第149話 デマではないがの


 『トンファー』はヨコヅナのCランクでの試合を見てはいないが、内容ぐらいは聞いていた。『拳人』との一試合目と同様に5戦全て、相手の攻撃に対してのカウンターで勝利していたのだと、

 だから、開始と同時にヨコヅナから攻撃してきたのは、『トンファー』にとっては不意を突かれた状態だった。さらに、ヨコヅナの動きは、今まで『トンファー』が完封勝利してきた大柄な選手と桁違いな速さである。

 しかし、『トンファー』とで伊達にBランクトップ選手、それも技巧派と呼ばれていない。


「っ!?くっ!」


 不意を突かれ、予想外な速さのヨコヅナの張り手に対して、トンファーを持った両腕をクロスして防御する。

 だがしかし、バギボギッィィ!!と耳障りの悪い音が会場に響いた。


「っ!?ぐぎゃあぁっぁぁ!!!」


 ヨコヅナの渾身の張り手はトンファーごとクロスした腕をへし折ったのである。


____________________________________

  

 何故ヨコヅナが、この試合自分から攻撃を仕掛けたのかを説明するには、時間を少しだけ戻すことになる。


 拡声器越しのビックマウスとヘンゼンの話は当然だがヨコヅナにも聞こえている。


『やっちまった登録名の『トンファー』選手だが、---------』

(適当に登録名決めなくて良かっただ。カルのお陰だべな)


『---------動きの遅い大柄な選手相手には--------』

(動き遅い大柄な選手だべか…)

『なるほど『不倒』も大柄な選手だな。--------------』

(みんなそう思ってるだか……自分から動かず相手の攻撃を待って反撃してるからだべかな……)


『-----------------そしてもう一つの強みがある』

(速さと技以外にもう一つの強み……ひょっとして魔法でも使えるだべかな……デルファは試合の説明の時に魔法は反則とは言ってなかっただな』


『-------解説するのは公平性に欠けるな』

(魔法かどうかは分からないだが、奥の手があるってことだべな………)


『-------『不倒』に路上の喧嘩で負けた-------』

(襲ってきた相手を撃退したら、喧嘩になるだか……)


『------知り合いじゃなくて友達って言いたかったわけだな』

(襲ってきた相手を撃退したら、友達になるだべか!?……というか無駄話長いだな)


『それじゃ、第二試合『不倒』VS『トンファー』スタートだぜ!!』

(やっとだべか。この後まだ三試合もあるから早く終わらせるべ)


