第179話 最後の後始末
所属不明の船? ……えっ、このタイミングでまだ何か来んの!? 最狂のラナを倒して黒幕のジモルを撃ち落として、やっと勝利できたと思ったのに、これ以上の隠し玉があるの!? いやいや、そんな展開は聞いてませ――― いや、ちょっと待てよ? そう言えばラナが襲来する少し前まで、俺達は不審船の討伐の為に海に出ていたような? ……うん、確か当初の目的はそれだったわ。もうラナの突発イベント対策&ジモルの犯罪的宇宙攻撃を防ぐのに頭が一杯だったから、すっかり忘却の彼方だったわ。ラナとの戦いの最中に海の色も元に戻してしまったし、うわあ、もしかしてやらかしてしまったか?
「ジェーン、不審船は一隻だけか?」
「は、はい、一隻だけです。さして大きな船ではありませんし、船内から発せられる気配もそれほど強くは…… い、如何しましょう?」
「ん~……」
となると、トータルで考えると大した脅威はなさそうだ。ただ、一隻だけってのが少し気になる。先の不審船の一団と数が合わないんだ。ここを目指す最中、運悪くラナと出遭ってしまったとか? 仮にそうだとしても、あのラナが一隻だけ見逃すなんて事はしないと思うんだが…… まあ、やるべき事は変わらないか。
「バルバロ、ゴブイチ、悪いけど対処してきてくれ。情報が欲しいから、できるだけ生け捕りの方向で」
「ハァ、雑魚一隻だと張り合いがないねぇ。ま、宴の前菜に軽く頂いて来ようか」
「レディ、あまり油断はなさらぬように」
二人は早々にゴブリン達を率いて、港へと向かって行った。さて、今回は嫌な予感とかは一切せず、ジェーンの察知網からしても、大した敵ではなさそうだ。けど、これが何かのフラグとなって後で後悔する、なんてパターンはよくある話だからな。ゴブイチの言う通り、油断なく行こうと思う。ラナの襲撃を受けて唯一生き残った船、か。一体どんな奴らが乗っている事なのやら。
◇ ◇ ◇
「うううう……! 黄金世代怖い、同じ人間とは思えない……! 何でゴブリンが海に居るのかも意味不明……! と言うか魔王っぽい人居るんですけど怖いんですけど……!」
「だから言ったじゃないっすか。あの時点で素直に逃げときゃ良かったんですよ……」
「だ、だっでよぉ、海が普通の色になったんだもん…… 何もながっだとじても、海賊船団唯一の生き残りとじて、名が上がるど思ったんだもぉぉぉん……!」
「浅はかっす。そして情けないっす……」
―――何か秒で生け捕りにできたし、すっげぇ愚痴って泣いている。敵船に居たのは総勢三十七名、敵味方に一人の死傷者を出す事もなく、全員が全員、無事に生け捕りに成功。先ほどのジークの如く、だが血流に問題ない程度に縄で拘束されている。この展開もまた予想外っちゃあ予想外だ。
「えっと…… なあ、こいつらどうだった?」
「死ぬほど雑魚だった」
「クールダウンには適していたかと」
うん、ボロクソの言われようである。
「うおおおぉん……!」
「おいおい、凄い勢いで泣いてるぞ? 一体何をしたんだ?」
「別に何もしてないよ。ただ、カトラスの柄にうざったいフックが付いてあったから、脅しとして叩き折ってやったんだ。そうしたら、ずっとこれさ」
「だ、だって、だってぇ……! フックは俺の命だったんだよぉ……! これじゃあ、ただのカトラスだよぉ……!」
どうやら船長らしき彼にとって、フックはとても大事なものであったようだ。うん、何でフック? 何でカトラスの柄に付けていたの? そんな疑問が次々に思い浮かんでしまう。ここまで惨めを晒されると、流石に可愛そうに感じてきちゃったよ…… いや、これが演技ってんなら逆に大物かも?
「なあ、この船の代表はアンタで良いのか?」
「うおんうおん……! そ、そうでず、おでが馬鹿船長、略して馬鹿ぜんでうおおおおん!」
「あ~、ウィルが泣かした~。いっけないんだ~?」
いや、俺にどうしろと? 今ので泣かれたら、もう会話が成立しないぞ? 魔王の証か? 魔王の証が今回も悪さをしているのか?
