第70話 絶賛売り切れ中じゃ
ラビスの補佐のおかげがあり、清髪剤は無事発売された。
その売れ行きは、
発売してるエネカの店には開店前から長蛇の列が出来、商品を何度入荷しようと瞬く間に売り切れ。
大量に作っておいた在庫は空、それでも予約の注文が後を絶たない状況だ。
現場で販売していたエネカから、忙しすぎだと愚痴が来るくらいだ。
「こんなに高い値段なのにどうしてみんな買うだ?」
「だから言ったではありませんか、この値段でも必ず売れますと」
ヨコヅナは自室でラビスと清髪剤の売れ行きと今後の対処について話し合っていた。
ちゃんこ鍋同様安い方がみんな喜んで買ってくれると思っていたヨコヅナは、カルレインが考えてくれた値段の範囲で一番安い値段に決めていた。
しかしラビスが補佐になって直ぐに値段を上げることを進言したのだ。
ラビスが考えた今売られている清髪剤の値段は初めの値段の倍以上、カルレインの考えた一番高い値段よりもさらに高い。
ラビスは「必ず売れます」と断言し、カルレインも「良いのではないか」とあっさり言った為、不安はありつつも承諾したのだ。
「逆に安い値段だった場合、ここまで売れてない可能性もありましたよ」
「何でだべ?」
「王女やハイネ様が愛用しているという宣伝に疑心感が生まれるからです」
清髪剤が爆好評なのはコフィーリアとハイネが愛用している品だと、大体的に宣伝したからだ。
ワンタジア王国第一王女、コフィーリア・ヴィ・ダリス・ワンタジア。
元帥の娘であり、『閃光』の二つ名もつ将軍、ハイネ・フォン・ヘルシング。
文武両道で才色兼備の二人は王国に住む若い女性達の憧れの的である、二人が愛用していて効果を保証するとなれば、売れない方がおかしいと言って過言ではない。
これで清髪剤の値段が安いと、「こんな安い品を本当に王女が使っているか?」と疑問に思われるという理屈だ。
「広報にお金を惜しまなかったのも、その宣伝文句を信用度を上げる為ですよ」
投資されているお金をどんどん使っていくラビスを見て、オタオタしていたヨコヅナだったのだが、この結果を見て内心かなり
「商売って難しいだべな」
「売れる一番の理由は綺麗になりたいという女性の気持ちですけどね」
「髪は女の命ってやづだべか。そういえば清髪剤を売らせて欲しいって言ってきてる商人達はどうするだ?」
これだけの人気の品であれば当然、自分の店でも仕入れて売りたいと交渉にくる商人もまた後を絶たない。
「エネカさんを通してないものは全て無視してください」
「……でもお菓子とか貰ってるだよ」
商人の方もなんとか清髪剤を仕入たいから、責任者と仲良くなるために直接金銭は無いにしても贈物をくれる。
贈物は甘いお菓子が多い、それはラビスがこっそり「清髪剤の開発者は甘いお菓子が好物」という噂を流していたからだ。お蔭でカルレインは毎日お菓子に事欠かない。
「相手が勝手にくれるだけなので気にしなくて良いですよ」
「そうだべか…あと多くお金を払うから早く欲しいと言ってる人が何人もいるみたいだべ、エネカ姉が先に出来てる分だけでも渡して欲しいと言ってるだ」
「それも今は無視で。一度でも早く渡すと際限がなくなりますから」
「でもエネカ姉が困ってるみたいだべ」
清髪剤についての窓口はエネカが全て担当している、そのためクレーム等も全てエネカにいくわけだから、愚痴を言いたくなるのも無理はない。
「エネカさんには頑張ってもらうしかないですね。その分の利益の取り分を多めにしてますから」
「…オラが清髪剤作るのを手伝ったら、もっと早く作れるだか?」
「ヨコヅナ様一人加わったところで対して変わりせんし、もうすぐちゃんこ鍋屋の方も開店になりますのでそんな暇もありません」
ヨコヅナとしてはエネカが困っているから何とかしてあげたいのだが、私情で動くことが損害になる場合もある。
「……製造人員の増員はこちらでやっておきますので、ヨコヅナ様はエネカさんの愚痴でも聞いてあげに行ってください。ちょうど今日は定休日のはずです」
「仕事は良いんだべか?」
「視察も立派な仕事です。後は私の方でやっておきます」
「ラビスは一緒に行かないだか?」
「はい。ですので清髪剤の入荷日は予定通りであることを伝えてください。もし先に買いたいと言ってきている客が大事になりそうな身分の相手である場合、私は後日対応しますとも伝えてください」
「分かっただ」
そう言って立ち上がり、さっそくエネカの店に行こうとするヨコヅナ。
「……そういえばこの間、ニーコ村に行った時に思ったのですが…」
ラビスはヨコヅナと共に、ニーコ村へ清髪剤の材料採取の現場を視察に行ったりもしていた。
「ヨコヅナ様の口調は、ニーコ村での訛りというわけではないのですね」
ラビスはヨコヅナの口調はニーコ村独特の訛りだと思っていた。
エネカは商人の為、王都に来てから直したのだと考えていたのだが、ニーコ村に住む人でヨコヅナと同じ口調の人はいなかった。
「あぁ。親父がこういうしゃべり方だったんだべ」
「……王都で商売していくなら、直した方が良いかもしれませんね」
「ははは、じゃあオラに商人は無理だべな」
「直す気は無いということですか?」
「無いだよ」
ヨコヅナはそのまま部屋から出て行ってしまう。
「……父親に関わることには、不用意に口を出さない方が良さそうですね」
怒ったと言うほどではないが、冷たく断固としての拒絶がヨコヅナの言葉からは感じられた。
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