20秘密の花園(カナエ視点)
放課後、なんだか元気がないユキくんに後ろ髪を引かれながらも、わたしは生徒会室までやって来た。
生徒会室には、もうアザカ先輩とリンカちゃんとクリスちゃんが待っていて、早速話がはじまった。
「突然呼び出して済まないな。早速だが、今日の休み時間にキミが校舎内でユキヤ君とキスをしていたという目撃情報が入っていてな」
「んんっ!?きすぅ!?」
ユキくんとそんな良いことしてないよ!?
「階段の踊り場で、ということらしいが……」
「あ、ああ!あれはキスじゃないです!ふーふーしてただけでっ……!」
慌てたわたしの言葉に、リンカちゃんとクリスちゃんが反応する。
「ふーふー?」
「なんですか、それ?」
六つの目に凝視されて、わたしは二日前のユキくんの告白のことから、ふーふー事件やその他もろもろのユキくんへのアプローチ、そして、今現在わたしが抱える後悔と素直な気持ちを洗いざらい白状した。
「なにやってんですかカナエ先輩……」
「す、すごいですね、カナエさん……」
「キミはアレだな、結構……いや、かなり大胆なタイプなんだな」
四人して顔を赤くするわたしたち。
「しかし、やはりユキヤ君からの強要などなかったようだな」
「え、強要!?そんなのないです!ユキくんはそんなことしないです!」
わたしは慌てて否定した。すると、リンカちゃんがニヤリと笑う。
「ですよね~、むしろカナエ先輩の方がグイグイ迫ってますしぃ」
「告白とかするんですか?」
クリスちゃんが真面目に聞いてくる。もちろん、すごくしたい。
「したいけど……今のわたしの立場でどうしたら良いのか……」
「ふむ、確かに何かきっかけがほしいところだな」
「それか、このまま押しまくってなし崩しちゃうかですねぇー」
「ユキヤさん崩れますか?」
リンカちゃんのとんでも発言に、クリスちゃんが首をかしげる。
「あたしじゃ無理だったけどぉ、カナエ先輩なら余裕でしょう!」
ん? あたしじゃ無理だった――?
「てへ☆ ぶっちゃけあたしって最初はユキヤ先輩の方に興味あったんでぇー」
照れ笑いを浮かべるリンカちゃんに、わたしは目を剥いた。
「なっ、なんで……?」
「いやぁ、あたしって入学したころにヤンキー集団にナンパされて囲まれたことがあるんですけどぉ、そこを助けてくれたのがユキヤ先輩なんですよー」
「あれ?でも兄さんへの告白のときは、兄さんが助けてくれたって……?」
クリスちゃんが疑問の声を上げる。
「まぁ、ソウタ先輩も横っちょで変わったポーズで威嚇してくれてたんで嘘じゃないですよ? でも、実際にヤンキー集団がビビってたのはユキヤ先輩の方でしたしぃ」
確かに、ユキくんは迫力がある。クラスでも“鎧の巨人”なんて呼ばれてるし。
「おいおい、告白のときは気を失って覚えてないと言っていなかったか?」
アザカ先輩からツッコミが入る。
「えへへ、実はちゃんと意識ありましたんで。っていうか、じゃないと誰が助けてくれたとかわかんないじゃないですかぁ」
「兄さんへの告白のときは“あとから聞いて”とも言ってましたが……」
「いやいや、そう都合良く現場を見ててあとから教えてくれる人なんか居るわけないじゃないですかー。ぶっちゃけ告白のための建前です!それにぃ、ソウタ先輩だって自分が助けた~みたいな空気出してますしぃ、それで気分良いなら良いじゃないですかー。だからおあいこですっ!」
な、なんだかリンカちゃんがすごい。
「そんな感じなんでぇ、最初はユキヤ先輩の方に興味があったんですけど、でもユキヤ先輩ってばカナエ先輩のこと好き過ぎるんですもん」
「ぅへへ」
顔がニヤケちゃう。優越感がすごいよ?
「ム……まぁ、それでもう一人のソウタ先輩はどうかな~って見てみたら、実は結構イケメンってことが判明したんで、好きになったって感じですかねぇ?」
リンカちゃんがあっけらかんと言う。
「フフフ、動機が不純だな。確かに正直なところ、私も大部分はソウタ君の意外な顔の良さへの好意だが、今では能力の方も買っているぞ?これはもうソウタ君争奪戦の勝者は私だな!」
アザカ先輩が不敵に笑った。
「えー、好きな理由なんて一つあれば十分じゃないですかぁー。ソウタ先輩だって、いつもあたしの顔と胸で視線を行き来させてますしぃ、きっとあたしの方がソウタ先輩と価値観も合うと思いますよぉ?」
リンカちゃんって年下だけど、結構大人なのかもしれない。
「それにぃ、アザカ先輩だって、最初はユキヤ先輩を生徒会に勧誘してたんですよねー?」
ええ!聞き捨てならないよ!?
