第139話 激動の一週間
この一週間ほどは激動の日々だった。皆が出してくれた意見を可能な限り実現させる為、あの手この手と使える手を何でも使い、船戦力拠点生活力の強化に勤しみに勤しんだのだ。その間に船に乗る暇なんてものはなく、島のあちこちを駆け巡り、後はリン、ジェーンと共にデスクワークに没頭。海賊の船長というよりも、何か街の市長っぽい状態だった。まあ、本来のダンジョンマスターはむしろこの姿の方が正しいのかもしれないが、心身共にクタクタな訳ですよ……
そんな激動の日々を頑張る事ができたのは、偏に仲間達のお陰だろう。バルバロとゴブイチは本業の漁に出て、例の如く漁獲量バトルを繰り広げながら活躍してくれたし、日に日に激増するそんな漁獲量に対し、クリスは真っ向からフライパン(その他調理器具多数)で立ち向かった。魚の山を一瞬で料理の山に変えてしまうスーパーメイドの手腕は健在、それどころか更にも磨きを増し、未だに余力を残しているくらいだ。
街作りと農作の根幹部分については、ジェーンとリンが見事な仕事振りを発揮してくれた。俺は各所の挨拶回り&立ち合い&現状把握で一杯一杯だってのに、本当に頼りになる。有能な秘書を持つって、ひょっとしたらこんな感じなのかね? うーん、将来的にはただハンコを押すだけの立ち位置になってしまいそうな予感。ともあれ、
……まあ、正直に申しますと夜間に諸々の理由があって、若干の疲れが朝に残っているんですけどね。先の功労者であるクリスとかバルバロとか、詳しく言うつもりはないが、まあそんな感じなんだ。バルバロが肉食系なのは分かっていたけど、この時はクリスからも悪魔の片鱗を感じてしまうと言いますか。そんな様子をジェーンがずっと覗き見していて、二人は特に何も言わず、むしろ満更でもない様子なのが本当に謎で、俺だけがその状況に気疲れして…… それでも朝食を食べれば疲れが吹き飛んでしまう、クリスのクッキングマジックよ。お、恐ろしい、悪魔の所業や……! 今更ながらこれ、どんなプレ――― いや、この話題は止めよう、そうしよう。
あ、そうだ。それよりも聞いてほしい。この期間中にゴブリンクルー達に新たな上位種が解放されたんだ。その名も『ゴブリンオフィサー』、ゴブリンクルーが海上で更なる経験を積む事で進化が可能となるそうで、ゴブイチの『ゴブリンキャプテン』とはまた別の進化形態となっている。トレードマークであった真っ赤なバンダナが紺色に変わり、更には肌色までもが緑から青へと変化。うーん、これは海に擬態する効果も期待して良いんだろうか? まあ水中はサハギン達の領域なので、特に気にする必要はないか。ちなみに、オフィサーのステータスはこんな感じだ。はい、ドン。
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ゴブリンオフィサー
HP :100/100
MP :0/0
筋力 :C+
耐久 :C(+1⇒C+)
魔力 :F+
魔防 :E+
知力 :C++
敏捷 :B-
幸運 :C-
スキル:器用B(+1⇒B+)
スキル:航海術C
スキル:悪運E
装備 :偽海賊王のカトラス
海賊の腰巻き(耐久+1効果)
超万能作業靴(器用+1効果)
☆紺色のバンダナ
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見よ、クルーから順当に成長したこのステータスを! 肉体的な強さだけであれば俺を超え、バルバロにまで届きそうなところにまで来ているんだ! あ、ちなみにこちらは戦闘仕様の装備セットで、本業時の漁セット、砲兵仕様の武器セットはまた別にあるぞ。
ステータス面の成長も嬉しいが、それ以上に素晴らしいのがスキルの方だ。見ただけで何となく分かるだろうが、詳細は以下の通り。はい、ドドン。
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スキル:器用B+
道具の扱い、細かい作業などに向く技能。Bランクであれば伝説未満の武器が扱え、どんな専門的な作業も楽々可能。足の指で針穴に糸も通せる。+であれば更に作業効率アップ。
スキル:航海術C
航海するにおいて必要な知識、技能を得る事ができる。Cランクであれば世界でも有数の船乗りであり、大半の海での航海が可能となる。
スキル:悪運E
悪事を働く事で運に恵まれる巡り合わせ。Eランクであれば一悪事につき一度、小銭が拾える程度の幸運が舞い降りる。
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御覧の通り器用度が上がって、更に作業汎用性がアップしたのである。扱える装備の幅も広がって、今は準伝説級の武器、偽海賊王のカトラスを装備中だ。これはバルバロが持っていた魔剣シリーズにも匹敵する業物で、オフィサーが十全に扱える武器の中では最上の品と言えるんだそうだ(アーク談)。
ぶっちゃけた話、今のオフィサー達なら魔導船も操作可能だったりするのだが…… やはり、頭数が圧倒的に足りない! 船を部分的に動かす事はできても、全体を一度に扱えるようになるのは、まだ先の話になりそうだ。まあ、これもぶっちゃけた話、今更魔導船を航行できるようになったとしても、強化を施した我らが漁船――― もとい、海賊船には結構な部分で及ばなくなっているんだけどな。あのバリア機能だけ乗せ換える事はできないもんかね?
最後の『悪運E』については…… そもそも悪事を働く事がないから、使う機会がない気がする。あるとすれば海賊行為の最中だけど、それも正当防衛に含まれると思うんだよなぁ。まあ、舞い降りる幸運もそこまで大きなものではないので、やはり今のところは気にしなくて良いかも。
「マスター、マスター、そろそろ船が到着しますよ」
「ッ!」
心配そうなクリスの声を受け、現実に引き戻される俺。気が付けば、二隻の船が港に入ろうとしているところだった。片や我らが第三ダンジョン船、片や同盟相手であるサウスゼス王国の戦艦である。ああ、そうだった。バルバロからジークんとこの船が来ているって連絡を受けて、クリス達と一緒に港で待つ事にしたんだった。
「ウィ、ウィル様、如何されましたか? 何やら心ここにあらず、といった様子でしたが……」
続いて、指定席である俺の左肩に居るジェーンにまで心配されてしまった。どうやら、この一週間の振り返りに没頭し過ぎていたようだ。いかんいかん。ここ最近は少しでも空き時間があれば、機能画面と睨めっこをしながら、どうしたものかと頭を悩ませていたからな。ただジッと待つ事もできなくなってしまっている。
「悪い、何でもないんだ。さあ、我らが同盟相手を出迎えようか」
暫くして、二隻は無事に着港。話によれば本日はジークが不在のようで、代わりに副団長のサズが来ているんだとか。争奪戦に勝った話以外にも、俺達に良い情報をもたらしてくれると良いんだが。
「ふんッ!」
そんな事を考えていると、不意に戦艦の甲板から何者かが飛び出した。ん? 今のは…… 女の声? 荒々しく港に着地したのは、白と金の神々しいローブを纏った神聖な雰囲気の女性。当然、全く見覚えがない。
「おう、アンタがここの
その粗暴な言葉遣いとは裏腹に、彼女は非常に清楚な容姿をしていた。濡れ羽色の髪を腰まで伸ばし、その恰好と相まって正に聖女といった感じの――― いや、だから誰ぇ?
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