第8話 屋台めぐりは楽しいの
「やっぱり王都は人が多いだな」
格闘大会に出場することになったヨコヅナはケオネスの用意した馬車に乗り、王都へとやって来ていた。
ヨコヅナが王都に来るのは初めてではないが、壮観な町の造りと人の多さに、落ち着きなくキョロキョロしてしまう。
闘技場の近くはさらに多くの人で賑わっていた。
「出店も出てるだな」
「お祭のようなモノだからな、観るだけの者にとっては」
「オラもお祭気分で来たかっただよ」
「はら、ほまふりきふんへほへはよはろ」
すでに出店で買った串焼き肉を頬ばっているカルレイン。
お祭気分でおればいいと言ったのだろうが、それができればそもそも悩んだりしない。
「ん?、カルお金はどうしただ?」
カルレインにお金を渡してないのに、出店の商品を買っていることに今さら気づく。
「ケオネスが買ってくれたぞ」
国のお偉いさんを呼び捨てのうえ、物を買わせているカルレイン。
「申し訳ないだケオネス様」
「気にしなくていいぞ。この旅での費用はすべてこちらで持つ、ヨコヅナも食べたい物があれば買うといい」
ケオネスは呼び捨てにされたことも気にした様子はなく、笑顔でそう言ってくれる。
「ありがとうございますだ、でも今は食べるのはやめときますだ」
「…そうだな、試合前に食べては動きづらいか」
「ケオネス!次はあれが食べたいのじゃ、良いか?」
良いか?と言いながらもカルレインはすでに屋台のほうへ進んでいる。
「あははっ、ああ良いぞ。好きなだけ食べるといい」
「おー、ケオネスは太っ腹じゃな」
「何を言う、この歳でも腹は出ていないぞ」
「わははっ、そうじゃな、スリムでステキなおじ様じゃ」
「ふふふ、そうだろ」
機嫌良さそうにケオネスはカルレインと屋台へ向かう。
「仲良いだな、あの二人」
言葉の綾でなく、カルレインが好きなだけの買い食いをしている間に試合の対戦表の発表時間となる。
今日行われるのは予選決勝の16試合。勝てば明日の本選に出場することが出来る。
試合会場に着き、貼り出された対戦表を見てみると、
『第1試合 ヨコヅナ[推薦選手]VSシバット[軍属]』
「いきなり試合だべか!?」
一番最初の試合だと分かり、さらに気が滅入るヨコヅナ。
「みたいだな、まぁ気楽にやればいい」
「順番など関係なかろう」
二人の言葉でも、試合が間近と実感し始めたヨコヅナの緊張が解けることは出来ない。
「[軍属]と書かれているのは、王国軍の兵士ということかの」
「ああ、名前に聞き覚えはないな。階級の低い者しか出場出来ないから当然だが」
「どんな人だべかな?」
ヨコヅナ達がまだ見ぬ対戦相手について考えていると、
「おやおや、そこに居るのはケオネス殿ですかな」
そう声をかけてきたのは、豪華な衣装を纏い派手な装飾品を着飾った太った男。
たるんだ肉とシワで解りづらいが年齢はケオネスと同じくらいと思えた。
「ジゲロ殿か」
ジゲロ・グル・ブータロン、王国でケオネスと並ぶ権力者の一人である。
二人の間に交友的な雰囲気はない。
特に口は笑っていてもジゲロのケオネスを見る目は敵意すら感じられた。
ジゲロは隣にいるヨコヅナへと視線を移す。
「彼が貴殿の推薦した選手ですかな」
「ああ、ニーコ村のヨコヅナだ」
「ニーコ村…グフフ、ずいぶん田舎者を連れてきたのですな」
「それだけの才能を見つけたということだ」
「ほほう…」
「それで…まさかとは思うが、ジゲロ殿の隣にいるのは…」
「まさかもなにも私が推薦する選手、冒険者のザンゲフですぞ」
