第167話 大火力は正義
魔導船、それは『魔導の神』の駒であるパー・ワッフルが開発した近代的戦艦。先の争奪戦ではウィルらに完膚無きまでやられ、その大半を沈められた悲しき船であったが、率直に言って、この戦いは相手との相性が悪かった。トータルバランスで考えれば魔導船は決して劣っておらず、この時代の文明力の船として考えれば、オーバースペックと言えるほどなのだ。
その際たる武器は、甲板に搭載された大型の主砲にある。大艦巨砲主義を体現したその風貌は圧倒的であり、そこから放たれる破壊力もまた圧巻の一言だ。故に、ウィルはこの攻撃性能に目を付けた。宝箱の中に唯一航行可能であった魔導船を収納し、戦いの奥の手の一つとして、バルバロとゴブイチに託したのだ。そして正に今、魔導船の主砲が轟音と共に火を噴く。
「くぅぅ……! やばい、これは甲板に居るもんじゃないねぇ……! 耳がいかれちまう……!」
主砲の間近にこそ居なかったが、バルバロは耳を押さえながら苦笑いをしていた。魔導船の主砲はそもそもサイズからして異様であり、攻撃の際に出る砲撃音もまた異常だった。常人よりも頑丈なバルバロでなかったら、この音だけで鼓膜が破れていたかもしれない。
だが、それら大きさは攻撃力に比例するのが常である。バルバロが冷や汗をかいてまで撃たせた魔導船の砲撃は、
「がっ……!?」
怒りで全てが真っ赤に染まっていたラナも、この爆発は無視する事ができなかった。意図せず出てしまった苦し気な声を最後に、その巨体が丸っと凍り切ってしまったのだ。そう、これまで銃や砲撃の際に使用していた爆氷弾は、今回の魔導船の砲撃でも例に漏れず、それ専用の砲弾を用意していたのである。これに魔法を施したロックスの魔力は枯渇したが、それに報いる以上の効果が発揮された訳だ。
「「ふんぬッ!」」
ラナが凍ったこのタイミングで、示し合わせたかのようにアークとアイが鎖を引く。巧みな鎖捌きと馬鹿力が合わさり、ラナの巨体が凍った海から引き抜かれ、そのまま宙へ。無限の再生能力をもたらした母なる海から、彼女を無理矢理に切り離したのだ。
「頭ぁ、らしくもなく心から感謝しようじゃないか。アタシにこいつを屠るチャンスをくれた事に、ねぇ! さあ、次こそが本命だ! お前ら、気合い入れて撃ちなぁぁぁ!」
「「「ゴブゴブゴブ!」」」
ゴブリンオフィサーとして進化する事で、魔導船を操れるようになったゴブリン達が声を上げる。頭数が足りず魔導船を十全に動かす事はまだ叶わないが、それでも主砲を動かす事に限定するのであれば、話は別。魔導王国クロスベリアの技術者の如き働きぶりで、次なる本命を装填、狙いを定め――― 今、最後の手向けとなる砲撃が開始された。
放たれたのは先の爆氷弾と同じ、魔導船の主砲サイズの爆炎弾。宙を舞うラナに着弾すると同時に、彼女の肉体をその紅蓮で包み込む。圧倒的なまでの光と轟音の内部がどのような地獄と化しているのか、外部からは想像をするしかない。ただ一つ言えるのは、あれだけの巨体を巻き込んでおきながら、その地獄からは肉片の一つも落ちてこなかったという事だ。どうやら魔導船の爆炎弾は、ラナという存在を欠片も残すつもりはないらしい。
……但し、そのラナにも意地はあったようだ。それから暫くして。
「うわー、これまた派手な攻撃になったわねーって、何か落ちてきた?」
「マジか? 骨まで溶かしそうな炎だってのに、よく人の形を保ってんな。まあ、燃え殻には変わりねぇだろうが…… で、どうする?」
「当然! こうするッ!」
上空から炎が消え去り、その中より人間サイズの何かが落下する。それは上半身が人、下半身が魚の尾の形状をしており、その全てが炭化してしまっていた。姿形からして、これがラナであると判断したアークらは、落下する彼女に再び鎖を巻き付ける。
