2振った、けど…(カナエ視点)
わたしには、幼稚園の頃からずっと一緒の幼馴染が二人いる。
ソウタくんとユキヤくん。
どちらも昔から仲良くしてくれるわたしの大切な幼馴染。
ソウタくんは昔から“いつもは目立たないけど実は勉強も運動もできるスゴイ人”で、見た目も“一見地味に見えるけど実はアイドルみたいに顔の整ったカッコイイ男の子”として有名だった。
特に女子の間では密かに話題に上がることも多くって、中学にもなると、紹介して!なんていう子も出て来て、実際に告白する子もいたみたい。
わたしはソウタくんと幼馴染だったから、よく頼まれたり、相談されたりした。
『ソウタ君ってよく見るとカッコイイ』『ソウタ君って何気にモテるよね』『カナエってソウタ君と幼馴染だよね?紹介してよ~』『ソウタ君に告ろうと思うんだけど……カナエはどう思う?』
幼馴染として近くにいると気付かなかったことが、そうやって周りから聞かされる度に意識して、わたしはいつの間にかソウタくんのことを目で追うようになっていた。
そのことを何気なく友達に話したら、やっぱりカナエもソウタ君ねらいか~って言われて、それからは特にソウタくんを意識し始めたのを覚えてる。
自分が恋をしてるんだって思うと、段々ドキドキしてきて、恥ずかしくって、嬉しくなって、それだけで毎日が楽しくなった気がした。
そうすると、今までと変わらないソウタくんの話や気遣いなんかも、何だかすごく嬉しくなって、それを自分に向けられることは幸せなことなんだって、幼馴染だから周りの子よりもソウタくんの近くに居れることは幸運なんだって、そう思えた。
“わたしは、ソウタくんに恋をしている”
それが、わたしの自己認識だった。
その、はずなのに――。
わたしは、数十メートルほど先を行くユキくんの背中を恨みがましい気持ちで見詰めていた。
ユキくんが、わたしに告白なんてするから……わたしに……こくはく――っ。
つい、さっきの光景を思い出しちゃう。
すると途端に顔が熱くなって、胸の奥が苦しくなった。
「うぅ……っ」
身体の内側から何かが弾けちゃいそうな気がして、それを我慢しようと自分の両肩を抱いて一人でぶるぶる震えちゃう。
隠れてユキくんの後をつけて、物陰で一人で震えてるなんて――今のわたし、絶対に変だよ……。
そもそも、ついさっきまでのわたしとユキくんの間にあった出来事を考えれば、少し時間を空けるなり、別の道で帰るなりするべきだったのに、わたしは遠ざかるユキくんを見て、自然とその背中を追いかけてた。
どうしてなのか分からないけど、無意識の内にそうしちゃってた。
わたしはソウタくんに恋をしていて、だからユキくんにも、そう言ってきちんとお返事をしたつもりなのに……。
こんなんじゃ、自分の気持ちにも行動にも自信が持てなくなってくる。
そして、そうこうしている内に、わたしは自分の家の前まで着いてしまった。
ユキくんのお家はもう少し先だから、当然ユキくんはまだ歩いている。
「どうしよう……」
遠ざかるユキくんの背中に気持ちがざわついて、無意識に呟いてた。
わたしははっとして、まるで振り切るように家の中へと駆け込んだ。
「あら、おかえりー」
玄関を入ったところで、お母さんと鉢合わせる。
「ぅあっ……あ、た、ただいまー」
頭が混乱気味だったわたしは、つい変な声をあげてしまった。
「なぁにその反応? 失礼ねぇ~」
「う、その……ごめんなさい……」
自分でもどうかと思うくらいにしおらしい態度。これじゃあ、何かあったって言ってるようなものだよ……。
案の定、お母さんも疑わしそうに目を細めてわたしを覗き込んでくる。
わたしはいろいろと見透かされたくなくって、考えないようにすると余計に浮かんで来てしまうユキくんのこと。
か、顔が熱い……。
「ふ~ん? ははーん、お母さん、分かっちゃった♪」
にんまりと笑うお母さん。
わたしの喉が、ひっ――と小さく引きつった。
「ふふふ、スルーしてあげたいところだけど、面白そうだから指摘しちゃう!ズバリ、男の子ね!」
「あ、うぁっ……ち、ちがっ、違うヨ!」
カタコトの反論に、自分自身で絶望しちゃう。
「う~ん、そうねぇ、相手は~……」
「もうっ!お母さんっ!」
相手まで当てようとするお母さんに、わたしは大声をあげて抗議した。
っていうか、お母さんも知ってる男の子なんてほとんどいないんだし、特に今回はすぐに正解しちゃうよ!
お母さんが、分かった分かった、って笑いながら手をひらひらさせる。
わたしは、これ以上からかわれないように二階の自室へと逃げ込むことにした。お母さんの横を通り過ぎて、階段を足早に駆け上がる。
「でも――」
と、そんなわたしの背中に投げ掛けられたお母さんの言葉に、また大きく心を揺さぶられることになった。
――バタン。
自分の部屋に入って扉を閉める。
顔が熱い。目もじわりと潤んで、心臓がドクドクと鳴っている。
そして、そんな状態で自然と思い浮かぶのは、やっぱり帰り道でのユキくんとの出来事。
今日は、いつも一緒に帰っているソウタくんが他の女の子に呼ばれちゃったのと、ユキくんの部活のお休みが重なって、めずらしくわたしとユキくんの二人きりでの下校になった。
その帰り道の途中で、わたしはユキくんから告白をされたんだ……。
ユキくんは、真っ赤な顔で言葉に詰まりながら、それでも一生懸命に伝えてくれた。
『お、俺と……つ、付き合って欲しい!』
それを聞いた瞬間に、これまでにないくらいに胸が高鳴って、苦しくなった。
「ソウタくんにだって、あんなにドキドキしたことなかったのに……」
それにあのとき、告白して頭を下げたユキくんに、わたしは息を飲みながらも無意識にこう答えようとしていた。
『ぁ、は“い”――……』
わたしは、ユキくんの告白を自然と受け入れようとしてた。
偶然、途中で声がかすれて返事にはならなかったけど……どうしてだろう? わたしは、ソウタくんに恋してるはずなのに……。
もしかしたら、わたしは浮気性の軽い女の子なのかもって、不安になってくる。
「はぁ……も、もうだめっ、ユキくんのこと考えるのやめなくちゃ!」
でも、そう思えば思うほど、余計に意識して考えちゃう。ううん、何も思わなくても、自然と頭に浮かんできちゃう。
「あぁ、もうっ……ユキくんの所為だぁ……っ」
自分でもびっくりするくらいに甘えた声が出て、また顔が熱くなる。
今はどうしたって、ユキくんのことを考えちゃうのは仕方がないのかもしれない。だって、それだけのことがあったんだし、大切な幼馴染の男の子が“好き”って言ってくれたのは、答えられなくっても、やっぱり素直に嬉しい。
そう思うと同時に、さっきお母さんから投げ掛けられた言葉を思い出す。
――でも、そんな顔しちゃって、満更でもないっていうか、余程嬉しかったのねぇ~。
「ふはぁ……っ」
火照った身体から熱を吐き出すように溜息をついて、何気なく部屋にある姿見に目を向けた。
そこには、赤ら顔で目を潤ませて、だらしなく相好を崩した、わたしがいた――。
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