第150話 殺気!
「「「「うっ……!」」」」
「あううううっ……」
急に寒気がした。一瞬で通り過ぎて行ったけど、全身を震わせるほどの強烈な寒気だった。一緒に居たクリスにアーク、バルバロも同じ感覚に陥ったのか、俺と同じく妙な顔をしている。俺の肩に居たジェーンに至っては、今にも泣き出してしまいそうだ。おかしいな、今日は水着で海を泳げるくらいに暑いってのに。もしや、これが夏風邪ってやつ? まあ、今の季節が夏なのかは知らんけど。 ……さて、そんな冗談はさて置き、だ。
「み、皆さん、大丈夫ですか!?」
「いやいや、何だ今の? 唐突に寒気がしたって言うか…… ひょっとしなくても、皆もだよな?」
「ああ、アタシも変な寒気を感じた。つうか、今のはきっと殺気だね。受け慣れているから、経験で何となく分かるよ」
「んー、確かにそんな感じだったわね。あー、ビックリした!」
「ううっ…… と、とんでもなく入り組んだ感情が一気に押し寄せてきて……」
「ジェーン、暫くは察知能力を最小限に抑えておくんだ。あと、できるだけ楽な姿勢にして」
「は、はひ……」
宙に浮かぶのを止め、俺の背中に直接項垂れるジェーン。皆よりも鈍い俺でさえ、あれだけの殺気を感じられたんだ。人一倍どころでない察知能力を有するジェーンが受けた影響は、本当に泣きたくなるくらいのものだったんだろう。これで少しは楽になると良いんだが…… 何だかクリスからの熱い視線を感じる気がするが、見なかった事にしておく。今は優先すべき事があるからな。
「ダンジョン内に侵入者が入った形跡はない。って事は、島の外から殺気を飛ばされた事になる訳だが……」
「近海から、ってのはないね。何かしらの接近があれば、設置している浮標や、漁と警邏を同時にやってるゴブイチとブルローネから連絡がある筈だ」
「となると、視認できないほど遠くから飛ばされた事になるが…… そんな事って可能なのか?」
「私はそういうの得意じゃないから、ちょっと真似できないと思うけど…… まあ、できる奴にはできるんじゃない? 多分、相当嫉妬深くて恨みがましくて、それでいて飛びっきりに妄信的な奴ね! 私の勘だけど!」
「勘なのか?」
「勘よ!」
「なるほど、そうか……」
こういう時のアークの勘は馬鹿にならない。仮にこの殺気の持ち主が神の駒だとすれば、つうか俺らに向けて来る時点で十中八九そうなんだろうけど…… うーん、正直あまり相手にしたくないタイプだなぁ。少なくとも、これまでのように話を聞いてくれる感じではないと思う。
「あと、これも勘なんだけど…… こいつ、今の私よりも強いわよ? 真っ向からやり合ったら、普通に負かされる気がするもの」
「は? ……おいおい、これまたとんでもない情報が飛び込んだな。アークが最初から負けを想定するなんて、初めての事なんじゃないか? ジークが相手の時だって、率先して戦おうとしていたってのに。それにえらく冷静と言うか、全然嬉しそうじゃないな?」
「だって、ジークの場合はまだ勝ち目がありそうだったんだもの。いくら私だって、全く勝ち目のない戦いを喜んだりはしないわよ。その…… 私も昔のように独りで生活している訳じゃないんだし、その辺の分別はつけないとね」
「「ア、アーク(さん)……!」」
クリスと一緒になって、アークの心の内に感動する俺。そうか、アークも完全なバトルジャンキー思考な訳じゃなくて、しっかりと俺達の事も考えてくれていたんだな。微妙に照れている様と相まって、余計に心にトゥンクしてしまう。
「頭、感動しているところ悪いんだが、今のアークの発言、相当にやばいんじゃないかい?」
「ああ、バルバロが言わんとしている事も分かってるよ。あのアークが戦う前から敵わないって断言しているんだ。この殺気の持ち主は、今までの敵の中でも特段にやばい――― って言うかさ、どう考えてもこれ、前の話に出ていた人魚だよね?」
「私もそう思います。宣教師の方々が手に入れた偵察情報と、アークさんの言っていた“嫉妬深くて恨みがましくて、それでいて飛びっきりに妄信的”という殺気情報、そのどちらにも合致していますし……」
「あっ、言われてみればそうね!?」
「お前は今更気付いたのかよ!?」
「勘が良いが、察しは悪いねぇ……」
ま、まあそこがアークの良いところ(?)なのだが。にしても、やっぱりセルフフラグ立ては叶わなかったか。淡い希望を抱いていたんだが…… まあ、それであればいつもの現実路線が残るのみ。海賊も夢だけでは食っていけないのである。
「バルバロ、今の話が実際にそうだとしたら、お前と人魚を真っ正面から戦わせる訳にはいかない。どんな因縁があったとしても、俺はお前を見す見す死なせたくないからな」
「そうですよ、バルバロさん! 罠を仕掛けて策にはめて、皆でボッコボコにするのが一番ですよ! 何もさせずに滅するのが最上です!」
「え、ええっと、クリスってこういう時、意外と過激よね?」
「仲間の命が第一、ですから!」
「……へっ、頭達がそこまで心配してくれるとはね。けど、その心配はお門違いだ。アタシは生粋の海賊だよ? あのクソ人魚と一対一で戦う気なんて、最初から微塵もないさ。そこの角娘が言う通り、派手に何でもアリをかましてやろうじゃないか。でもって、最終的にアタシが止めを刺す。それさえ実行できれば、後腐れなんて何もないだろ」
「バルバロ……」
「あ、頭が人魚も篭絡したいって言うんなら、もちろんそっち方向でも協力するよ? 頭の魅力はジモルの奴よりも数段上だからね、もしかしたらもしかするかもだろ?」
「バ、バルバロ!?」
「マスター、その方面での作戦も考えましょう! 是非とも考えましょう!」
「頼む、勘弁してくれ……」
ただでさえ話し合いもできなさそうな相手なのに、そんな無謀でしかない行為は許可できませんて。
「ともあれ、だ。人魚が何かしらの情報を得て、この場所を察知したと考えておこう。何が発端で殺気を送ってきたのかは知らないが、俺らが迎撃に徹する事自体に変わりはない。相手が海賊なら海賊用の、相手が軍隊なら軍隊用の、相手が究極の個ってんなら、またそれ用の迎撃策を拵えれば良い。ダンジョンマスターらしく、ただその日に備えて準備を進めるだけってな」
「い、今の作業もその一つ、ですよね……?」
俺の言葉に呼応するように、背中からジェーンの声が聞こえてきた。
「ジェーン、もう大丈夫なのか?」
「ウィル様の背中のお陰で、何とか……(ぽっ)」
「なあ、やっぱり懐柔策も視野に入れるべきじゃないのかい?」
「私もそう思うのですが、マスターにもっと自信を持って頂かないと、何とも……」
「バルバロとクリスがそこまで言うって事は、結構勝算アリ……!?」
「本当に勘弁してくれよ!?」
バルバロは冗談半分、アークに至っては全く分かっていないんだろうけど、クリスは本気で考えていそうで怖いんすよ、マジで。
「ほら、ジェーンの言う通り、今やっている事も大事な準備の一つなんだ。この
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