第178話 悪知恵が働く
「―――とまあ、俺とクリスにはそんな経緯があったんだ。最初の選択肢でドラゴンやゴーレムを選んでいたら、一体クリスの姿はどうなっていた事か…… 想像しただけでも恐ろしい!」
「「「「「結論そこッ!?」」」」」
神々の空間から元の場所へと意識を戻し、俺達は皆に失った記憶についての話を共有した。あまりの悲劇に泣き始める
「フフッ、その場合でも元の姿をベースにしていたと思いますよ、あの邪神さんは」
「クリスまでそんな事を言って…… と言うか、二人揃って転生とかもアリなのね。流石にそれは予想していなかったわ」
「だよなぁ。けど、前世からの恋ってのはなかなか洒落てんじゃねぇか? さっきの話、ヘッドもなかなか気合い入っててよぉ! ……あれ? でもヘッド、バルバロとかとも付き合っていたんじゃ? 聞いた話じゃ、アークとも寝た事があるし、ジェーンもその気があるって―――」
「―――アアアア、アイさぁんんん!?」
「うーん、不純だねぇ。私なら一発アウト案件のゲームセットだ。ウィル、悔い改めて?」
「大丈夫です! むしろ、私は率先してマスターの素晴らしさは共有したいので!」
「ク、クリス、あんまりそういう事を大声で言うのは……」
何とも耳が痛い話…… ではあるんだけど、ちょっとその前に気になる事がひとつ。
「アーク、アイ、お前らジークの監視をしていた筈じゃ? つか、ジークもここに居るし……」
「え? だってウィルの失った記憶の話とか、聞くっきゃないし?」
「右に同じく。まあ大丈夫だって、ほら、俺とアークが鎖で雁字搦めにしてるからよ」
「あはは、お陰で微塵も動けそうにないよ」
二人に挟まれる形でこの場に居るジークだが、邪詛の鉄球の鎖でグルグルっと拘束された状態にあった。うん、先の戦いのラナ状態と言えば、分かりやすいだろうか? 確かに、これなら不意を打たれる事はないだろうけど…… あの、一応ジークって同盟相手なんよ?
「突然この状態にされて、問答無用でここへ連れて来られたから、何事かと思ったよ。いやあ、でもその甲斐あって、ウィルの良い話が聴けたかな。割とギッチギチに縛られて、そろそろ血の流れが怪しい感じにはなっているんだけどね? あはは……」
「二人とも、直ぐに鎖を外してやってくれ。マジで顔色がやばそうだから」
ジーク、解放。えと、ホントにごめん……
「ああ、そうだそうだ。そういや俺らの記憶以外にも、邪神からオマケで教えてもらった事があったんだ。ジークも来てちょうど良い事だし、一緒に聞いてくれ」
「私も聞いて良いのかい?」
「むしろ、聞いてくれないと困るかな。残る最後の神の駒についての事だからさ。あ、でも立ち話のままは何だから、美食亭に移動しようか。さっきからアークの腹の音がうるさいし」
「食事が途中だったのよ!」
そんな訳で一同移動。街の皆は一度この場で解散、今夜行う予定の祝勝会で大まかに説明する節を伝え、今はその準備を進めてもらう事に。
「モルク~~~! 私が来たわよ~~~!」
「うっさいわ! 注文はクラーサに伝えよ!」
「フッ、すっかりウェイターとして成長した俺は、ゴブ語だろうが何だろうが、真っ正面から注文を受け付けるぜ!?」
「じゃ、メニューのここからここまでを適当に全部!」
「いや、そこまで真っ正面過ぎるのも……」
「で、最後の神の駒についてだけど」
「あ、この状況でも構わず進めるんだね……」
移動後、アークがクラーサに怒涛の追加注文を頼む中、俺は努めて冷静に話を切り出した。
