第11話 別に褌一丁でも良かったかの


 予選決勝の次の日、つまり王女主催の王都闘技大会本戦の当日。


 ケオネスはヨコヅナとカルレインのいる選手控え室の前に来ていた。

 本戦になると選手一人一人に個室の控え室が用意せれている。


「失礼するぞ。ヨコヅナ調子は……」


 扉を開くとヨコヅナが潰れていた。

 両足がパッカリ割れて、身体も前に倒れて全面が床についている。形を表現するなら【土】こんな感じだ。


「ど、どうしたヨコヅナ!?」

「あ、ケオネス様」


 焦ったケオネスだが何事もないように身体を起こすヨコヅナ。


「大丈夫なのか」

「何がだべ?」

「…それは何をやっているんだ?」

「ん?…あぁ、試合で怪我をしないように筋肉をほぐしてるだ」

「……そうか、体が柔らかいのだな」


 格闘において体の柔軟さは大切であり、ヨコヅナも父親からそれだけは怠らないよう教え込まれていた。

 ケオネスもそれは聞いたことはあるが、ヨコヅナの体格でこれほど柔軟な態勢になれるとは思っていなかった。


「邪魔してしまったようで悪いな、続けてくれ」

「もう終わったので大丈夫ですだ」


 そう言ってヨコヅナは最後に伸びをするようにして立ち上がる。


「もうすぐ試合が始まるが調子はどうだ?」

「ん~、やっぱりは緊張はしてますだ。でも体のほうは問題ありませんだ」

「それなら良い、緊張は誰でもするものだ。…対戦相手はケンシン流の者だったな」


 ケンシン流とは王国で一番広まっている格闘技の流派、ド田舎と言われるニーコ村でも名前が聞こえてくるほど有名だ。

 今大会でも16人中3人の選手がケンシン流に所属している。


「予選決勝の試合を見たが、体格はヨコヅナと同じぐらい大きく、その体格とパワーを活かした激しい攻撃で相手を倒していた」


 格闘の知識にとぼしいケオネスでは技術的なことは言えないが、予選決勝のように初手でしくじれば勝てないと考えていた。


「心配するでない、我がセコンドについておるからの」


 自信満々の笑みでカルレインが言い放つ。

 その自信がどこから来るのかわからないし、見た目子供のカルレインが言っても本来であれば信じれるものではないはずだが、不思議とその言葉で心配が薄まる。


「そうだな……私もセコンドにつきたいのだが規則でな」


 ケオネスのようなお偉いさんがセコンドについていると、対戦相手がそれを意識して勝つことに躊躇してしまう可能性がある、それを防ぐため推薦者はセコントにつくことは出来ない規則になっていた。


「では月並みのことしか言えないが、健闘を祈っているぞ」

「はい!頑張りますだ」




 予選とは違い本戦は端正で壮大な闘技場で行われ、試合を見る観客も数倍になる。

 そんな中でも隅々まで響き渡る声があった。


『まもなく第一試合が始まる時間となります。王都闘技大会!実況はわたしステイシーがお届けさせていただきます!そして解説はなんと!今大会の主催者である王女コフィーリア様に勤めていただきます。宜しくお願いします姫様!』

『ええ、宜しくね。頑張らせてもらうわ』

『わたしも精一杯頑張らせてもらいます!』


 そんなやり取りをヨコヅナは試合前の選手が控える通路で聞いていた。


「不思議な声だべな」


 ステイシーやコフィーリアの声は拡声器を使っているとはいえ、他の雑音も関係なしに耳に綺麗に届いていた。


「あれは体内魔力を使った発声方法じゃな」

「そんなこと出来るだか?」

「かなり特殊じゃがな」


 ただの大声ではなく、適度な音量で隅々まで響かすのは特殊な技術が必要となってくる。


「それをこういう場で使うと言う考え方がまた面白いの」

「これだと試合の内容や勝ち負けが広範囲に響き渡るわけだべな」

「じゃから格好悪い試合はするでないぞ」

「格好良い試合なんて分からないだよ」


 予選の時より何倍も多い観客にさらに王女や他のお偉いさん、その上自分の戦いは広範囲に解説される。

 予選の時も感じた伸し掛かるような緊張感がヨコヅナの気を重くする。


「カル、何か助言はないだか?」

「…ケオネスが相手はケンシン流とかに所属している選手と言っておったの」


 ケオネスに自信満々に言っていたので、カルレインから良いアドバイスをもらえるかと期待したヨコヅナだが、


「じゃがそんなことは気にせず、いつもの鍛練のようにやれば良い」


 返ってきたのはそんな言葉だった。

 いつものというのは当然スモウのことだろう。


「大会とは普段やってきたことを見せる場、特別なことなどする必要はない」


 期待したような的確なアドバイスではなかったが、それはそれでヨコヅナの気持ちを軽くした。


「そうだべか…じゃあ服を脱いだほうがいいだか?」


 ヨコヅナはいつも鍛錬の時は褌一丁だ。


「さすがに褌一丁は駄目じゃろ、脱ぐなら上だけにしておけ」




 ブオォォォォオーと準備完了を伝える角笛が鳴る。



『さぁー!!始まりました!!王都闘技大会本戦、その栄えある第一試合を務める選手の入場です!!』


  闘技場の客席を埋め尽くす観客達の声が通路で待つ選手にまで聞こえる。


『西方より登場するのは、実力未知数、ニーコ村から来た推薦選手、ヨ コ ヅ ナ~!!!』


  試合選手の入場の声が掛けられる中、ヨコヅナはため息混じりに今更湧いてきた言葉を漏らす。


「なんでオラ、こんなとこにいるだ?」

「それはヨコが闘技大会に選ばれた選手だからじゃろ」

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