第3話 うまいの!!
モグモグモグ!
「ほのひゃんほとゆう」
「ちゃんと飲み込んでからしゃべるだよ」
よほどお腹が空いていたのか、リスのように頬を膨らませて喋ろうとするカルレイン。
熊を退治したあと家に戻ることにしたヨコヅナ。
細かいことはおちついた場所で話そうと言って、カルレインも当然のようについてきた、
行く宛のないと言う少女(見た目)を、追い払うのも気が引けるため一緒に帰ってきたのだが。
「このちゃんこ鍋という料理とても美味いの!気に入ったぞ」
ちゃんこ鍋はヨコヅナが父親から教わった得意料理だった。
「おかわりじゃ」
「カルレインはよく食べるだな」
小さい体のどこに入るのかと思うほどの食べっぷりで、ヨコヅナも一緒に食べているとはいえ10人分は作ったはずがなくなりそうな勢いだ。
「我のことはカルで良いぞ」
「じゃあオラもヨコでいいだ」
「ヨコはここに一人で住んでおるのか?」
夕食時に家族を待つ素振りもないかったヨコヅナ。
「そうだべ、母親はオラが小さいときに、親父も一昨年病気でなくなってからは一人だべ」
「そうか……」
「でも小さい村でみんなが家族みたいなものだから、寂しくはないだよ」
村は人が少ないため皆が協力しあって暮らしており、ヨコヅナは今では唯一の若者だけあって皆から息子のように思われていた。
「ふむ、ところでその熊はどうするのじゃ、食わぬのか」
「まだ食べられるだか?」
驚きを通り越してあきれるほとの食べっぷり。
「この熊は魔素狂いだから食べると腹壊すだよ。普通の熊なら村のみんなにも分けれるだが」
『魔素狂い』空気中にある魔素を体に取り込み蓄積されすぎ、その影響で凶暴化した動物をそう呼ぶ。
小型の動物がなりやすく、熊のような大型の動物がなることは少ないのだが、魔素狂いした動物を食べることによって、熊なども魔素狂いすることがある。
熊を持って帰ってきたのは、ほかの動物が熊の死骸を食べて魔素狂い化するのを防ぐためだ。
「その程度の魔素、我にはなんでもないぞ」
そう言ってちゃんこを食べながら熊を見続けるカルレイン。
「はぁ、……わかっただよ。でも下ごしらえがあるから食べるのは明日になるだ」
「うむ、それでよいぞ」
ヨコヅナの返答を聞いて満足そうにちゃんこを食べるカルレイン。
「カル、詳しい話を聞いていいだか?」
詳しい話とは当然自己紹介でのことだ。
「ふむ、そうじゃのう、ヨコは聖魔大戦のことを知っておるか?」
「……聖天族と魔族の戦いなら、おとぎ話として聞いているだよ」
ヨコヅナが聞いたおとぎ話とは。
大昔、サードリカ大陸で暴れて人族を苦しめていた魔族を、聖天族と呼ばれる天に住む一族が退治し人族を助けてくれたというものだ。
「事実とは違うが、まぁそんなところだろうの」
「違うだか?」
「聖天族が人族と共に魔族と戦って、結果人族が生き残ったわけじゃから間違ってはおらんがの」
人族が魔族によって虐げられていたのも間違ってはいないが、聖天族は人族を助けようと思ってたわけではない。
自らの目的のために利用していたに過ぎない。
「聖天族は人間を捨て駒のようにしか思っていなかったじゃろな」
「……考えてみたら、カルは人間の敵だべか?」
確かに人間と敵対する魔族側の勢力にカルレインは属していた。
魔族とは総称であり、一つの種を指すものではない。
魔族側は実力主義のためさまざまな種族の有能な者でトップを構成し統率されていた。
カルレインも魔族を統率するトップ、八大魔将の一人だった。
ちなみに八大魔将とは後に人間が命名したものであり、当時魔族達が名乗っていたわけではない。おとぎ話でも八大魔将は悪役として登場しており、残虐で凶暴な魔族として語られている。