「まぁ、そうだな。ユキヤ君は部活の関係もあって顔が広く私の学年にも知り合いが多いし、卒業した元生徒会役員からも紹介されたくらいだからな。当時は熱心に勧誘したものだ」
でも、結局ユキくんはサッカー部があるからって生徒会入りを断ったみたい。そんなユキくんをわたしはなでなでしたい。
「あれ、そういえば兄さんへの告白のときに“後輩の伝手でキミのことを知って”って言ってましたけど、もしかして……?」
クリスちゃんが尋ねる。
「うむ、ユキヤ君が入れないなら、ユキヤ君が推す人材を紹介してほしいとお願いした結果がソウタ君だ。というか、ユキヤ君の紹介でもなければ一人好きのソウタ君と知り合うこともないだろう?」
確かに、ソウタくんは昔からちょっと人見知りで友達も少なかったから、紹介する人がいるとしたらわたしかユキくんくらいだと思う。
というか、それもあって、わたしは小学校や中学校で、まるで窓口みたいにいろんな女の子からソウタくんへの恋愛相談とか紹介とか頼まれたんだし……。
「でも、ソウタ先輩じゃあ、勧誘に相当苦労したんじゃないですかぁ?」
「いや、ユキヤ君が話を通しておいてくれたのか、むしろソウタくんの方からユキヤ君を通じて、勧誘する場所として“校舎の屋上”と、役職として“雑用係”を指定して来たくらいで、十分くらい勧誘の言葉を尽くしたらOKをもらえた」
アザカ先輩が、あの指定は何だったんだろう?と首をかしげている。
「正直、コミュニケーション能力に難はあったが、事務仕事は得意だったようで今は助かっているよ」
なんだかいろいろなことが暴露されちゃってる。
そんな中、わたしたちの視線は自然とクリスちゃんに集まって――。
「ワタシですか? 別に秘密というわけでもないのですが……こちらに来た当初、ワタシを警戒する兄さんと打ち解けるために、兄さんの好きな小説の台詞を引用したことがあります」
クリスちゃんが、えっと……確か……って頭に指を当てながら考えてる。
「ああ、そうです “ずっと昔に約束したから”だったと思います」
そんな台詞、どう使ったんだろう?
「確か、ワタシが兄さんに“仲良くしてください”と言ったところ、“いいけどなぜ僕と仲良くしたいの?”と聞かれたので、その台詞を引用して使い作中のヒロインの真似をしたところ、そこから兄さんと打ち解けることができました」
クリスちゃんは家庭の事情で学校も家も国も変わっちゃって、それだけ必死だったんだろうなぁ……。
「ちなみに、ヒロインの真似ってどんな感じですかぁ?」
リンカちゃんが尋ねる。
「親愛の言葉と腕を組んでの登校です。リンカさんやアザカ先輩が兄さんに毎朝やってるのと同じです」
あれにはそういう意味があったんだ。
「そうだったのか、私はてっきりキミもソウタくんを、と思っていたのだが……」
「義理とはいえ兄妹なので、ワタシの倫理的にも宗教的にもそれはあり得ないです」
ぴしゃりと言い放つクリスちゃん。
「これで一応、みんなのヒミツが出そろいましたかねぇ」
「ふぅ、思わぬところで暴露大会となってしまったな」
「でも、カナエさんにだけ言わせるわけにいきません」
うぅ、みんな良い人だなぁ……なんて、わたしがちょっぴり感動していると、ちょうどそこに電話が鳴った。
「あ、わたしだ――ユキくん!」
画面に表示された名前に喜んで、つい声に出しちゃった。
当然、アザカ先輩にもリンカちゃんにもクリスちゃんにも聞かれて、なんだか生暖かい目で見られてしまう。
わたしは熱くなって行く顔を隠すため、こちらを見る三人に背中を向けた。
「あ、もしもしユキくん?部活終わったぁ?」
そして、もうハートマーク全開って感じで、わたしは嬉々としてユキくんの電話に出る。
次の瞬間には、血の気が引くような絶望を味わうとも知らずに――。
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