第114話 動機は何でも良いのじゃ
朝稽古で四股を踏むヨコヅナ。
その後ろでヨコヅナを真似て四股を踏む者の姿は30を超えていた。
もちろんヨコヅナは集めるような言動は一切していない、寧ろラビスは兵達に集めないように注意しているぐらいだ。(指導料を貰えるならラビスは盛大に集客するだろうが…)
それでも人が集まる。早朝に軍人でもない素人の鍛錬を真似をするだけだというのに、
何故集まるのか、理由はいくつかある。
ヨコヅナに膝をつかせれて昇格することが目的の者、
ヘルシング家や、稽古に参加しているメガロとのつながりを持ちたい者、
コフィーリア王女が見学に来ることがあるという噂を聞いた者。
などなど。
だが、これらは参加するきっかけにはなるが、続ける理由にはならなかった。
ヨコヅナに膝をつかせ昇格出来た者は一人もいない。
ヘルシング家はハイネが不在なのでもちろんのこと、メガロも稽古に集中したい為、基本他の者の相手などしない。
コフィーリアが見学に来たのは一度だけで、あれ以降姿を現したことはない。
なので、参加する者の顔ぶれは直ぐに入れ替わる、継続して稽古に参加しているのは三分の一以下。つまり本気でスモウの稽古を頑張っている者は10人もいなかった。
しかし、最近スモウの稽古を頑張る者が一人増えた。
「……何故急にやる気を出したのでしょうか?」
ラビスがそう言って目線を向けている先は、参加している者の中で最も太ってる男、レブロットだ。
今までもレブロットは度々稽古に参加していたが、それはメガロに誘われて付き合いで仕方なくといった感じだった。
しかし最近は違う、毎日自ら稽古に参加して、真剣にスモウに取り組んでいる。何せヨコヅナと同じように褌一丁で鍛錬しているぐらいだ。
「ヨコヅナ様が「素質はあるだ」と言っていましたが、だた太ってるからという意味でなかったのですね」
ヨコヅナの真似をするも、まともに四股を踏めている者はいない。
一番形になっているのはメガロだ。それは単純に稽古数が多いからなのだが、しかし次いで形になっていると言えるのが稽古数が少ないにも関わらずレブロットなのである。
四股を正しく踏むには強靭な足腰と体の柔軟さが必要となる。
レブロットにはその二つが備わっている、だからヨコヅナも素質があると言っていたのだ。決してただデブだから言っていたわけではないのだ。
因みに言うまでもない事だが、レブロットがやる気になってスモウの稽古に参加するようになったのは、オリアと一緒にギャンブル店で出会った次の日からである。
「最近凄いやる気になっているなレブロット」
基礎鍛錬が終わり、手合わせ前の休憩中にメガロがレブロットに話しかけた。
「ええ。頑張っているメガロ様を見ていたら、自分も頑張らねばと思いまして」
やる気になった本当の理由は全く別だが、メガロは
「そうかそうか。誘ったかいがあったと言うものだ」
疑う事などせず納得することを付き合いの長いレブロットは知っている。
「……そういえばメガロ様、噂で聞いたのですがコフィーリア王女と食事に行かれたとか」
「ふふふっ、そうなのだ。困ったな~噂になっているのか~」
困ったなどと言っているが表情は寧ろ嬉しそうに見える。実際嬉しいのだろう。
「どのようにしてあの王女様に約束を取り付けたのですか?」
レブロットから見るにメガロは全くコフィーリアに相手されてないと思っていた。(自分が全く女性に相手されない為、ネガティブ方面には鋭い)
だというのに二人で(側近メイドのユナもいたので正確には二人ではないが)食事に行くことに成功した。
レブロットはその方法が知りたかった。オリアを食事に誘う参考にする為に……。
「うむ、それはだな。……努力が実を結んだからだな」
「……それはつまり、諦めず食事に誘い続けたという意味ですか?」
「違う。いや、それもしていたが。自分が成長する為の努力を惜しまないという意味だ」
女性を食事に誘う方法を聞いたのに何故自分の成長の話になるのか……
だが付き合いの長いレブロットにはバカの考えを推測出来る。
つまり、最近鍛錬も仕事も頑張っているメガロに褒美として食事に付き合って貰えたという意味だろう。
レブロットはへばっていて話しすることも出来なかったが、コフィーリアがスモウの鍛錬を見学に来て、メガロと一緒に帰った事も知っている。自分は忘れられていたが……
しかし、レブロットの参考になるかと言うと微妙だ。
オリアはスモウの強い男性は格好良いと言っていたが、それを見る機会がない。
(……いや、弟であるヨコヅナの様子を見に来る可能性はあるか)
オリアが昔はヨコヅナが稽古してるのをよく見ていたと言っていたことを思い出し、可能性は少なくないと考えるレブロット。
「……となれば、毎日稽古に参加することは必須だな」
「そう!その通りだレブロット!」
独り言だったのだが、その言葉を聞いたメガロが大きく肯定する。
「毎日の努力の積み重ね。それが最も重要なのだ!」
力強くそう言うメガロ。
メガロはスモウの稽古に参加するようになって、変わったとレブロットは思っていた。もちろんいい方向にだ。
「……そうですね。俺も努力して成長してみせます」
スモウの稽古を頑張る動機は他にあるが、メガロを見習って自分も成長する為の努力をしようと強く思うレブロット。
「うむ、レブロットはやれば出来る奴だと私は思っているぞ」
メガロはバカだが素直なので嘘は言わないのだ。
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