「当時はの。戦争じゃから別に憎くも恨んでもおらん、今の人間と戦う理由などない」
「数多の都市を滅ぼしたとか言ってなかったべか」
「それはノリでいった言葉の綾じゃ、気にするな」
戦争は苛烈を極め、大陸は火の海となり、さまさまな種族が滅んでいった。
幾年にも及んだその戦争の結果は、共倒れであった。
「聖天族が勝ったわけではないだべか?」
「……うむ、聖天族は滅び、生き残りはいない…はずじゃ。奴らは本当に最後の一兵まで戦うイカれた連中じゃからの」
魔族側もカルレインを除き八大魔将は皆死んだ、統率か取れない魔族はバラバラとなって組織として活動できなくなった。
そしてさらに長い年月が経ち、生き残った種族で現在もっとも大陸を支配しているのが人族と言えるのであった。
「そう言う意味では勝者は人族と言えるかの、生き残った者勝ちじゃ」
ゴクゴク!とお茶を飲みながらカルレインはそう締めくくった。
「……聖魔大戦のことは分かっただが、肝心のカルのことが分からないままだべ」
「戦争で力を使いすぎて消耗したからの、長いこと寝ておったのじゃ。最近起きてからは今の世を旅しておる」
「ざっくりだべな。魔族なのに人間の少女の姿のしているのはどうしてだべ」
「我はあと二回変身を残しておるのじゃよ」
指を二本立ててニヤリと笑うカルレイン。
ヨコヅナにはカルレインの話が嘘か真かを確かめるすべがないため、正直聞いたところで何もわからないのと一緒であった。
見た目通り子供の与太話だったらいいなとさえ思っている。
「ん?じゃあ、カルは変身を解いたら……」
「何じゃ?」
聖魔大戦はおとぎ話になるぐらい大昔の出来事であり、そんな昔から生きていると言う事は、
「すごいおばあちゃんってこと熱っ!!」
カルレインの指先から放たれた光線がヨコヅナの肌を軽く焼く。
「誰がおばあちゃんじゃ!」
「……今の、何だべ?」
「魔法じゃよ」
「カルは魔法が使えるだべか……」
魔法と言う概念は知っているがヨコヅナ自身は魔法を使えない。国中でも魔法を使える者は1%といない聞いている。
「当然じゃ。そんなことよりこれからのことじゃが」
「これから?」
「うむ、しばらくここにやっかいになっても良いかの?」
「……しばらくだべか」
もう外は暗いし、明日熊を料理すると約束したため、泊まることはヨコヅナも拒むつもりはないが。
「熊から助けてもらった礼もある、モグモグ ふぁれふぁふうのうだはらの、ひろひろひゃふだへふほ」
「何故大事な所で口に物入れるだよ」
おそらく自分は有能だから役立つと言ったのだろう。食べ物を溜め込んだ頬袋が残念感を漂わせているが…
「別に礼なんて必要ないだよ」
熊を倒したのは自分の身を守るためでもある、カルレインを助けたのはついでと言える。
「見たところ寝床は二人分あるし、他に問題があるかの」
「泊める相手が残虐で凶暴な八大魔将というのが一番で大問題だべ」
「……そんなことか、我は残虐でも凶暴でもないからスルーでよいじゃろ」
「無視するには大きすぎる問題な気もするだが……はぁ、わかっただよ」
ツッコミつつもヨコヅナは、諦めたように了承する。
「その代わり、ちゃんと働いてもらうだよ」
「うむ、任せるのじゃ、わはははっ!」
口の周りを汚しながらも、親指を立てて笑うカルレイン。
なんだが不安しか感じないヨコヅナ。
そんな感じでヨコヅナとカルレインの同居生活は始まったのだった。
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