 途中関係ない考えも割り込むが、ヨコヅナは奥の手(魔法かもしれない)を出される前に、自分から攻めて早く倒そうと思ったわけである。

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「……意識はあるみたいだべが、まだ続けるだか?」

「うが、がぁっ……うぁ、ぁ」


 腕をへし折られた痛みに膝をついて蹲り、言葉を返すことも出来ないが首だけ左右に振ってギブアップを伝える『トンファー』。


「そうだべか。係の人、戦えないみたいだから早く医務室に連れてってあげるだよ」


 今回も対戦相手の為に救護係を呼んであげるヨコヅナ。



『マジか!マジか!マジか!マジかぁ~!!?またもや瞬殺一撃KO………今のは一撃で良いんだよな?ヘンゼン』

『……ああ、今のは…一撃だ』

『だよなっ!!新人『不倒』選手が『トンファー』選手に瞬殺一撃KOで勝利したぁ!!!』


 本当に一撃かどうか疑問に思ってしまった為、ヘンゼンに確認して微妙に間があき、観客達の盛り上がりも、…ワァ~!と微妙なものになってしまう。



「…オリア今回は「え!?終わり?」って言わないのかい?」

「だって「ぐぎゃあぁっぁぁ」とか言ってたし、『トンファー』のトンファーごと腕折れてるし」


 今回も瞬殺一撃KOだが、相手の意識はありギブアップされての勝利。ただそれだけに


「あんな光景見て軽口は叩けないよ……」 


 断末魔のような悲鳴と有り得ない箇所で曲がっている腕がとても痛々しい。

 こういう刺激的は光景を見たくて裏格闘試合来る客もいるが、オリアとしてはヨコヅナが勝ったとはいえ見たくない光景だった。


「でも、目を背けたら駄目だよね。私達がヨコにやらせてる事なんだから……」

「やらせてるのは私だよ。オリアがそこまで背負う必要はない」

「あるよ……ヨコは私の弟なんだから」

「そうかい……まぁボーヤが勝ったんだ、こんな暗い話をする場面じゃなかったね」

「あははっそうだね。ヨコおめでとう!」


 コーナーに戻ってきたヨコヅナに賛辞の声をかけるオリア。


「おめでとう。…今の試合なんで自分から仕掛けたんだい?」


 今の試合に限って開始早々ヨコヅナから仕掛けた事を少しだけ不思議に思っていたデルファ。


「相手の選手に奥の手があるようなことを、試合前に解説が言ってたからだべ」

「奥の手?……あぁ「もう一つの強み」とか言ってたねェ」

「何だったのかな?」

「魔法とかだと困るから、出される前に倒そうと思っただよ」

「え!?、格闘試合なのに魔法とかありなの?」

「魔法が禁止というルールはないよ。『トンファー』が使えたかは知らないけどね……解説が説明してくれるんじゃないかい」



 ヨコヅナ達が『トンファー』のもう一つの強みが気になったように、ビックマウスも気になっていた為、ヘンゼンに質問する。


『終わっちまったけど『トンファー』のもう一つの強みって何だったんだ?』

『……もう説明する意味がない』

『観客達も気になってるだろうから、一応解説しとけよ』

『本当に意味がないのだがな……『トンファー』の使うトンファーは細いわりに異様に強固で、攻撃を喰らった者から鉄製ではないかと疑われる事まであった』


 武器の重量制限がある為、ゴツいトンファーでは二本使用することが出来ない。

 普通は細いと強度が下がり折れやすくなるのだが、『トンファー』のトンファーはどれだけ攻撃しても防御しても折れることがなかった。今までは……

 

『だが、試合直後に監査しても木製であり重量にも変化はなかった。ただ、トンファーに人族語ではない文字が刻まれている為、魔法で強化していると言い出した者がいたんだ。それついて『トンファー』は肯定も否定もしなかったそうだ』


 裏闘の運営は魔法だけでなく魔法武具も使用を禁止していない。

 理由は幾つか存在するのだが、一番大きい理由は財力も実力という考えからである。

 魔法武具は希少で高価、個人では所有することすら困難とされる。


『どうやって入手したか分からないが、もし本当に魔法武具であれば、強みだと思っての発言だったのだがな……」

『確かに魔法武具なら強みかもしれねぇけどよ……折れてるぜ『トンファー』のトンファー』

『だから意味がないと言ったんだ』


 折れないから魔法武具だと疑われていたのに、折れたら何もかも意味がない。


『ヒャハハッ、勿体ぶっておきながらデマ情報かよ~、コノコノォ~。そんなで解説が出来るのかぁ~?』

 

 一試合目の仕返しというように、ヘンゼンを馬鹿にするビックマウス。


『デマの可能性が高いのは確かだが、もう一つの可能性がある』

『何だよ、もう一つの可能性って?あ、それも公平性がどうので、解説しないのかなぁ~?』

『………そうだな。解説はしないでおこう』

『つまんねぇな!オイッ!!そんなんじゃ解説クビにされんぞ!』

『俺の心配より、自分の心配をしろ。お前『不倒』試合、全然実況出来てないぞ』


 選手紹介と試合結果を大声で言ってるだけでは、試合を実況しているとは確かに言えない。

 しかしそれは、


『俺のせいじゃねぇ!!!』


 全試合瞬殺OKでは実況のしようがないビックマウスだった。


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