第143話 ボール遊び
「えっ、もうラヴァーズの聖女に復帰するつもりなのか?」
「ちげーって! 教会つっても、ラヴァーズとは全然関係なしにだよ! あと聖女言うな! アレ、クッソしんどいから!」
という冗談はさて置き。アイ曰く、教会とは信仰を集める為だけのものではないらしい。もちろん、神に祈りを捧げて安息を得る事もできるが、それとは別に悩みの相談を受け持ったり、子供達の学び舎代わりとして活用される事もあるんだそうだ。
「細けぇところは宗派とか信仰する神によって違うところもあるだろうが、そもそも俺は細けぇ事なんて気にしねぇからな。目指すはいいとこ取りよ、いいとこ取り! 季節によって祝い事を企画する事もあるし、結婚式にだって活用されてイベントが盛り沢山――― まあ、アレだよ。結果として皆が得をすれば、全て良し!」
「な、何とも大胆不敵な教会だな……」
しかし、聞いていると馬鹿にならない要素ばかりだ。うちの島、まだ活動して間もないって事もあるが、歓迎会や争奪戦の勝利を祝っての宴くらいしか、祭りらしい祭りが今までなかったからな。アイであればそういった事にも詳しいだろうし、率先して企画してくれるのは正直ありがたい。元聖女が学び舎の先生として教え、気軽く悩みの相談をしてくれるってのも、実は凄い事な気がする。
「け、結婚式……!」
ジェーンが過度に反応している結婚式だって、きっといつかは必要になるだろう。村人同士で結婚する者が出てくる可能性だってあるし、俺もクリスと―――
『ふんッ!』
『ほっ!』
『お、お邪魔します!』
『んん~~~……!』
―――おかしいな。脳内ではクリスの笑顔を想像していた筈なんだが、両サイドからバルバロとアークが壁を打ち壊しながら現われ、空からはジェーンが、真下からは背伸びをするリンが顔を出してきた。一体どういう事なんだろうか。
「あ、そうだ。折角だから信仰する神、ヘッドんところの神にしとく? 確か『創造の神』だっけ?」
「いや、アレはきっと邪神の類だ。絶対に止めておいてくれ。何か調子に乗りそうな気がするし、『秩序の神』辺りを祀るのが安定だ」
「何かすげぇ必死じゃん?」
という事で、アイは教会の聖女もとい、シスターに就任する事となった。協議の結果、これといった神を祀るのではなく、八百万の神のように何でも受け入れるぜ! というスタンスにするとの事。本当に自由で開かれた教会になりそうだ。
……今更だけど、村人の大半がエーデルガイストの皆さんな現状、街に神聖な教会を建ててしまって良かったんだろうか? 入った途端に浄化とか起きない? いや、光魔法による回復が幽霊やゾンビにも有効だったし、今回も問題ないのかな、やっぱり。
◇ ◇ ◇
教会の建築が決まり、さてどこに建てたものかと辺りを散策していたところ、俺達はアークと出くわした。そう、出くわしてしまったのだ。
「あっ、そこに居るのはアイじゃないの! ここで会ったのも何かの縁! 私と拳を交えてみない!?」
「てめぇはアーク! おっしゃ、いっちょやってやろうか!」
「待て待て待て待て、ステイステイ」
年中対等な相手に飢えているアーク、力を試したくてウズウズしているアイだもの。そりゃあ、出会ったらこうなるわな。ただ前にも言った通り、街中でバトらせる訳にはいかないんよ。
「ったく、油断も隙もないとはこの事だな…… アーク、こんなところで何をしていたんだ? たっぷりおやつを食べて、昼寝タイムに移行した筈じゃ?」
「そのつもりだったんだけど、久し振りにおやつを沢山食べれた高揚感で、何か寝付けなくってね~。なら体を動かそう! って事で、さっきまでそこの子供達と遊んでいたの!」
ビシリ! と、ある方向を勢いよく指差すアーク。その先には少し前にできたばかりの公園、そしてエーデルガイストの子供達が、楽しそうにボール遊びをしている姿が――― いや、何か妙に鋭いシュートを蹴り合ってない? 全力シュートを全力シュートで迎え撃つって感じの、歪なサッカーを繰り広げてない?
「うおおお! ネオデビルシュート!」
「甘ーい! ダークネスショット!」
「陸の上でもアタシは強い! ヴァーティカルランドキャノン!」
でもって、変な技名を叫びながらやり合ってるし。子供達に交じってブルローネも居る気がするし。
「アークお前、何を教えていたんだよ……」
「何って、ボールの蹴り方に決まっているじゃないの。いやー、子供って良いわね! 熱心に指導を受けてくれるし、ドンドン技術を吸収してくれるんだもの!」
「いや、それにしたってシュートはゴールに向かって放つもんだから。キャッチボール感覚で人に向けるもんじゃないから」
「ウィルったら、また変な事を言うのね? 子供は怪我をするものじゃないの。それで痛みを知って、生き方を学んでいくのよ」
「おいおい、ボール遊びが随分なところにまで繋がったな?」
「いや、別に冗談でも何でもないから。そもそも、あの程度で怪我をするような教え方はしてないわよ」
「むっ」
こういった指導に定評のあるアークにそう断言されると、これ以上は何も言えなくなってしまうな。普段の言動からは考えられない、それくらいにアークの指導には信頼感があるんだ。そのお陰でトマのステータスの上げ幅も、実は凄い事になっている訳で。
「ん? あれっ、アイは?」
気が付けば、つい先ほどまでそこに居たアイの姿がなくなっていた。
「あの、アイ様は子供達の方に……」
「え?」
先のシュート合戦現場に再び目を向ける。
「へーい、ナイスパス!」
「なあっ!? ア、アタシのヴァーティカルランドキャノンが!?」
「凄いよ、あの人! ブルローネ姉ちゃんの必殺技を簡単にキャッチした!」
「しかも頭で! ど、どうやって勢いを殺したんだ……!?」
……何か交じってる。
「やっぱアイはやるわね~。私もちょっくら行って来る!」
「……この遊び、流行らないよな?」
「ど、どうでしょう……」
未来に一抹の不安を覚えながら、俺達は遠巻きにボール遊び(?)を見守るのであった。
「わっ! アタシの『狙撃』スキル、ランクが上がってる!」
……そんな事あるぅ?
◇ ◇ ◇
夕暮れ時、ボール遊びもひと段落し、エーデルガイストの子供達は家に帰って行った。
「またね~、アーク師匠~」
「今度は負かしてやるからな、アイ姉ちゃん!」
「フン、バルバロ姐さんの次くらいにはやるんじゃないかい? 次は素潜りで勝負ね!」
……子供達に交じって、ブルローネの奴も帰って行った。あいつはそのポジションで良いんだろうか?
「あー、遊んだ遊んだ。これは今夜の食事が美味しくなっちゃうわね!」
「だな!」
爽やかな汗を流し、大変に満足そうな二人。もう完全に親友状態だ。善哉善哉―――
「って、ヘッドにジェーン、こんなところに座って何してんだ?」
―――ではあるんだけど、完全に俺達の事を忘れていたな?
「通常業務だよ。君らがずっとボールに夢中だったから、仕方なくここで仕事をしていたんだよ」
「あ、青空の下でするお仕事も、たまには良いかと。えと、気分転換になりますし」
まあ、ジェーンの言う通りでもあるんだが。って事で、アイ達が遊んでいる間にサズと宣教師達はサウスゼスの船に乗って、結構前に出航しました。本日の漁等々で得たDP管理、アイの教会に良さそうな土地の選定も完了。お陰様で定時上がりができそうです。
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