17グイグイ!!(カナエ視点)
教室に戻って暴走の熱が冷めると、わたしはまたしても激しい後悔と深い絶望に頭を抱えた。
わぁあああぁぁ……っ、なにやってるのわたしぃ……っ!
もうこれ以上ないくらいに熱くなった顔で、机の上に突っ伏しちゃう。
やっちゃったなんてもんじゃないよ。あんな、あんな――。
「うわ……カナっぺ耳まで真っ赤じゃん……」
「ユキヤ君連れ出してどこでナニしてたんだよぅ、カナエ~……」
近くの席の子たちが、授業中なのに気を遣ってか小声で冷やかしてくる。気を遣うならわたしにも遣ってほしい……って、やめてやめて、指でつつかないで!
周りの子たちがニヤニヤしながらわたしをつついて来た。なんだか浦島太郎に出て来るカメの気持ちがわかった気がする。
「んっ……やめ……っ」
くすぐったくて身をよじっちゃう。
「いひひ……カナっぺなんかエロ~ぃ……」
「でも感じてる場合じゃないかも……向こうで愛しのユキヤ君が同じ目にあってるし……」
え?ユキくん?
友達に言われて遠くの席のユキくんを見てみれば、ユキくんが近くの席の子たちに指でつつかれていた。
その瞬間、心臓が石みたいに硬く冷たくなって、次にはお腹の底からぐつぐつ煮え滾って来る。自然と目が細まって、ユキくんやユキくんにちょっかい出す子をじっと見つめちゃう。
「カナっぺ、こわいこわい……」
「っていうか、カナエでもやきもちとかあるんだ……」
うん、そこは自分でもびっくりだよ。ソウタくんに関することでは嫉妬なんて一度もなかったから、わたしはそういうのとは無縁のタイプなんだって思ってた。でも、実際は全然違ったみたい。
「うぅ、ユキくん……っ」
いじけたような呟きが、まるでユキくんに届いたみたいなタイミングで目が合って――こういうことがあると、あっという間にドロドロした気持ちがなくなって、嬉しくなっちゃう。
わたしはほんのりと顔が熱くなるのを感じながら、ユキくんに向かって小さく手を振った。
「んまぁっ……この子ったら手なんか振りはじめましたわよ……!」
「ちょっと、遠距離でイチャイチャしないで下さいませんこと……?」
友達のからかいにまた顔が熱くなる――ユキくんにバレちゃうからやめてぇ!
そして、こんな風に授業中もからかわれ続けたのに、休み時間には他のクラスメイトまで集まって来てひどい有様に……。
「ねぇねぇ、マジな話ユキヤ君に告ったりとかしたの?」
「いやぁ、もうそれどころじゃないよねぇ?」
「やぁ~ん、カナっぺぇ~、だぁ~いたぁ~ん♪」
くぅ、みんなおもしろがって……こんなの悪ノリだよ。ユキくんも掴まっちゃってるから傍に行けないし……。
ちょっと恨みがましい気持ちで友達を見ながら、ふと思い至る。
あれ、でもユキくんと噂になるのは悪いことじゃないんじゃ……?
「うん……あ、あのね!今日のお昼、ユキくんと約束してるんだけど――!」
わたしは掌返しで、寄って来た友達に相談を持ち掛けちゃう。
そして、昼休み――。
「ユキくん!」
アドバイスをくれた友達に“行っといで”とか“幸せにね”とか言われながら送り出される。すごくわざとらしい言い方だし、絶対にからかってるってわかるんだけど、ぐっと胸が詰まる。こんなシチュエーションに幸せを感じちゃってるわたしがいる。
――だめだめ、ちょっと落ち着いて、ユキくんに引かれちゃうから。
ユキくんの前に立つとすごく緊張して来たけど、勇気を出してわたしは言った。
「ユキくん、中庭でご飯しよ?」
なんだか甘えた声が出ちゃって恥ずかしかったけど、なんとかユキくんを誘うことができた。
ユキくんは中庭っていうところにすごく驚いてたけど、無理もないと思う。わたしだって、自分がカップルばっかりの中庭でご飯だなんて夢みたいだもん。
わたしは、ユキくんが驚いて固まっちゃったのを良いことに、手を繋いでユキくんを先導することにした。
自分とは全然違う大きくてごつごつしたユキくんの手に不思議な気持ちになりながらも中庭まで連れて来たところで、正気に戻ったユキくんに強く手を握られてびっくりしちゃった。だって、すごい力なんだもん。
それに、まだちょっとだけズキズキする手に、ドキドキしたりもしてる変態っぽいわたし……。
そんな気持ちを知られたくないのもあって、わたしはユキくんを強引にベンチに座らせちゃう。
本番は、ここからなんだから――。
「あ、あのね、ユキくん。これ……」
わたしはこっそり用意していた小さなお弁当をユキくんに差し出す。
受け取ってほしい、食べてくれるかな、やっぱり迷惑だったかも、事前に聞けばよかった……なんて色んな期待と不安が渦巻く中、ユキくんはすごく喜んで受け取ってくれて、これでもかっていうほどに褒めてくれた。
わたしはユキくんが褒めてくれる度に、嬉しくって、恥ずかしくって、喉の奥がコロコロとくすぐったくて、すごく幸せな気持ちになる。
最後には嬉しくて目まで潤んできちゃって、慌ててユキくんを止めちゃったくらい。
「う、うれっ、しいけどっ……はずかしぃ、からっ……そ、そのへん、で……っ」
顔は熱くて目が潤んで声も震えちゃって……は、恥ずかしい。
でも今はちょっと落ち着いて、美味い美味いってお弁当を食べてくれてるユキくんを見ながら、わたしもお弁当を食べてる。
それにしても、ユキくんの手って大きい。元から小さいお弁当箱がもっと小さく見える。それに――。
「やっぱり男の子ってすごい力だね」
さっきも思った素直な感想を言ってみる。わたしとしては、ユキくんに強く握られてズキズキしてたのがなくなっちゃって寂しささえ感じてたくらいなんだけど、ユキくんは申し訳なさそうに言った。
「本当にごめんな……手、大丈夫か?」
「えっ、あ、うん!全然平気!大丈夫だよ!」
ユキくんに気を遣わせちゃったことに慌てて、わたしは誤魔化すようにユキくんの腕に触る。
「わ、わぁ、やっぱり腕とかすごいね!そのっ、太くてっ……かたくて……熱くて……えっと……」
二の腕とか盛り上がっててすごい、肩も大きくて、胸板も厚くて広い。わたしと全然違う身体。めずらしくって、不思議で、ついつい撫でまわしちゃう。
「カナ、エっ……ちょ、ちょっ、と……っ」
絞り出すようなユキくんの声にはっとして、自分がなにしてるのか自覚する。それで、次には爆発するみたいに顔が熱くなって、いい加減学習しない自分に嫌気がさしちゃう。
「ご、ごめんなさい。ついすごくて……へへ、えへ」
誤魔化すように笑いながら謝るけど、ユキくんの二の腕を触る手はそのままで――うぅ、わたしの変態……っ。
でも、今までは意識しなかったけど、ユキくんも男の子なんだなぁって思った。
正直なところ、もう少しだけそうしていたい気持ちもあったけど、わたしもユキくんもいろいろ限界で、昼休みもなくなっちゃうからここまで。あとは普通に、他愛もない話をしながらご飯を食べた。
そして、二人で教室の階までゆっくり戻って来る。
「弁当マジで美味かったよ、ありがとう。じゃあ、俺はトイレ寄って行くから」
「ううん、こっちこそ突然持って来たのにありがとう。あ、そうだユキくん――」
「うん?」
「今日ね、いっしょに帰らない?ふ、ふたりで……」
いっしょに帰るのを誘うのが、こんなに緊張することだなんて思わなかった。断られたら、どうしよう。
「あー、でも、俺部活が……」
「ま、待ってるからっ……だめ?」
祈るような気持で聞く。
「っ……分かった。じゃあ、一緒に帰ろう」
ユキくんは一瞬言葉を詰まらせたけど、笑って頷いてくれた。よかったぁ。
そして、ユキくんとは階段前で別れて、わたしは一足先に教室へ。
足取りが軽くって、鼻歌とか歌っちゃうそう。
ユキくんとの約束にすっかりと気を良くしていたわたしだったけど、教室に戻る途中で――。
「あ、カナエ先輩っ」
「カナエさん、ちょっとお時間良いですか?」
リンカちゃんにクリスちゃん、それに、アザカ先輩がいた。
「本当にすまないが、今日の放課後に生徒会室まで来てほしい」
みんな申し訳なさそうな、弱ったような顔をしてる?どうしたんだろう?
わたしはユキくんの部活終わりのことを考えながら、アザカ先輩の言葉に頷いた。
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