6誰も傷付けたくない(ソウタ視点)




 いつものように、僕は三人の美少女にまとわり付かれながら学校までやって来た。



 そして、登校する生徒たちが集う学校の敷地内に入ると、僕らへの注目はより一層に強いものとなる。



 やれやれ、僕は目立ちたくないのに……。



 周囲から無遠慮に向けられる嫉妬だとか羨望だとかの視線にうんざりとしながらも、僕は自分に絡みついている義妹に先輩に後輩が、絶対に許さないであろう願望を脳内で叫ぶ。



 誰かぁ!今直ぐに僕と変わってくれぇ~!



 ――って、現実でそんなこと言えば、僕の苦労を知らないお気楽な者たちからの理不尽なフルボッコは不可避だろう。でも、僕は本気でそう思っている。平和なぼっちライフのためにも、この現状を何とかしたいんだ。



 そのためにも、僕は定期的にネットの掲示板などでも解決案を模索している。決して口だけではない。



 その証拠に、最近僕がネット掲示板に立てたものがこれだ――。



『美人の義妹と先輩と後輩にまとわり付かれて困っている誰か解決策』



 対する書き込みは、『妄想乙』『病院逝け』『昔のエロゲ』などなど、ほとんどがひがみ交じりの的外れな誹謗中傷ばかりなのだが、中には『本人たちに直接言え』『逃げる』といった比較的マシなものもある。



 でも、僕は彼女たちの気持ちを無視したり傷付けるような真似はしない。もし仮に、僕が直接やめるように言ったり逃げるようなことをすれば、三人は確実に傷を負ってしまうだろう。僕はそれを良しとしないのだ。



「それじゃあ、先輩」



「また、です。兄さん」



「では昼休みか放課後にな、ソウタ君」



 昇降口のところでやっと三人の美少女から解放された僕は、それぞれ違う方向へと向かう三人の背中を見ながら溜息交じりに独り言ちる。



「学年別で昇降口の場所も違うっていうのに、毎朝良くやるよ、あの三人は……本当に、やれやれだ――」



 正直、そのやる気と時間をもっと別の有意義なことに使うべきだろうと、さすがの僕も少々呆れてしまうが、それが彼女たちの“センタク”ならば、僕からは何も言うまい。



 しかし、そうは言っても、僕は自分のぼっちライフを守るため、これ以上周りから誤解を受けるような現状をどうにかしなければならない。



「何か良い案はないか……僕以外の誰かに、僕の知らないところで……例えば、ユキヤからあの三人に自重するように言ってもらうとか……」



 僕は、図体のデカイ幼馴染を思い浮かべる。



 ユキヤなら、サッカー部の朝練で僕たちと一緒に登校することもないし、注意したことで三人と多少気まずくなろうとも大した弊害はない。その後で僕がフォローしておけば大丈夫だろう。



 などと考えを巡らせている内に、自分の教室に着いた。



 僕はホームルーム前のざわつく教室内を縫うように歩き、自分の席までやって来る。



 すると、僕の斜め後ろに位置するいつもの席に、カナエの姿が――。



 ああ、そうだった、カナエのことがあったんだ。



「おい、カナエ」



「え――あ、おはようソウタくん」



 ふにゃりとふやけたように微笑むカナエ。



 人の毒気を抜くようなその顔に、僕は口元を吊り上げながらもやれやれと首を振る。



「まったく……今朝いつもの場所で待ってなかっただろ。心配したんだぞ。今後は先に学校に行くなら行くって僕に連絡を入れろよ?」



 そう注意して、僕はカナエの頭に手を伸ばし、軽くポンポンしてから手を離す。



 カナエはキョトンとした後に首を傾げながら言った。



「え……あ、うん、ごめんなさい……」



 まったく、ちゃんと分かってるのかね? この幼馴染様は――。



 でも、そんな察しの悪さも愛嬌なのかな、とそう思うことにして、僕は苦笑い。



 言うべきことは言ったし、さっさと自席に戻ることにしよう。



 そして、カナエに背を向けたその瞬間、僕の脳内に奇策とも言うべき名案が浮ぶ。



 そうだ、義妹や先輩や後輩に人前での僕への絡み合いを自重してもらうのに、カナエに協力してもらうのはどうだろう。



 例えば、僕とカナエがもう一段親密になることでカナエの発言力を高めると共に、それを以ってしてカナエに三人を御してもらい、そうして僕らのナカマ内を取り仕切ってくれれば良い。



 僕が愛読するラノベなどでも、似たようなシチュエーションでそういった解決方法が取られている。やはり、書籍から学ぶことは多いということだろう。



 それに、もしその延長でカナエと付き合うようなことになっても、そのときは僕も年貢の納め時と腹を括ろうじゃないか。



 僕は自分の席から振り返り、改めてカナエを見る。



 カナエは自分の席で、ハンドタオル?だろうか、両手で広げたそれを自分の顔に押し当ててじっと固まっていた。



 耳が赤くなってるけど、苦しいんじゃないのか、あれ。



 不可解な行動には首を傾げざる負えないけれど、そんなところも幼馴染である僕ならば許せるというもの。



 それに、陰キャぼっちである僕には、北欧系美少女の義妹や、完璧超人生徒会長の先輩、小悪魔系美少女の後輩たちよりも、愛嬌のある幼馴染のカナエくらいがちょうど良い。



 まぁ、とりあえず、ユキヤに頼むかカナエに協力してもらうかは、今日一日くらい考えて決めるとしよう。



 今後の方針を決めた僕は、鞄から取り出したラノベを広げ、ホームルーム前の僅かな時間を楽しむのだった。



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