第151話 島を独占しよう
本拠地を置くこの島全体のダンジョン化、俺が密かに考えていたDPの使い道の一つだ。これまでの俺のダンジョンは、船二隻と島の港街部分(約1万平米)、リンの農園などの壁外施設(約5000平米)、そして地下入江に繋がる細い道がその全てだった。言ってしまえば、それ以外の土地は全くの未開で、俺達に対して殆ど無害とはいえ、野良モンスターが普通に
全ての土地をダンジョン化する事は、それ相応のメリットが生ずる。が、ダンジョンの拡張とは地味にDPがかかるもので、誰の土地でもない最安値のこの島の土地でさえ、1平米分の土地を拡張するのに100DPの費用が必要となる。そして日々の調査の結果、この島全体の広さは大よそ600万平米である事が判明。となれば、これを成すには単純計算でも600万×100DP=6億DPもの費用が必要となり――― 端的に言って現在の財政状況でさえ、圧倒的DP不足である事が分かるだろう。
よくこういった土地の広さを表す単位で、○○ドーム何個分! みたいな言い方があるが、この場合は一体何個分になるんだろうな? ジェーン曰く、この世界における円形闘技場が大体3万平米より少し小さいくらいとの事なので、それ基準だと最低でも円形闘技場200個分だ。そりゃあDPもかかるわって話だよな。普通にDPを稼いでいては、無謀もいいところである。
なら何でこのタイミングでそんな事を、と思うだろ? 俺、見つけちゃったんだよ。広辞苑の如くクッソ分厚い情報量があろう、ダンジョンのメニュー画面と暇を見つけては睨めっこをする事で、遂に見つけちゃったんだよ。手付かずの無人島限定の超お買い得プラン『島割』をッ!
……今、ふざけていると思っただろ? ふざけてないよ、至極真面目だよ! 本当にあったんだ、『島割』が期間限定のセール情報ページに! ショップがあるのなら、ひょっとして期間限定の安売りとかもあるのかなぁ? なんて冗談で探してみたら、メニューの奥深くにそのページが埋蔵されていたんだよ! いや、これ見るの俺やクリス達しか居ないのに、何でこんな分かり辛いメニュー構造にしているんだよ、おい……! などと、発見当時はエアツッコミを入れまくったものだ。邪神様、作り込みをするにしても、もっと初心者にも優しいつくりにしてください。切にお願いします、なんて愚痴まじりに言ってみる。
ただ、発見時のタイミングは大変に良かった。何でもこの時期はダンジョン拡張の推進月間だったみたいで、色々なタイプのお得情報が並んでいたんだ。で、その中で目を付けたのが、前述の『島割』である。俺が血眼になって調べた限り、こいつが一番お得に島をダンジョン化できる筈だ。まず、この『島割』が適用できる条件は以下の通り。
条件1、対象の島の第一発見者である事。
条件2、対象の島の土地に他の保有者がいない事。
条件3、対象の島でひと月以上ダンジョン活動をしている事。
『魔法の地図』でこの島が未発見状態である事は確認済み。となれば自動的に第一発見者は俺達となり、条件1は突破。土地のDP価格が全て均一である事から、条件2も手付かずで問題なし。条件3は言わずもがなと、既に全て達成しているのだ。で、この『島割』でどれくらいお得になるのかと言うと……
第一のプランがDP価格のトータル価格九割引き! そう、90パーセントオフである! この時点でやけくそ感が満載だが、『島割』の条件は普通のダンジョンマスターではまず達成できないものなので、ある意味で釣り合っているのかもしれない。ほら、俺みたいに海に出る奴なんて他に居ないだろうし、そもそも無人島なんて狙って見つけられるものじゃないし…… と、ともあれ、このプランなら6億DPが6000万DPで済んでしまうのだ!
……まあ、それでも手が出ない金額なんですけどね。うん、無理だって。もう一桁減らしたところで、この前の争奪戦の特典より高いんだもん。話になりません、解散解散!
だが、ちょっと待ってほしい。ここで第二のプランが出現する。先の条件に加え、今回がセールの初利用である事が求められるこのプランは、対象の島の広さに関係なく、その独占権を一律500万DPで買う事ができるんだ。第一のプランも凄まじくお得だったが、こちらは最早閉店投げ売りセールである。まさかの争奪戦特典と同額ピッタリ、これなら安心して手が出せるというもの!
……いや、安心ってのは嘘だ。ちょいと聞きたいんだが、あの邪神、狙ってこの価格に設定とかしてないよね? あまりに出来過ぎと言うか、このセール自体も争奪戦特典の隠し要素な気がしてならないんだが。このセール、本当に利用して大丈夫? 他のお神の方々、これをちゃんと許可しているんだよね? あとでやっぱナシとか言わないよね?
「まあ、不安に思いつつも実行してしまう訳だが……」
「マスター、如何されましたか?」
「うん? ああ、何でもないだ。それよりも島のマッピングも完了して、あとはダンジョン化を実施するだけだ。皆、この瞬間を目に焼き付けてくれ!」
という訳で『島割』のセール画面よりポチっとボタンを押し、500万DPという大金を投じる。さらば、血と汗と涙の結晶! ようこそ、島ダンジョン!
「「「「「………」」」」」
おかしい。いくら待っても、変化らしい変化が起こらない。メニューの画面上は取引が成立し、既にダンジョン化が終わっている事になっているが、これは―――
「―――あっ、島の状態は据え置きでダンジョン化したから、見た目の変化が何もないのは当然か」
「え? じゃ、これもう全部ダンジョンになっているの? 全然そんな気がしないんだけど?」
「見た目はそうだけど、やろうと思えばもうどこにでも建物や壁を作れるし、ジェーン達、エーデルガイストの皆も縛りなしで移動できるようになっている筈だよ。まあ島のモンスターも据え置きだから、自由に移動し過ぎるのも危ないんだが……」
「……これ、そこまでの大金を払ってまでやる意味あったの? 私の縛りを一つ減らした方が、まだ建設的だったんじゃない?」
「おいおい、一応言っておくけど、アークにも事前に説明した上で了解も得ているんだからな? 覚えてるか?」
「……?」
はい、すっかり忘れておられますね。恐らくは事前の説明を何も聞いていなかったであろうアークに対し、改めて島全土のダンジョン化、そのメリットについて説明する。
まずシンプルなところから言えば、島全体をダンジョン化する事で、ダンジョン内部に居る全てのモンスター、また何らかの手段で島に入り込んだ侵入者の居場所を、完全に把握する事ができる事だろう。これは住民達の安全を保証する事に繋がるし、島に侵入者が入り込んだ最悪の場合の対抗策となり得る。何せこの島に居る限り、ずっと位置情報を握る事ができるんだからな。
……が、日常での真の本領は別にあり、それこそがDPの臨時収入だ。モンスターなどの対象がダンジョン内に居る扱いになるから、一定以上の個々の強さに応じてDPが毎日徴収される。島に居るモンスター達の危険度は平均でD、そしてその数は優に万を超えている! ……と、思われる!
「つまり漁の収入にも匹敵する、或いはそれ以上のDPが、自動的に手に入るかもしれない!」
「かもなの?」
「……かもです」
今日の収支明細を実際に見ないと、正確な数字はまだ何とも言えないし…… け、けど、島のダンジョン化の本命はまだ他にあるから! 本当だからッ!
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