第73話 まだまだ子供じゃ
「でもコフィーリア王女を「姫さん」なんて呼んでるんだがら、仲良いんじゃないの?」
「どうだべかな…、オラのことも「ヨコ」って呼ぶから悪くはないと思うだよ」
ヨコヅナは自信無さげだが他の者と比べれば別格と言えた。
他の者が「姫さん」などと呼ぶことをコフィーリアは許しはしない、どのような地位の相手であろうとだ。
ほとんどの者には「コフィーリア王女」「王女様」と呼ぶように徹底させている。
「以前噂で、直系ではないけど王族の年上の人が許可なく呼び捨てにしたからって理由で、王女に殴られたとか聞いたことあるよ」
この噂は王国中に知れ渡っているが、聞いた殆どの者が冗談半分の噂だと思っている。
やってもせいぜい軽くひっぱたいたぐらいで、それが誇張されて広まったのだと…
しかし真実は逆だ。
何度忠告しても呼び方を改なかったその王族をコフィーリアは
その事実を過小に情報操作されたのが噂として広まっているのだ。
「はははっ、姫さんなら有り得るだな。オラも何度か腹を殴られてるだ」
コフィーリアがヨコヅナの腹を殴る時も同等以上の力を込めているのだが、それを笑い話に出来るからこそヨコヅナは別格な呼び方を許されているのだったりする。
「ふふっ、何それ。本当に仲良いの?」
「王都には暴力的な女性多いから、腹を殴るぐらい普通じゃないだか?」
「そんな普通はこの王都にないわよ!」
「はははっ、そうだべか」
「そうだよ、あははっ!」
そんな楽しそうに話をしている二人を、申し訳ない気持ちもありながら、
「あんた達、私が忙しいのは知ってるでしょ。そろそろ終わりにしてくれるかい」
流石に時間がないためエネカが会話を中断させる。
「ご、ごめんだべ、エネカ姉」
元々エネカの愚痴を聞くためにここに来たのに、邪魔をしてしまっていることに気づいて慌てて謝るヨコヅナ。
「…そうだね、そろそろ帰るよ」
オリアもこれ以上ここに居るのは色々な意味で良くないと考え帰ることにする。
「帰るべかオリア姉、また会えるだか?」
「もちろんよ、ヨコは今どこに住んでるの?」
「ハイネ様…え~とハイネ・フォン・ヘルシングって言ったら分かるべかな」
「『閃光のハイネ』の事よね、その人がどうしたの?」
「ハイネ様の屋敷に住まわせてもらってるだよ」
「えぇ!!?」
今までで一番驚くことになったオリア。
「まぁ誰でも驚くわね」
エネカも初めて聞いた時は驚いた。
ハイネにヨコヅナが王都に住むことになったら手助けしてやって欲しいとは頼んだが、まさか自分の屋敷に住まわすとは思っていなかった。
「どうして…まさか、そういう関係なの?」
若い男女が一つ屋根の下で暮らしている理由として最も先に思いつくのは一つだ。
「どういう関係を言ってるか分からないだが、住まわせてもらっているのは姫さんの紹介だからだべ」
「王女様の?」
しかしオリアの想像とは全然違う答えが返ってくる。
「その辺も詳しくは言えないだ」
何故ハイネの屋敷に住んでいるのかと聞かれた場合、「コフィーリア王女の紹介だから」と説明するように言われているヨコヅナ。
それだけだと説明になっていないに等しいのだが、後は「詳しく言えない」とだけ言っている。王女様が関係しているとなれば、それ以上深く聞いてくる者はいないのだ。
先ほど迄と違いオリアでも全く推測の余地がない、しかし住んでいる場所さえ分かれば、会うことは簡単だ。
「…とりあえず住んる場所は分かったから、何時でも連絡が取れるよ」
そう言ってオリアは扉に向かい、
「二人の元気そうな顔が見れて良かったよ」
「オラもだべ。会えて良かっただ」
「また会いましょ。ヨコ、エネカちゃん」
笑顔で店を出ていく。
ヨコヅナはオリアが出て行った後もしばらく扉の方を見ていた。
「オリアと会えて嬉しいのは分かるけど…」
「オリア姉ちょっと変わっただな」
浮かれているのだと思ったエネカだが、予想に反してヨコヅナの表情は真剣なものだった。
「……ヨコ知ってるのかい?」
「何がだべ?」
もちろんヨコヅナはオリアの現状など知らない。でもオリアがヨコヅナの事を分かっているように、ヨコヅナもオリアの事を分かっている。
「オリア姉からタバコの匂いがしただよ」
ニーコ村に居たときは喫煙している人に近づこうとしないほどタバコの匂いを嫌っていたオリア。
そんなオリアからタバコの匂いがしている時点で、変わってしまった事が分かる。
「……オリア姉のことも気になるだが、先ずは仕事のことだべな」
「ひはは、ヨコも大人になってきたね」
体がデカくなっても子供だと思っていた弟分が、成長していることが分かって、嬉しいような寂しいような気持ちになるエネカ。
「仕事を忘れたら、またラビスに鞭で叩かれるだよ」
「…何やってんだい」
一瞬にして評価が元に戻る。
「清髪剤の件で用事があるんだったね」
「連絡にあった商品の入荷日の話だべが…」
「早めれそうかい!」
「悪いんだべが…無理だべ」
「ああぁんっ!!」
「怖いだよエネカ姉」
その後、予定通りエネカの愚痴を聞き続けることになったヨコヅナだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます