25僕は帰って来た!(ソウタ視点)




 僕が短期留学に出て半月ほど。



 別にユキヤに言われたからじゃないけれど、僕は誰かしらに自分の海外での暮らし振りを伝えていた。



「お、リンカからだな」



 ちょうど返信が来たみたいだ。



『ソウタ先輩メッチャ太りましたね(笑)』



 おいおい、日本には真似できない景観のオシャレなオープンカフェでの優雅なぼっちタイムをレポートした感想がそれか?



「まぁ、日本に引き籠っていると、そういう小さいことが気になるのかね、やれやれだ」



 確かにこちらに来て半月、本場のジャンクフードにハマり8キロほど太った。おそらく、親元に来たことで私生活の手間が掛からなくなったのも原因だろう。



『不健康だぞ!そんなことで、そっちでやっていけるのか?』



「はぁ……アザカ先輩は何を言ってるんだ?」



 そう独り言ちて、僕は苦笑い。



 そもそも留学はほとぼりが冷めるまでのこと。あの昇降口前の出来事による“公開失恋野郎”“勘違い野郎”などの僕への悪評が消えるまでの一時的なものなのだ。



 さらに、あえて僕が居なくなることにより、僕の存在を皆に自覚させる狙いもある。



 例えば、生徒会は僕の代わりに義妹のクリスが入ったみたいだけど、果たして僕なくして生徒会は回るのかね?



『特に問題ありません』



 というのはクリスの言だが……まぁ、その辺りは帰ったときのお楽しみということにしよう。



 そして、肝心のカナエにはあえてほとんど連絡を取っていない。



 それは、カナエにこそ僕の存在の大きさを自覚させるためだ。



 昇降口前でのリンカとアザカ先輩の好意を利用し、カナエに真なる想い――僕への想いを自覚させることには失敗したが、今回は僕自身がいなくなっているため効果は絶大だろう。



 ちなみに、あの騒動のあとにクリスによって、それら一連の僕の考えを詰問された際には――。



『え、なに言ってるんですか……? 登下校したり、昼休みを過ごしただけでカナエさんが自分に恋愛感情を持っていると思っていたんですか……? カナエさんは朝のじゃれ合いにも参加しませんでしたし、普段から兄さんが勘違いするような言動はなかったと思いますが……』



 まるでストーカーでも見る目……心外だ。だから僕は言ってやった、年頃の女子がずっと同じ男子と共に居る意味を考えてほしい。僕は鈍感系じゃない――ってね。



『はぁ……じゃあ、百歩譲ってカナエさんが兄さんに好意を持っていた時期があったとしましょう……』



 盛大な溜息を付いて言うクリスに、僕の方こそ呆れの溜息を禁じ得ない。



『でも、カナエさんから告白されたわけでもなければ、兄さんから告白したわけでもないのでしょう? ならそれまでじゃないですか? 心変わりだって当然ありますし、他の人からの好意を受け入れることだってカナエさんの自由でしょう』



 僕はすかさず、一度好意を持ったのならば、幼馴染として思い続けることこそが正しい道だろう――と説いてやる。



『なんですかそれは……好意の判断も一方的で曖昧、告白もなし、でも自分を思い続けることが正しいって……完全にメンヘラストーカーの考えですよ……』



 ふぅ……まったく話にならない。だから好意の根拠は、年頃の女子がずっと同じ男子と共に居る意味を考えてほしい、と言っているのに……無限ループだなぁ。



『そもそも、カナエさんのことが好きなら告白をすれば良いでしょう』



 本当に話にならない。僕がカナエをじゃなく、カナエが僕を――なのだ。



 しかし、それを言ったところ両親を呼ばれてしまい、とりあえず短期留学の運びとなった。



 まぁ、悪評のことがあったし僕にとっても渡りに船な話だったがね。



 こうして、僕は今回のことで留学経験も得た。僕の推すラノベでも陰キャぼっちが、“実は帰国子女”“実は英語ペラペラ”なんていうのはよくある話だ。



 僕はまた一つそんな“陰キャぼっち”に近付いたということだろう。



 しかし、嘆かわしいのは、こちらでもまったくそのことを理解されないこと。



 クラスメイトたちから――“キミは現実を見るべきだよソウタ”とか、“ナードが活躍するアニメの見過ぎだ”とか、“アナタがモテたのは顔が良かったからよ、決して中身じゃないわ”とか……皆から真剣に言われたときは、さすがに僕も信念が揺らいだ。



 しかしそんなときに、日本のナカマたちとの連絡で分かったって来たことがあった。



 どうやら僕が懸念していた、あの昇降口付近での公開告白の行き違いによる僕への悪評は、早期に火消しに走ったアザカ先輩の尽力と、僕が最後に残して行った爆弾(ユキヤとカナエの校内キス写真)が僕の計算通りに効いたらしく、今ではほぼ忘れられているようなのだ。



 スキャンダルには、さらなるスキャンダルをぶつける……まさに僕の読み通りの展開になった。



 ならば、ちょっと様子を見に戻ってみるのも良いかもしれない。



 それを試しにユキヤに言ってみたところ、ヤツは本性を現し戻って来るなと言って来たのだ!



『できれば今は戻って来ない方が良い。どうしても戻るなら学校には近付くな。前に説明した俺とカナエの写真の件でなぜかソウタが疑われてるんだよ。俺やカナエは気にしてないけど、学校側はちょっと重く見ているみたいだ』



 確かにあの学校は変なところで厳しいからな。ユキヤにしてはよく考えたストーリーじゃないか。



 まぁ、僕の帰りを阻止したいのも分かる。今や僕は海外経験のある“陰キャぼっち”だ。僕自身は望まないが、最終的にナカマが集い幼馴染のカナエが選ぶのは僕になるのだろうから。



 現に僕が推すラノベでも、陰キャぼっちは皆成功している。ひた隠しにした優れた容姿と、さらに隠し持っていた有り余る才覚で万事を解決し、人々のリスペクトを集め、ヒロインハーレムを築いている。



 もはや“陰キャぼっち”とは“陰キャぼっち”に非ず、“陰キャぼっち”とはチートキャラを示す隠語なのである。



 そして、僕は陰キャぼっち――つまり、ユキヤの小細工など通用しないのである。



 僕は即日で両親に願い出て、数日間の一時帰国の許しを得た。



 もちろん、今度問題を起こせばこちらに永住だと言われたが、まぁ上手くやるさ。




 そして――。




 僕は地元に一時帰国し、ユキヤの“僕を学校に近付かせたくない魂胆”を暴くため、あえて学校へと来ていた。



 半月振りとなる放課後の学校風景。



 僕はナカマの女子三人に連絡を入れたあと、学校の敷地内へと足を踏み入れる。



 すると、ふと視線を感じて、そちらを振り返って見てみると――。



 アザカ先輩と義妹のクリスが、懐かしい生徒会の面々を伴ってこちらへと駆け寄って来るじゃないか。



 やはり、皆僕を待っていたらしい。ユキヤ、残念だったなぁ!



 僕は義妹と先輩に向かって不敵に囁いた。



“I have been back.”



 ――と。



 そして、僕は捕まった。



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