第116話 使用期間と言ったところかの


 ロード会に雇われる時にデルファが言っていたように、ヨコヅナは色々な仕事を手伝う事となった。

 今でこそ主な稼ぎはギャンブル業と遊館業のなのだが、そもそもロード会は初めとして設立し依頼されて出来そうな仕事を請け負って稼いでいたそうだ。

 設立時こそ何でも請け負っていたそうだが、今では仕事内容を厳選している。

 

 ・運搬

 ・清掃

 ・捜索

   

 現在も請け負っている仕事を大きく分けると上記三つに業種になる。

 三つの中で最も依頼が多く、今日ヨコヅナが手伝う仕事が運搬である。

 運搬と言っても遠くに荷物を運ぶのではなく、人力でしか荷物を運べないような場所で重たい荷物を運ぶのが仕事であった。

 メインで担当しているのはジーク。

 ジークはオーガとの混血でその腕力は、マ人の力自慢などとは比べ物にならない。

 運搬はジークにうって付けの仕事であった。

 いつもはジークの他に混血の人員2人の計3人で仕事に向かうのだが、その日はヨコヅナを足して4人での仕事となっていた。




「ただいま、デルファ」

「ただいまっす」


 ギャンブル店『ハイ&ロード』から事務所に帰ってきたオリアとエフ。


「お帰り、随分今日は早いね」

「今日ヨコがジークの仕事手伝ってるでしょ、様子見に行こうと思って早目に切り上げたの」

「…過保護じゃないかい」

「ヨコは少しヌけてるところあるから心配なのよ」


 身体が大きくどれだけ強かろうと、オリアからすればヨコヅナは弟なのである。


「……姉弟きょうだいってそういうものなのかねェ。様子を見に行く必要も心配する必要もないよ、ジーク達ならもう仕事を終えて帰ってきてるからね」

「え!?早過ぎない?」


 今日請けている運搬の仕事は、常連の取引先からの依頼で、いつもなら必ず夕方までかかる。だがまだ日はかなり高い。

 荷物を運ぶだけの単純作業なので、人数が増えれば作業時間は短縮されるが、3人が4人になっただけで、作業時間が半分近く短縮しているのは計算が合わない。


「いつもより仕事量が少なかったの?」

「いいや、運ぶ荷物も量もいつもと同じさ。ただ、ボーヤがジークと同じだけの仕事量をこなしたらしいからね」

「ジークと同じ量の荷物を運んだってこと!?」

「それは凄いっすね」


 オリアもエフもジークの怪力はよく知っている。

 ジークの運搬での仕事量は常人の3倍以上だ。その仕事量と同等をヨコヅナが行えるのであれば、仕事が早く終わったのも納得できる。


「相手さんも喜んでたってさ」

「そう、良かった」


 オリアとしてもヨコヅナの働きが評価されたのはうれしく思える。


「奥の部屋、騒がしいっすけど何かしてるっすか?」

「ジークとボーヤが力比べするとかで、皆も見に行ったんだよ」

「力比べ?」



 オリア達が奥の部屋へと言ってみると、部屋の中央に机を置いてそれを挟むようにヨコヅナとジークが向かい合っていた。


「あっ、オリア、エフ、お帰り」

「ただいま、イティ」

「たたいまっす」

「あの二人何するの?」


 部屋の入口近くにいたイティにオリアが聞いてみると、


「アームレスリングだってさ」


 どうやらヨコヅナとジークで、力比べの定番とも言えるアームレスリングで勝負するようだ。


「どっちが勝つっすかね?」

「ジークに決まってるだろ」


 イティは冷めた感じでそう言う。


「バカだよな、マ人がジークに勝てるはずないのに」


 オリアもその言葉を否定しようとは思えない、


「ジークは優しいから怪我させたりはしないだろうけど……」


 普通であれば勝敗どころか手を握り潰されないかを心配するところだが、ジークはいかつい見た目と反してとても優しく、仲間の為でもなければ他人を怪我させることはない。


「じゃあ二人はジー君が勝つと思うっすか」

「エフは違うのかよ」

「ヨコやんが勝つとまでは言わないっすけど、いい勝負になると思うっすよ」


 皆の視線が集まる中、ヨコヅナとジークが机に肘を置き、掌を握り合う。


 

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