

「……そうか、私だけ……か…」


 自分だけ女性らしい贈り物だ、と思いかけ、


「とは言え、私へのプレゼントが本命で、他の人のはついででしょうけど」

「なんだと!?」


 また、ラビスの続いた言葉に驚くことになるハイネ。


「それはどういう意味だ?」

「私がヨコヅナ様に黒い褌を贈ったのが元々の理由です。お返しのプレゼントが黒い靴だったのですが、ヨコヅナ様はお礼とは言え、私だけにプレゼントを贈ると角が立つと思ったのでしょうね。なので日頃のお世話になっているお礼と理由を付け、ついででハイネ様やカルレイン様にもプレゼントを贈ったんですよ」

「な……それは本当、なのか…?」


 ハイネは別に、ヨコヅナがラビスだけにプレゼントを贈ったとしても、不満に思ったりしなくもない事もないよう感じだが、カルレインは不満に思うことは間違いない。


「私が貰った靴は、全体が黒という部分を除けば女性に人気のデザインでした。また、仕事で長時間歩いても足が痛く無いようなにも少し改良されてます。私の好みと行動を考えてのオーダーメイドの贈り物です」


 自分だけ女性向けの贈り物だと思ったハイネだが、言われてみれば、女性向けの靴も当然あるし、オーダーメイドであるなら一番特別と言えるだろう。

 逆にハイネには女性への定番を贈ったとも言える。

 

「では…本当にこれは、ついでの…」


 と、信じそうになり、


「まぁ、私が適当に言ってるだけで、ヨコヅナ様の本意は分かりませんけどね」

「なっ!!?」


 再々度ラビスの言葉に驚くハイネ、


「貴様、揶揄からかったな」

「机にこれ見よがしに、ネックレスを置いているハイネ様が悪いのですよ」

「片付け忘れただけだ。見せようと思っていたわけない」

「とてもそうは思えませんが……」


 ラビスが報告に来ることは事前に分かっている事だから、ネックレスを机に置いてあるのは、見せる為と思われても仕方がない。


「ふん……もういい、さっさと仕事の報告をしろ」

「クククっ。では進捗報告を」



 仕事の進捗報告が一通り終わった後、


「今度のコフィーのパーティーの件は問題ないか?」

「はい、当日ちゃんこ鍋屋は臨時休業とすることになりました」

「そうか……自分の店とは言え、まったくコフィーも勝手だな」

「誰かさんが乗っ取ろうとしたから、主張しているのですよ」

「フっ、その件も和解したと話が流れているからな、パーティーに出席する事で全てほぼ解決だ」

「ちゃんこ鍋屋への提案書は不要なことは、しっかり言っておいてください」

「分かっているさ……そういえば、ヨコヅナは最近、姉の店の手伝いもしていると聞いたが…」

「おや……詮索したのですか?」

「…たまたま軍施設でレブロットと会った時に話題に出ただけだ」

「そうですか。まぁちょっとしたバイトです、問題ありません」

「コフィーは知っているんだな?」

「もちろんです。ヨコヅナ様が同郷の人の店を時々手伝っている事は、報告をしています」

「それなら問題ないな」

「はい」

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