「その駒が司る神の名は『原初』、前回の争奪戦の優勝者で、今の神々を束ねる長的な存在であるらしい。その神はここ最近、といっても数千年レベルでの最近らしいんだが、争奪戦で連戦連勝を重ねているそうだ。そして、取る戦法も毎回同じ。他の駒達を戦わせ、自分は最後の一人になるまで姿を現さない。しかも、どこに隠れているのかは一切不明だ。かつて『原初』の駒を捜し出そうと、最強クラスの察知系スキルを使って、世界中を巡った奴も居たそうなんだが…… 結局、見つけ出すには至らなかった。宇宙に居たジモルみたいに、反則級の何かしらの手を使っているってのが、邪神側の見解になってる」
「あ゛~、そういう事かよ。そのジモルとかいうクソ野郎もそうだったが、世界中の信者共を使っても、道理で見つからなかった筈だ」
「単純な人海戦術で解決できるものじゃないんだろうな。俺とジークが同盟を組んでいる以上、何とか見つけ出して二対一に持ち込むのが一番だけど、こればっかりはどうにもならない」
「なら、俺らとジークのお兄ちゃんがまず戦って、その『原初』? って奴が出て来るのを待つしかなのかな?」
「そうなるな。けど、何もこれは悪い事ばかりじゃない」
アークの咀嚼音が響き渡る中、皆が一斉に首を傾げる。
「他の駒が最後の一人にならない限り、『原初』の駒は姿を現さない。それってつまり、戦いのタイミングはこっちで決められるって事なんだ」
「ん? どういう事?」
「えっとだな―――」
これまでの争奪戦の生き残り達は、互いが完全な敵同士であったが為に、『原初』の事は意識しつつも、今目の前に居る敵に集中しなくはならなかった。また双方が争奪戦の生き残りであるが故に、どちらの力も強力無比、仮に勝てたとしても無事とはとても言えず、そんな万全でない状態で『原初』の駒と相対する事に。で、不利を強いられ負けてしまうと、そんなパターンが形成されていたんだ。いやあ、改めて纏めてみると、本当にエグイ作戦だよな、これ。
「―――けど俺とジークの場合、そのどちらが勝つにしても、何も完全に勝負が決まるまでやり合う必要はないだろ? ここで決着! っていう落としどころを予め設定しておいて、勝者が秘宝に触れる前に、最後の戦いに備えての準備期間を設ける事にする。これなら不利な状態から戦いが始まるのを回避できるし、敗者側も次の戦いに仲間として協力すれば、むしろ有利な状況を作り出す事も可能だ」
「な、なるほど、ジークさんとの同盟の強みをここでも活かす、という事ですね。船長さん、素晴らしい作戦です……!」
「フフッ」
まあ、邪神からの入れ知恵も一部あったりするんだけどね! うーむ、邪神も『原初』に負けず劣らず、エグイ作戦を考えなさる。
「あと、これも邪神からの情報、と言うかヒントらしいんだけど、『原初』の能力は“完全な後出しじゃんけん”なんだそうだ」
「あ゛? じゃんけん?」
「キャプテン、それってズルをするって事?」
「だな。完全にズルだ」
「へえ、それは『秩序』的じゃないね。後出しは大罪だ」
あー、その言葉通りに受け取るのなら、ある意味でジークと相性が良いかもしれないな。『原初』の能力を想像してみるに、生き残った敵と相性の良い能力になる、って感じだろうか? 最後に現れるという『原初』の特性上、争奪戦の特典は全く受け取れないだろう。が、相手が満身創痍での連戦中、しかも弱点を確実に突ける立場になれるってんなら、これまで連戦連勝なのも頷ける。いやはや、ラスト二人の同盟は尚更に必要不可欠だな、これ。
「ジーク、この作戦でどうかな? これが一番後腐れがないと思うんだけど」
「異論はないよ。ただ、私からも言っておきたい事があって―――」
「―――あ、あれっ?」
「ん? どうした、ジェーン?」
突然、ジェーンが美食亭の窓の外を向いて慌て始める。
「その、見覚えのない気配があったので、軽く周辺を探ってみたのですが…… 所属不明の船が一隻、この島に近付いています」
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