「よいしょッ!」
そしてゴブイチのダンジョン船の方へ、それを
◇ ◇ ◇
「―――アークのお嬢さん、投げるにしても、ひと言くらいは欲しかったんですがねぇ」
「時間との勝負だったし、仕方なかったと思うわ!」
アークに反省している様子は全くなかった。ともあれ、ラナとの戦いはこれで終わったと言って良いだろう。
ゴブイチの船にかつてアークを入っていた特製牢屋を移動させ、その中にラナを投獄。更にアイが持っていた邪詛の鉄球を装着する事で、全ステータスを低下させる。最早生きているのかも怪しいラナであるが、こんな状態でも油断できる相手ではない為、念には念を入れての処置であった。
「止め、刺さねぇのか? こいつに生かしておく価値はねぇだろ」
「ああ、ちょっと待ってくれるかな? 今、魔導電話をウィルに繋ぐから」
「それよりもお腹減った~。釣りでもしようかしら?」
先ほどまで死闘を繰り広げていたアイ、ジーク、アークの三人であるが、今は全く息を切らしておらず、受けたダメージも特に気にしていない様子だ。ジークにおいては漆黒ビームを正面から受けて、海の彼方に飛ばされた筈だが、普通に合流を果たしている。
「やっぱりアンタらも化け物だねぇ……」
「姐さん! あんなに良い大砲があるのなら、アタシにも教えておいておくれよ~! ドカンと撃ちたかった~!」
バルバロ達もここで合流。ちなみに魔導船はダンジョンの宝箱にしまった為、現在はダンジョン船の二隻体制に戻っている。
「あ、ウィル? うん、何とか人魚を捕まえたよ。ギリギリだけど息もあるかな。っと、今スピーカー設定にする。えっと…… ああ、これこれ」
微妙に不慣れな様子で魔導電話を扱うジーク。
『もしもし? 俺の声、聞こえてる?』
少しして、ジークの持つ魔導電話よりウィルの声が聞こえてきた。
「キャプテン、ちゃんと聞こえてるよ!」
「へえ、魔導電話ってこんな事もできるのね。これ、私達の声もウィルの方に届いてるの? ねえねえ、そっちにクリスも居るんでしょ? 帰ったらご飯の用意をよろしくね!」
「えっ、これ携帯なのか? 何でパカパカしてねぇの? 何で板なの? こんなんじゃ、何かのひょうしに直ぐ折れちまうだろ? 何でこんな不便な形に?」
「アンタら、魔導電話についてはさて置きなよ」
閑話休題、ウィルとの情報共有がなされる。
『―――まず最初に確認なんだけど、その人魚、秘宝らしきものは持っているかな? 秘宝さえ奪ってしまえば、その人魚は神の駒としての力を失う筈だ。折角生きているのなら、そうした上で情報を吐かせたいかな。もちろん何かしようとしたら、容赦なく止めを刺して構わない』
「いやー、その秘宝らしきものが見当たらないと言うか、『秩序』的に裸の女性を注視する訳にはいかないと言うか」
「ジーク、てめぇは素っ裸のこいつから視線を逸らしているだけじゃねぇか。ったく、神の駒なんだから、秘宝を持ち歩いてんのは当然だろ。俺みてぇに秘宝をぶっ壊して、部下に持たせない限りはな!」
「それ、自分で言う?」
秘宝はその性質上、持ち主から離れる事がない。先のアイのように半分半分を持ち歩くなどしない限り、離れた途端に秘宝の方から持ち主に戻って行く為だ。
「じゃ、さっさと秘宝を奪っちまおうぜ? さあて、一見も何も素っ裸だが、どこに隠していやが―――」
「―――おい、俺の女に手を出すんじゃねえよ」
不意に、ラナの口から男の声が発せられた。
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