第37話 我が力を見るがよい


 貧困街にはゴロツキ達から四狂と呼ばれ恐れられている者達がいる。

 その内の一人は闘技大会でヨコヅナと戦ったヂャバラだ、四狂は強いのもあるがそれ以上に「狂っている」と皆が口を揃える。

 ヂャバラは魔素狂いによる異様な見た目と腕力から『狂腕のヂャバラ』と呼ばれていた。

 そして残りの三人の内一人が


「ケケケッ おもしれー奴がいるじゃねーか」


 いつの間にいたのか、高く積まれた瓦礫の上にヤンキー座りする一人の男。


「俺ともり合おうぜ、ケケケッ」

「次から次と色々出てくるだな」

「わははっ、思った以上に飽きない場所じゃな」


 嫌そうな顔ではあるが先ほど迄のようなやる気のない様子はヨコヅナには無い。

 それは男が今までのゴロツキ達とは違うと一目で分かったから、ヨコヅナが言った「狩る覚悟がある」ためだ。


「あれは!?狂刃のボーザ!」


手形男が驚きと共に叫ぶ。


「刻みがいがありそうだぜ」


 ボーザと呼ばてた男が瓦礫から飛び降りると背負っていた二本の剣を抜く。

 その剣は刃の部分がギザギザな異様な形状をしていた。

『狂刃のボーザ』と呼ばれているのは切れ味よりも痛みを重視したギザギザな刃で、相手を嬲り殺す残虐性からだ。


「一応言っとくだが、あんたと戦う理由なんてないだよ」

「ここじゃ、新入りや余所者が調子乗ってると痛い目みるんだぜ、ケケケッ」


 そんな理由が無くても殺る気満々なのが見て取れるボーザだが、それを邪魔する者がいた、


「ま、まて、そいつは俺の獲物だ…」


 軽くない負傷を負いながらも起き上がってきたヘンゼンだ。


「けっ、何が獲物だ。てめぇが生きてんのはその田舎モンがあまちゃんだからだろうが」


 ボーザの言う通りヨコヅナが殺る気なら容易にヘンゼンにトドメをさせただろう。


「くっ、…だが実際まだ勝負は終わっていない。聞けないというのであれば…」


 ヘンゼンがヨコヅナとボーザの間に入り構えをとる。


「ケケケ、虫の息のくせに四狂の俺と殺り合うってのか」

「フッ、弱い者虐めの通り名を自慢して恥ずかしくないのか」

「言うじゃねーか、ケケケケェー!!」

「アチョォォー!!」


 ヨコヅナを他所にヘンゼンとボーザの戦いが始まった。


「……オラ帰って良いだべかな?」




 血まみれで倒れ伏すヘンゼン。


「何が実践派だ、素手の時点で格闘技なんて全部お遊戯なんだよ!ケケケッ」


 ボーザは元傭兵であり、殺ることに躊躇いがないだけでなく戦闘技術も低くはない。

 ヘンゼンが万全であれば勝負は分からないが負傷している今では当然の結果だった。


「まぁ、準備運動にはなったか、ケケケッ、じゃあ死んどけ」


 ボーザが剣を振り上げトドメを刺そうするが、振り下ろす前に後ろに飛び退く、ヨコヅナの張り手をかわすためだ。


「おいおい、そいつはてめぇにとっても敵だろ、何で助けてんだ?」

「別に、殺すほどじゃないだよ」

「ケケ、ほんと甘ちゃんだな」

「……自分ではそうは思わないだよ」


 確かにヨコヅナは優しいとか甘いとか言われることは多い。


「甘ちゃんじゃねぇなら、てめぇはバカってこどだな!!ケケケェー」


 ボーザは素早く前に出ると共に、二本の剣で左右からの斬撃で胴体をなぎに来る。

 左右から迫り来るギザギザな刃に対して、ヨコヅナは自らも前に出る。

 武器を持つ相手と戦う場合必要以上に武器に恐れないことが重要だ。

 どんな凶悪そうな剣であろうと刃に当たらなければ、特に切先から中部の有効的な部分にさえ避ければ、大きく負傷することはない。

 ヨコヅナが前に出た為、当たったのは剣の鍔の部分、そして瞬時にボーザの両腕を外側から腕で巻き込むように捕らえ絞り上げる。

 ゴキッという耳障りな音ともにボーザの肘が曲がってはいけない方に曲がる。


「っぐぁぁ!!?」


【閂】相手の肘の関節を極めるスモウの技。本来であれば痛みで重心が上がった相手を投げるのだが、武器を持っている相手では逆に危なくなる為、ヨコヅナは躊躇なく腕をへし折ったのだ。

 そして痛みに叫ぶボーザの顔にヨコヅナは手を添える。


「フンッ!」


発勁もどきの衝撃でボーザが弾け跳ぶ。


「お、今度は割と上手くいっただな」

「ふん、まだまだじゃよ」


 確かにヨコヅナは優しいとか甘いとか言われることは多い、が決して自分ではそうは思わない。

狩る覚悟も狩られる覚悟も、あるからだ。



「さてと、そろそろ帰るだべかな」

「そうじゃな。日も傾いてきたしの」


 ボーザが立ち上がる気配がないのを見てそう言い、カルレインもヨコヅナの肩に飛び乗る。

 しかしまたしても、


「待ちやがれ!!」

「まだ出てくるだか」


 もううんざりなヨコヅナではあったが、ゴロツキ達もここまでされてあっさり帰す気はないらしい。

 どこから湧いて来たのか、ぞろぞろと50人を超えるゴロツキ達がヨコヅナを囲んでいた。

 手形男がもしもヘンゼンが負けた時の為に、集まるよう声をかけていたようだ、無駄に手回しのいい男である。


「お前が強い事は分かった、だがこの数には勝なわねえだろう」

「……本当に理解できないだな」


 ヨコヅナの表情から感情が消える。


「まてヨコ、ここは我がやろう」

「カル?」


 る気になったヨコヅナを止めたカルレインは、肩に乗ったまま指を一本上にあげる、

するとそこに光の剣が現れた。


「な!?魔法か?」


 その指を振ると光の剣が光速で発射され手形男の太ももを貫く。


「ぎゃぁぁー!!」


 叫び転げまわる手形男。

 今度はカルレインが腕をあげると頭上に無数の光の剣が現れる。


「なっ!?」

「何だこれは!?」

「や、やべぇ!?」


 集まっていたゴロツキ達が慌てふためく。


「串刺しになりたい者から来るがよい」




「誰もいなくなっただな」


 無数の光の剣を目の当たりにしたゴロツキ達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「攻撃力があるのは最初の一本だけで、他は見せかけだけじゃがな」


 パチンッと指を鳴らすと無数の光の剣は塵になって消える。


「そうなんだべか、でも助かっただよ」

「助かったのはゴロツキの方じゃろうがな。さてと腹も減ったしさっさと帰るか」

「……魔法ってほんと燃費悪いだな」

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