第63話 皆勘違いするの


「お姉さんに清髪剤の販売を担当して頂くのですね」

「エネカ姉とは同郷なだけで血は繋がってないだよ」

「そうなのですか!?」


 ラビスにしては珍しく本当に驚いているようだった。

 今日は補佐のラビスを材料運搬・製造・販売の各担当者に紹介して回っていた。


「見た目はヨコヅナ様と似てましたが、商いに関して有能そうでしたので仕事を任せられますね、ヨコヅナ様と違って」

「エネカ姉がちゃんこ鍋屋の方にも協力させて欲しいと言ってただがどうするだ?」


 ヨコヅナには仕事を任せれないと言われたのに、そこは聞き流してエネカにちゃんこ鍋屋の食材の仕入もやってもらうかの相談をする。


「……屋台の時はどうされてたのですか?」

「婆やの紹介じゃ」


 ヨコヅナの肩に乗っているカルレインが答える。


「値段と量と質のバランスはどうでしたか?」

「まずまずじゃな。ヘルシング家の御用達じゃから信用は出来るぞ」

「なるほど…ではちゃんこ鍋屋の食材もそちらにお願いしましょう。エネカさんには清髪剤に専念してもらいます」


 その他、色々と仕事の進め方について話し合いながらハイネの屋敷に戻ると、一台の立派な馬車が停まっていた。


「お客さんだべかな?」

「あれは…ストロング家の紋章」


 門には迷惑そうにしている守衛の他に二人の人影。


「待っていたぞヨコヅナ」


 腕を組んで仁王立ちするその男は、建国祭の時にコフィーリア達と一緒にいたメガロ。


「お久しぶりです~、ヨコヅナ様、カルレイン様、ラビス」


 もう一人はコフィーリアの側近メイドのユナであった。


「何をしているのですかユナ。そんな男を連れて」

「それがですね~…あ!」


 ユナが説明する前にメガロがヨコヅナに手袋を投げつけた。


「私の名はメガロ・バル・ストロング。貴様に決闘を申し込む」

「……どういうことだべ!?」


 全く意味の分からないヨコヅナ。


「説明をお願いしますユナ」

「姫様がですね~。ヨコヅナ様に膝をつかせる事が出来たら、メガロ様との婚約を考えても良い。と言ったからです~」

「……どういうことだべ!?」


 説明を聞いても全く意味が分からないヨコヅナ。

だが、ラビスにはそれだけでも通じたようで、簡単に言ってしまえばコフィーリアのいつものおふざけである。


「ヨコヅナ様、相手をする必要はありません」

「そこのメイド!男同士の決闘に口出しをするな!」

「ユナ、さっさとその男を連れて帰ってください。ヨコヅナ様は忙しいのです」


 メガロを無視してユナに話しかけるラビス。

 

「姫様が時間をかけなければ良いと言ってましたので~」


 ユナの言葉が終わる前に、完全に無視されたメガロが腰に下げた剣に手をかけ、


「おい!『混じり』、次に要らぬ口出しをしたら、その不気味な面をたたっ切るぞ!」


 メガロの行動に対してラビスが何か反応するよりも早く、ヨコヅナがラビスを庇うように前に出る。


「近くに訓練場があるから、そこで良いだか?」

「決闘を受けるという事だな、いい度胸だ」


 さっさと終わらせるのが最善だと考えたヨコヅナは、いつも鍛錬している訓練場で決闘することを提案する。


「私はここでも良いのだが」

「ハイネ様の屋敷の前を汚したくないだよ」

「フンっ、案内しろ」




 訓練場に向かう途中、ユナがヨコヅナに小声で話しかける。


「メガロ様は決闘と言ってましたが~、殺さないでくださいね~。出来れば後遺症が残るような大怪我もさせないで頂けると助かります~」

「分かっただよ」

「それと姫様からの伝言です~「勝ちなさい」だそうです~」

「……一応聞いとくだが」

「何ですか~?」

「有り得ないとは思うだが、オラが勝っても姫さんと婚約なんてことはないだべな?」

「…したいですか~姫様と婚やk」

「お断りしますだ」

「あはは~、姫様に言っときます~」

「それはやめてほしいだ」



 いつも鍛錬を行っている早朝と違い、訓練場には訓練をする兵士達がいた。

 ヨコヅナは端っこで良いと思ったのだが、メガロは訓練している兵達をわざわざ止めさせ、決闘する為に中央を開けさせた。

 しかも証人は多い方が良いとか言って、ヨコヅナ達を囲むよう観戦させている。

 皆が注目する中、対峙するメガロとヨコヅナ。


「武器を取れ」

「オラは武器を使わないだよ」

「むっ……ならば私も素手で戦う」


 そう言ってメガロは使うつもりだった模擬剣を投げ捨てる。

 さすがに決闘と言ったものの、メガロ自信も真剣を使うつもりはなかったようだ。


「気にせず、武器を使ったら良いだよ」

「決闘とは対等な条件で行うものだ。例え相手が平民と言えどな」

「…そうだべか」


 いきなり他人の屋敷に押しかけ、決闘を申し込むようなメガロだが、妙なところだけ律儀だったりする。

 その点はちょっとハイネにも見習って欲しいとか全然違うことを考えるヨコヅナ。


「あの男バカじゃの」

「ヨコヅナ様より圧倒的にバカですね」

「バカの極みと言えるかもしれませんね~」


 態々わざわざ恥を晒す様子を多くの者に観戦させ、実力差を自ら広げたメガロを最早憐れむような目で見る三人。

 しかもその上、


「私が勝ったら一つ約束してもらおう」


 有り得ない勝利の信じて疑ってない。


「オラは軍には入らないだよ」

「…何を言っている貴様」

「気にしなくていいだ」

「フンっ……私が勝ったら今後コフィーリア王女に近づかないで頂こう」


 ヨコヅナの方からコフィーリアに近づいたことなどなかった気もするが、ヨコヅナも負けるつもりはないので、


「分かっただ。……オラが勝ったらラビスに謝ってもらうだよ」

「謝る?何をだ」

「侮辱したことだべ」


 ヨコヅナが押し付けがましい決闘を受けた理由は、メガロが『混じり』『不気味な面』とラビスを侮辱したことにあった。


「…いいだろう。では始めるぞ」


メガロが構えるのを見て、ヨコヅナも手合の構えをとる。


「相手をしてやるだよ」

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