「あ、あの、大丈夫ですか?」
どうしたものかと俺が頭を悩ませている横で、クリスが心配そうに声をかける。
「おわっ、すっごい美人さん……!」
「うおおぉえ゛っ!? ゲフンゴホン! ……こ、こんにちは、可憐なお嬢さん。鋭利なフック、もしくは情熱的なダンスはお好きですか? あ、その前にお名前をお伺いしても?」
「え? あ、えと、クリスです、けど……」
「おお、クリスさん! 実は私の名はグリスと申しまして、しがない海賊艦隊の提督をしております。しかし、名前の響きが似ていますなぁ! もしやこの出会いは運命!? フフッ、これは私の情熱的なダンスを披露するまたとない機会でって、縛られていて立てない!?」
「「「「「………」」」」」
ああ、うん、何となくこいつのキャラが分かってきた。とんでもなくお調子者なんだ。三枚目の健全なジモルタイプって言うのかな? さっきから、こいつの部下達が揃って申し訳なさそうにしているし、恐らく普段からこんな感じなんだろう。
「船長、そこそこ長い間世話になりやした。あの世でも元気にフックを愛してくだせぇ……」
「えっ、何か俺、これから死ぬ雰囲気になってる!?」
「ハハッ、こいつらすげぇ愉快だな。ヘッド、道化師として飼ったらどうだ?」
「え゛え゛っ!? ……いや、こんな美人に飼われるのなら、そんな選択もむしろアリか?」
「いや、そんな選択肢はないからな?」
収拾がつきそうにないので、この辺りで一旦落ち着かせる。具体的に言うと、スカルさんによるナイフの首当てだ。
「そろそろ黙ろうか? 貴殿の口が開くのを許すのは、頭目が質問した時のみ。それ以外は死に直結すると知れ」
「……(コクコク!)」
首にペタペタと刃を当て、頗る渋い声で脅しをかけるスカルさん。いやあ、様になってる。グリスとやらも涙目になりつつ、心の底から理解してくれたようだ。
「さて、まずはどこから質問したもんかな。所属と名前、ここに来た理由を簡潔に。あ、さっきみたいな大袈裟な言い回しは一切なしな? 一応、俺らの仲間には嘘を見極められる奴が居るから、少しでも嘘を言ったら―――」
「―――しゃ、喋ります! 嘘偽りなく、率直に素直に誠実にッ……!」
それからグリスは俺の質問に答えていった。嘘偽りなく、率直に素直に誠実に。バルバロの行方とその財宝を目当てに組まれた海賊艦隊、道半ばで遭遇してしまった狂気の人魚、命からがら危機を脱した機転、その他諸々についてを事詳しく。
「へえ、アタシが目的だったのかい? 良かったね、実物に遭う事ができて?」
「いえ今思えば自分の浅はかさを悔やむばかりと言いますか何であんなアホな事を画策したのか謎でしかないと言いますかホント勘弁してください俺フックと踊る事しか脳がないんです頭に脳がないんです……!」
一呼吸でここまで言い切った言い訳には、正直拍手を送りたい。それに、あのラナを目の前にして生き残ったってのも凄まじいな。直前までこんな調子だったんだろ? 死亡フラグを真っ正面から叩き折ったって事じゃないか。
「ん? ねえ貴方、海が青くなってからここに来るまで、ジモルの悪口を言ってたりしてた?」
必死過ぎる弁解が成される中、ふとアークが質問を投げかける。
「え? ええ、まあ…… 流石にあんな怖い思いをした後だったんで、手下のもんに聞こえる程度の声で、でしたけど、そこそこの愚痴程度には……」
「あー、やっぱりね! ウィル、人魚と戦っていた時に妙な隙があったんだけど、多分こいつらが作ってくれたのよ、その隙! あの人魚、異常なくらいにジモルって奴に執着していたもの!」
「えっ? な、何のお話で?」
本人達は全く自覚していないようだが、どうも詳しく話を聞くに、その線が濃厚であるらしい。何その隠れMVPみたいな活躍?
まあそんな訳で、彼らの罪は隠れた活躍で緩和される事となり、後日ジークの船で大陸へ送り届けられる事となった。元々グリス達が使っていた船? いや、これでも俺達副業が海賊なもんで、DPの肥やしにさせてもらったよ。ケジメの落としどころとしては、まあ妥当なんじゃないかな。
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