ジゲロの隣に立っている男、頭はスキンヘッドで逆に顎にはあまり手入れをしていない髭が蓄えられている、体格はヨコヅナよりも一回り大きく、筋骨隆々とした体には無数の傷があり、歴戦の猛者の雰囲気が漂っていた。
ケオネスが何故まさかと言ったかというと、
「とても20歳以下には見えないだよ」
「30歳過ぎと言われても違和感ないの」
「年齢制限を忘れたのか?」
「無論覚えているさ、こう見えてザンゲフは紛うこと無き20歳」
「……20歳」
再度ケオネスはザンゲフを見て、
「王女が取り仕切る格闘大会で嘘は」
「嘘じゃねえよ」
嘘と決めつけているケオネスに腹が立ったのか、ザンゲフの大きな顔が詰め寄る。
「待て待てザンゲフ」
そんなザンゲフをジゲロがさがらせる。
「彼は冒険者として登録しており、登録記録で20歳あることが証明されている。いかにそれ以上に見えても記録上20歳であれば20歳であろう」
「……そうだな」
肯定しつつもケオネスはルールの隙間を通してきたなと考えており、20歳とは全く思っていない。
冒険者の登録記録などかなり曖昧だ。
推薦したジゲロも本当のところ20歳とは思っていなかったりする、他の者がザンゲフを推薦したのであれば抗議しただろう。
しかしザンゲフは正真正銘20歳である。
誰も信じてくれないが老けているだけで嘘はついていない、なのに嘘つき呼ばわりされる少し可哀想な男であった。
「けっ、俺はもう行くぜ」
「そうだな、では失礼しますぞケオネス殿、ヨコヅナ君本戦ではゼンゲフとあたらないことを祈っておきたまえ、まぁ今日勝てればの話だがね、グフフ」
そう言ってジゲロとザンゲフが闘技場へと向かっていった。
「相変わらず嫌味な男だ」
「おお!、そこにおられるのはケオネス様ではありませんか」
またケオネスの知り合いが、今度は大人数でゾロゾロと現れる。
ケオネスは王都で高い地位にあるため、取り巻きのような者も多い。
「ヨコヅナ少し待っててくれるか」
ケオネスはヨコヅナをおいて男たちの方へ向かう。試合前のヨコヅナを疲弊させない為の気遣いだ。
「むむ!、あれはまだ食べていない出店じゃ、ちょっと行ってくるぞ」
「カル!?もうすぐ試合だべ」
「すぐ戻るのじゃ」
カルレインもヨコヅナをおいて出店に向かって行ってしまった。
「はぁ…まったく。本当にもうすぐ試合なんだべな」
ヨコヅナはもう一度対戦表に載っている相手の名前を見る。
「シバット[軍属]……王国軍の兵士、アーク兄と同じだべな」
騎士になると言って村を出て、王都で兵士になった兄貴分のことをヨコヅナは思い出す。
村を出てすぐはたまに村に帰ってきて、王都での話を聞いせてくれたアークも、ここ2年ぐらいは会っていない。
元気にやっているだろうかとヨコヅナが考えたその時だった。
「っ!?、ひょっとして、ヨコか?」
同じように対戦表を見ていた一人が人波をかき分けて近づいてきた。
「アーク兄!?」
今考えていた相手が表れ驚くヨコヅナ。
「やっぱりヨコか!久しぶりだな」
「本当に久しぶりだべ!元気にしてるだか」
「おうよ、お前も元気そうだな…しばらく見ない内にまたデカくなったか」
「自分では分からないだよ、はははっ」
「あははっ、そうだな。…でも何故ヨコがこんなところに居るんだ?」
「実はこの格闘大会に出ることになってるだよ…」
ヨコヅナは出場する経緯をアークに話す。
「というわけだべ」
「じゃあ第1試合が…」
「オラの試合だべ」
「………そうなのか」
それを聞いてアークは対戦表を見て考え込む。
「どうしたべか?」
「お願いだヨコ!俺の頼みを聞いてくれ!!」
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