第128話 我も学校とか行ってみたいの


「ハイネ様は学生時代から優秀だったよ。飛びぬけてな」

「『閃光一強世代』なんて呼ばれていたりする」


 メガロとレブロットも家柄的に注目されてた生徒だったのだが、ハイネの前ではその他大勢でしかなかった。


「一強世代と呼ばれるホントの理由は、ハイネ様が刃向かう者を全て切り伏せたからだがな」

「全て切り伏せた?……」

「もちろん殺してはいないぞ」

「半殺しはいたけどな」

「それは分かりますが、軍学校は上流階級の者しか入学出来ないはずですよね」


 軍学校とは貴族や大商人の跡継ぎが入学するところで、平民が軍に入隊する場合は新兵訓練校に入ることになる。


「ぬるそうな学校じゃの」

「確かに爵位や箔付け等を目的として入学する者もいるが、本気で上を目指している者もいる」


 軍学校は金と推薦状さえあれば入学自体は簡単である、ただ規律や訓練は本格的で厳しく、半端な覚悟で入学した者は辞める場合も多い。


「学生の頃のハイネ様は一見華奢な貴族令嬢に見えた」

「見た目、文句のつけようのない貴族令嬢だからな」

「そんな容姿に騙されて、『元帥の娘だから偉そうにしている女』と思う男達がいたんだ……かく言う私もその一人なのだがな」


 ハイネは騙す気などサラサラなく、勝手に回りが勘違いしているだけなのだが…


「実技訓練で多くの男達がハイネ様に「身の程を教えてやる」とばかりに挑んだわけだが………結果はあそこで山積みになっている一般兵達と同じだ」

「俺は本性知ってたから、遠巻きに見てたけどな」


 カッコ悪いことを言っているのに何故かちょっとドヤ顔のレブロット。


「当時は今よりも手加減が下手だったからな。骨折した者もザラにいた」


 ハイネも学生の頃から今ほど剣の技術が高かったわけではない、努力と実践(犠牲)の上に習得したものである。


「じゃが軍の訓練であれは骨折ぐらいあるじゃろ、それを半殺しというのは言い過ぎではないか?」

「あぁ、それは違う。半殺しにされたのは、訓練以外でハイネ様に襲い掛かった者達だ」


 実技訓練で正々堂々挑んだ場合は酷くても骨折程度だ。しかし、華奢な女に敗北したことを認められず、不意と突くような形でそれも集団で襲い掛かった者達がいたのだ。


「本来であればハイネ様は被害者であり同情されるべき事件なのだが……そうはならなかった」

「あっさり返り討ちにしたからですね」

「より正確には、嬉々として返り討ちにしたからだよ。さらに「良い実践訓練になった。また何時でも挑んでくるがいい。ははははっ!」と半殺しぐあいで倒れ伏す者達に言い放って、何事もなかったかのようにその場を後にしたのだ」


 さすがとしか言いようのないハイネの武勇伝である。 


「『アレ』の噂が囁かれ始めたのもその頃かな」

「なんじゃ『アレ』の噂って?」

「『閃光の馬鹿ハイネ』の事ですか」

「おいおい!口に出すなよ恐ろしいな」


 どこまでもハイネを恐れているレブロット。 


「……変ですね。二つ名は将軍に任命される時か、戦で大きい功績を挙げた者に授与されるはずなので、学生時代はその名はまだなかったのでは?」

「ハイネ様は学生と頃から名乗っていたぞ」

「……自称ですか」


 ラビスの目がもはや痛い人を見る目になってきていた。


「いや、一応コフィーリア王女が名付けられたものだぞ」


 子供の頃から知り合いであるレブロットは『閃光』を名乗るようになった経緯を知っていた。

  

「レブロットはハイネといわゆる幼馴染というやつなのじゃな」

「幼馴染などという微笑ましい言葉を使っていい関係では決してない……」


 今度はレブロットの目から光が失われている。


「子供の頃のハイネ様は手加減が『苦手』ではなく『知らない』だった、何か所骨折したことか!ハイネ様と共に初めてコフィーリア王女が会った時など、なんて紹介したと思う?「こんな丸い奴だが殴りがいはある」だぞ!しかもそれを聞いた王女様も「それは面白そうね」と言って思いっきり腹を殴ってきた。文字通り血反吐を吐いたよ!」


 トラウマを思い出してか、震えだすレブロット。


「信じられるか?王国で美少女として注目の二人と遊んだら、全治三か月の怪我で入院したんだぞ!」


 普通なら信じられない話なのに、その美少女がハイネとコフィーリアとなれば疑いの余地もない。

 

「だから俺は、現在二人から標的とされているヨコヅナの事を本当に哀れに思うよ」

「別に二人はデブを虐める標的にしているわけではないと思いますがね」

「ヨコが暴力を受けているのは確かじゃがの」

 



「おっと、そろそろじゃの……二人とも終わりじゃ、朝飯の時間じゃぞ」


 カルレインから手合わせの終わりを告げる合図が出された。


「はぁ、はぁ。ふぅ~、終わりだべか。ハイネ様との手合わせはやっぱり堪えるだな」

「はぁ、はぁ、やはりヨコヅナは他の男とは違うな」


 一般兵相手では攻撃を受けることすら稀だったヨコヅナも、行軍中に幾多の男達を地に沈めてきたハイネも、お互いにこの手合わせが別格であることを改めて認識していた。


「最初の蹴返しは上手くいったと思ったんだべがな……」

「そうだな、相手が私でなければ倒せていただろう」

「次までにまた何か考えとかないとだべな」

「……ふふっ、楽しみにしているよ」


 ヨコヅナが他の男達と一番違う点は、ハイネ相手に本気で一度も倒されることなく勝つつもりでいることだと思うハイネ。


「お疲れ様ですヨコヅナ様、タオルをどうぞ」

「ありがとうだべ……4人で何を話してただ?」


 ハイネと手合わせしてながらも、珍しくラビスがメガロ達と会話していることに気づいていたヨコヅナ。


「ハイネ様が学生時代、暴力と恐怖で他の生徒を従わせていた番長だったという話を少々」

「なんだと!?」


 ラビスの言葉を聞いて、メガロとレブロットを睨みつけるハイネ。


「貴様ら、なに嘘を教えているんだ!」

「いえそんな、嘘なんて一つも」

「ぜ、全部本当の事しか言ってません」


 確かに二人は本当の事しか言っておらず、またラビスが呼称したように、当時も陰で番長と呼ばれていたのも事実だ。


「番長……ハイネ様は不良生徒ってやつだったんだべか?」

「何をバカなことを言っている!寧ろ私は常に主席の成績で学生長を務めていた優秀な生徒だったのだぞ」


 これもまた本当のことであった。

 ハイネは主席の学生長でありながら、番長とも呼ばれた貴族令嬢という前代未聞の生徒として軍学校の語り継がれているのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る