第183話 新たな特典
ジークとグリス達を乗せた船は港を出航し、フォークロア大陸へと向かって行った。ジーク曰く、訳ありの積み荷を降ろした後は、その足でラヴァーズにも寄るとの事。また新たなストレスを抱えないと良いんだが、あっちの面子もなかなかに濃いって聞くからなぁ。お土産用に渡したパーフェクトスムージーを、是非とも用法用量を守って有効活用してもらいたい。じゃないといつか、ジークの胃に穴が開いちゃうよ……
「さて、次の戦いはいつになるかしらね? そのタイミングって、私らで決めて良いんでしょ? ならならッ!」
帰路に就く途中(行き先は仕事場)、唐突にアークが俺の前に躍り出て、そんな事を言い出した。何とも期待感に溢れた目をしておられる。
「だからって、明日とかにはならないからな? ジモルとラナ対策にDP使いまくって、今はマジで資金不足中なんだ」
「ちぇ~」
「となれば、暫くはDP貯めに集中でしょうか?」
「だな。最高の戦力を揃え、最高のタイミングを見計らっての勝負――― と言いたいところだけど、神様達の言葉を安易に信じちゃうのも、正直どうかと思うんだよ。相手の神様がそんな宣言をしたところで、その駒がいつまでも忠実に命令に従う保証はないだろ? その話を真に受けて、ふとした瞬間に俺とジークのどちらかが奇襲を受けるとか…… うん、正直そのパターンが一番怖い」
神のお告げをフル無視していたバルバロって好例が、うちにも居る事だしな。ジモルみたいなタイプも、能力的な縛りがない限りはフリーダムに動いてしまいそうだ。
「こ、今回の人魚様の奇襲も、唐突に起こった出来事でしたからね。あらゆる可能性に備えるのは、私も必要だと思います」
「ジークの方は単独で最高クラスの戦力だから、奇襲されても私みたいに対応できると思うわ。そういう意味で一番注意すべきは、やっぱりウィルやクリスの方かもね。常に誰かしらを護衛にでもつかせたら?」
「何だ、最高クラスの戦力であるアークも、お願いしたら護衛についてくれるのか?」
「え、暇そうだから嫌だけど? ウィルって部屋に篭って仕事してる事が多いし」
速攻で断られてしまう俺。多分、アイとかからも同じ反応を返されそうだ。
「ご、護衛とは違うかもですが、私もウィル様やクリス様周りの気配に気を配っておきます。それだけ強力な相手が現れたとなれば、直ぐに気付けると思いますし」
「と言うか、ジェーンがウィルに
「ッ! そ、それは夜も、という事でしょうか? 同伴、という事でしょうか……!?」
「……? まあ、そうなるのかしら? 奇襲とか、むしろ夜の方が多いもの。同伴? しといた方がウィルも安心じゃないの?」
おかしいな。アークとジェーンで真っ当な会話をしている筈なのに、違う意味合いが含まれているような気がする。
「マスター、警護の件はスカルさんにもお願いしておきましょう。スカルさんほど治安維持に注力してくださっている方は他にいませんし、隠密としても効果的かと」
「それは確かに。どこからともなく来てほしい時に来てくれるからな、スカルさんは」
「あ、あの、ウィル様?」
「ん? どうした、ジェーン? さっきの話についてなら、無理に付き合う事はないぞ? 図書館の管理や街の区画整備で、ジェーンも忙しいだろうし―――」
「―――そ、それらの事柄は大丈夫です! ウィル様に四六時中憑きながらでも、私、やれますから!」
「え、お、おおう、そうか?」
ジェーンの鼻息が荒い。と言うか、瞳が燃えている。凄まじいやる気だな! ……何に対するやる気だろうか? 俺は心の中で訝しんだ。
「あっ、し、失礼しました…… あと、それとはまた別の話になるのですが、先ほど、資金がないと仰いましたよね? 此度の争奪戦の報酬として、前回前々回のようにDPの獲得はなかったのですか?」
「あー、まだその事について言っていなかったか。うっかりしてた」
ジェーンの指摘する通り、確かにこれまでの争奪戦の勝利報酬には、大量のDPが含まれていた。常に枯渇するDPの懐事情と戦っていた俺からすれば、それは大変に助かる要素だったのも事実だ。が、日々のDPが安定的に、それも莫大な量を稼げるようになった今となっては、率直に言ってしまうと報酬としてのインパクトに欠けるものになりつつある。それは邪神も薄々感じていたようで、今回の特典は全く別のものを用意していたんだ。更に俺とクリスの前世の記憶、その他情報をオマケとしてプレゼントしてくれるという、大盤振る舞いっぷりである。うん、当然俺は訝しんだよ? だって怪しいもの。
「―――とまあ、今となってはDPを与えても有難味がないから、違う形で還元するってさ。で、その違う形ってのが、これなんだけど」
皆の前にメニューを出し、その特典の説明画面を表示させる。
「え? あの、これって……」
「はえ~、その邪神って奴も思い切ったプレゼントをしてくれたものね。でもこれ、時間制限アリなの?」
「アリアリだ。だから、ここぞって時にしか使えない。使う対象は…… まあ、あいつしか居ないよな?」
「だ、だと思いますが…… ただ、本当に大丈夫なんですか? 説明文を読む限り、ウィル様の間近で発動するんですよね?」
「その辺りは俺の口八丁に期待するしかないな。まあ、これを発動させるのは、よっぽどのピンチになった時だけだ。発動させないに越した事はないよ」
「運が悪いと、そのピンチが更なる大ピンチを招きそうだものね!」
「う゛っ…」
「ア、アークさん、マスターの胃に穴を開けるような発言は、できるだけ控えてください……!」
しかし、悲しい事にアークの意見は的を射ている。そんなピンチな場面が訪れないと良いけど、最後の敵はどんな奴かもまだ分からない。『原初』の駒は相手の弱点を突くような力を宿すらしいが、俺が相手の場合、一体どんな能力に変化する? そして、それを見越してのピンチを想定、対策を立てるとなると、パターンはマジで多岐に渡る訳で…… ううっ、胃に穴が開くだけでなく、頭もパンクしちゃいそうだ。
「マスター、きっと大丈夫ですよ。仮にそんな場面になってしまったとしても、マスターの巧みな話術でイチコロです! 何なら誘惑しちゃってください!」
「ゆゆゆゆ、誘惑……!?」
「えっと、クリス? 記憶を取り戻してから、以前にも増して暴走気味になってない? あとそれ、相手的にも絶対にやっちゃいけない行動の一つだからね?」
「ゆゆゆゆゆゆゆゆ、誘惑ッ……!?」
ああ、ジェーンが茹蛸みたいになってしもうて……
「兎も角、だ! 悩みのタネは首脳陣で悩みに悩みつつも、基本方針はこれまでと同じ。DPを稼いでダンジョン、個々人の能力、装備を強化して、日々の暮らしも向上させていく。幸い、ジモル対策でダンジョン装備に取り入れた『ダンジョン破壊防御シールドS』は、日を跨げばまた使えるようになるんだ。単純な攻撃力でゴリ押しするって手に関しては、今後も何とかなるだろう」
ジモルのサテライトキャノンは破壊力に特化させたもの、更には争奪戦に二度勝利した上で、あの攻撃力に至った――― のだと、俺はそう予想している。いくら能力の後出しで、『原初』がそれに類する攻撃型の能力になったとしても、アレ以上のものは流石にないと思いたい。と言うか、一度敗れた戦法を使ってくるほど、頭の悪い相手でもないと思う。
「って事で、今日からまた愉快なダンジョン運営だ! もうひと頑張りしようか!」
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