俺を振った幼馴染がグイグイくる!
高速イボコロラー
1フラれた!(ユキヤ視点)
高校からの帰り道。
俺は積年の想いを、幼馴染のカナエに伝えることにした。
いわゆる、愛の告白というヤツだ。
「あ、あのさ……カナエ――」
「ん、なぁに?」
いきなり声をあげた俺に、カナエがほんわかした微笑みを返してくる。
思わず、かわいい……なんて呆けた声がもれそうになるけれど、寸でのところで踏み止まり、軌道修正。
「お、俺らってさ、もう結構長いこと一緒に居るよな」
「そうだねぇ、ユキくんとは幼稚園のころから一緒だもん。高校も一緒だし、この分だと大学も一緒かもしれないねぇ」
ふやけたような微笑みで、のんびりと答えるカナエ。
すごく癒される反応だけど、そんな偶然みたいに言われるのはちょっとだけ心外だ。
俺たちの高校が一緒なのは、俺がアホなりにもがんばってカナエの志望校に合わせたからなのに……。
と、カナエの与り知らぬことで、俺は理不尽と知りつつもガキみたいに拗ねてしまいそうになる。
ああ、ダメだ。告る前からカッコワリィ……。
もういっそ、告白自体を見送ろうかともヘタレるが、今日この機会を逃したら次はいつ二人で帰れるか分からない。
だから根性を見せろ、俺!
「あー……そのっ……その、さ……」
だが、いざ言葉にしようとするとまったく頭が働かない。脳内が白く塗りつぶされて、顔の熱さだけがやけに鮮明に感じられる。
そんな俺に、カナエも「ん?」と小首を傾げている。
早く、早く言わないと――。
「お、おれ、さぁ……これからも……カナエと、一緒にいたいっていうか……っ」
もうここまで言ってしまったら、鈍いカナエでも気が付いたかもしれない。
俺はカナエの顔を見ることができず、目を瞑って俯いて、ただ必死に言葉を吐き出した。
「お、俺っ!カナエのことがっ……す、好きなんだっ……!」
声は震えてどもりまくって、ダサいことこの上ない。
でも、最後くらいはハッキリと伝えたい。
「お、俺とっ……付き合って欲しい!」
俺は頭をさらに下げ、そう懇願した。
「ぁ、は――……」
俺の頭上から、カナエの息を飲む気配が伝わって来た。微かにもれたその声は、何かを言おうとしたようにも、ただ息を吐いただけのようにも聞こえる。
そして、無言の瞬間が生まれ――正直、生きた心地がしない……。
やがて、カナエが口を開いた。
「あ、あの……わたし……びっくり、しちゃって……」
カナエの狼狽え方に、俺からの告白はまったくの予想外の出来事だったのだと知る。
自分としては、これまで露骨にカナエを特別扱いしてきたつもりだ。カナエが少しでも髪を切ったりお洒落をすれば、いち早くそれに気が付き褒めるようにして、誕生日やクリスマスプレゼントも奮発して、ホワイトデーは三倍返しが基本。困っていることがあればその都度、手伝い、気遣い、解決に尽力した。
カナエに好かれようと勉強も部活もお洒落も頑張った。勉強は万年赤点だった中学時代とは打って変わり、教科によってはカナエに教えられるほどになった。部活だって小さい頃にカナエがカッコイイと言ってくれたサッカーを続け、高校ではレギュラーを勝ち取った。お洒落だってカナエの好みに合わせて服装や髪型を整えていた。
だが、そこまでしても、長年のアピールが届いていなかったことに俺は決して少なくないショックを受けた。
いや、すべては俺側の勝手な行動だし、カナエがそれに気付かなきゃいけないなんてことはない……。
しかし、どうしようもないやるせなさと後悔が、俺の背中に圧し掛かって来るようだった。
そして、カナエの次の一言で、これまでの総決算が出てしまう。
「えっと…………ご、ごめんなさい……っ」
苦しそうに、言い辛そうに、そう告げられた。
「わたし、ね……ずっと……き、気になってる人が、いて……」
その言葉に、ああ、やっぱりか――なんて、溜息すらもれそうになった。
カナエの言う“ずっと好きな人”には俺にも心当たりがある。
皮肉にも、そいつは俺と同じでカナエとは幼馴染という立場であり、でも俺とは違ってカナエから想われている男――。
「わたし……ソウタくんが、好きなの……っ」
やはり、カナエの想い人は幼馴染のソウタであるらしい。
そして、俺の見立てが正しければ、ソウタの方もカナエのことを憎からず思っている。
二人はいずれ、結ばれるかもしれない――そんな漠然とした焦りもあったからこそ、俺は今日思い切ってカナエに告白したのだ。
しかし、その結果は見ての通り……。
心がささくれ立ち、胸中には良くない感情が溢れ出す。
拒絶された悲しみ、ソウタへの嫉妬、自分なんてと思う卑屈さ、理不尽な怒り……とてもじゃないが、好きな人の前で出すわけにはいかない。
俺は密かに深呼吸を繰り返してから、ゆっくりと頭をあげた。
「だ、だから、わたし……っ」
目の前には、肩を震わせながら俯くカナエの姿。
俺が俺の都合で勝手にした告白の所為で、カナエには随分と気まずい思いをさせてしまっているようだ。
「えっと、カナエ?」
若干上擦ってはいたが、おかげで暗く落ち込んだような声は出さずに済んだ。
「は、はひ……っ」
カナエが、引きつったように答える。
その表情は俯いていて分からないけど、さらりと流れる黒髪の間から覗く耳は、それこそ湯気を出さんばかりに真っ赤っか。
おそらく、ソウタへの好意を口にしたことが恥ずかしいのだろう。フラれた俺には、ただただ羨ましくて、眩し過ぎる反応だ。
俺は膝から崩れ落ちそうなしんどさを抱えながらも、努めて明るい声を出す。
「あ、ははっ!な、なんかごめんなっ、変な空気にしちゃってさ!」
正直、今はカナエを気遣う余裕すらない。しかし、それもまた、俺の一方的な都合というもの。せめて、俺がとっ散らかした空気くらいは収める努力をしなければならない。
「うん、そっか……返事は、分かった……。聞いてくれて、ありがとうな!」
カナエは無言で俯いたままで、何も伺えない。
「そ、それじゃあ、またなっ――」
結局、居た堪れなくなって、俺は逃げ出し、カナエはしゃべらず、俺が壊した空気は何も修復されないままだった。
ああ、恋人としてはおろか、もう幼馴染としてもカナエの傍には居られないのかもしれない。
散々な結果を受け、早くも告白したことへの後悔が押し寄せる。
俺は駆け出したいのを我慢して、速足でその場を後にした。
これ以上みっともないところを見せたくない一心で、振り返る余裕も、気にする余裕もなかったが、カナエはその場に留まっていたように思える。
俺もカナエも、自宅まではまだ少し距離があったが、あのままカナエと一緒に帰れるほど俺の心臓は強くないし、カナエだって、たった今振った相手と一緒に居たいはずがない。
俺は自宅に向けて、一人無心で足を動かし続けた。
もはや振り返って確認する気力もないが、帰路に就く足音は俺のものだけ――いや、当然だ。カナエがついて来るはずも、追いかけて来るはずもない。
「はぁ、未練がましいな……」
この期に及んで、もしかしたらカナエが追いかけて来るかも――などと、淡い期待を抱いている自分に嫌気がさす。
「カナエにも、悪いことしたなぁ……」
かなり気を遣ってくれていたように思える。
明日から、カナエとどう接すれば良いだろう――。
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