第30話 それは○○だからじゃろ 2


「わはは、今日も大量じゃな」


 森へ狩りに出ていたヨコヅナは大型の獣を何匹も獲ることが出来た。


「最近魔素狂いの獣が多くなってる気がするだよ」


 大漁ではあるが魔素狂いも含まれている。

 獲物を追うどころか探しすらしなくとも獲物の方から現れるのである。


「大気中の魔素量が増えてきておるからの」

「そうなんだべか?どうして多くなってるだ」

「周期的に増えたり減ったりするぞ。花粉みたいなものじゃな」


 魔素はこの星の生命力であり、大地から湧き出してくるとされている。

 星が活動的な時期は魔素の量が増え、星が静動的な時期は魔素の量が減る。


「じゃあそのうち減ってくるだか?」

「我の経験上1周期は10年ってとこじゃの」

「長いだな」

「…それだけに増加の勢いが気になるがの」


 周期が長いだけにゆっくり増減するものなのだが、ここのところの増加の勢いはその法則を無視している。

 急速な増加だからこそ耐性がついていない動物が魔素狂いになるのだ。

 他にも魔素の量が増える要因は存在するのだが、もしそちらが原因だとすると、


「……今考えたとて仕方ないかの」

「なんだかオラが襲われること多くないだか…」


 他の村の者が森に入っても魔素狂いに襲われたという話はあまり効かない。

 まるでヨコヅナを狙って来ているようだった。


「わははっ、ヨコはうまそうじゃからの」

「笑えないだよ」




 ヨコヅナが村に戻ると見知らぬ集団と鉢合わせした。


「何だべ?」

「な!?ば、化物!!」


 その中の一人がこちらを見てそう叫んだ。

 集団は端整な鎧を着て武器も持っている。物騒ではあるが盗賊の類には見えない。


「化物?どこにいるだ?」


 ヨコヅナが周りを見渡すがそれらしい存在は見当たらない。

 だが鎧の集団は武器に手をかけている。


「ヨコのことじゃろ」

「……失礼な人だべな」

「その格好では仕方なかろ」


 今のヨコヅナは狩った大漁の獲物を運んでいる。

 背負った籠には熊を入れ、首には大蛇を巻き、右手には猿を左手では狼を引きずっている。

 森から出てきたのを見たら化物と勘違いされても仕方ない。


「ヨコちゃん!今帰って来たのかい。丁度良かった!」


 そんな武装した集団の中にキキおばさんがいた。


「今ヨコちゃんとこにお客さんを案内するところだったのよ」


 少し前にも同じような台詞を聞いた気がするヨコヅナ。

 武装した集団は王都から来たのだそうだ。

 その既視感に嫌な予感も同じように感じる。


「オラに何の用だべか?」


 ひょっとして闘技大会を見ていて、軍か何かの勧誘かとも思ったが…


「君がコクマ病の治療薬を作れる少年か?」


 そう言って前に出てきたのは、武装した中で唯一の女性。

 女性が通るために他の者が道を開ける。


「突然失礼した。私の名は、ハイネ・フォン・ヘルシング」


 周りの者の対応からその女性が集団のリーダーか、もしくは地位の高い者だと分かる。

 歳の頃は20前後だろう、身長は成人女性の平均より少し大きい位で均整のとれた体つきをしている。

 赤みがかったブロンドの髪を後ろで纏め、蒼色の瞳をしていた。

 凛として威風あるたたずまいであったが、どこか焦りのようなものがハイネからは感じられた。


「…………」

「ヨコ、どうかしたのか?」

「いや…なんでもないだ。オラはヨコヅナだべ」


 一応自己紹介をしておくヨコヅナ。


「それでコクマ病ってなんだべ?」

「王都で問題視されている病だ。その病にかかった者は体中に黒いシミが出来て衰弱し、殆どの者が死に至っている」


 そう説明するハイネはどこか怯えているように見える。

 コクマ病は主に高齢の者がかかり、感染力は高くないが治療法が見つかっていない為、発症した者は助からないとされている。


「……ひょっとして村長がかかった病気だべかな」

「可能性はあるの」

「私達はヨツク町の医者からニーコ村の村長がコクマ病にかかってが治ったと聞いてここまで来たのだ」


 ヨツク町の医者とは栄養剤を飲んだ後、徐々回復にしてきた村長が念の為にと観てもらった大きな町の医者ことだ。

 治らないはずのコクマ病が治ったということで噂にはなったのだが、医療の知識もない少年が作った栄養剤を飲んだら治ったなどと、誰も信じていなかった。

 もともとコクマ病ではなかったのだろう、と思うのが普通だ。

 だがハイネは噂を聞いて藁をも掴む思いでここまで来たのだ。


「う~ん…確かに村長がオラの用意した栄養剤を飲んで元気になったのは確かだべ」

「っ!?…作れるのだな治療薬を!」


 ハイネは勢いよくヨコヅナに詰め寄る。


「あ、いや、その病気の治療薬かどうかは…」


 戸惑うヨコヅナの言葉を聞いていないのか、ハイネは深く頭を下げる。


「お願いだ!どうか父上を助けてほしい!」





 ヨコヅナの前には要塞のような豪邸がそびえ立っていた。

 入口の前には警備の兵士が幾人も立っている。


「ヨコヅナ様どうぞ中へ」


 この家の主人に仕える執事がドアを開けてヨコヅナに入るように促してくる。


「なんでオラ、こんなとこにいるだ?」

「それは王国軍元帥の病気を治してほしいと頼まれたからじゃろ」


 ハイネの父、ヒョードル・フォン・ヘルシングは王国軍の元帥。つまりワンタジア王国の軍部のトップである。

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