第137話 第三回・DPの使い道

「―――そんな訳で、今回鹵獲した魔導船の中でも航行に問題ないものについては、ショップに売らず取っておきたいと思う。現状俺達じゃ到底扱えない代物だけど、取り急ぎDPが必要な時でもないからな」

「ふむ、良いではないか。要はいざとなった時の為の保険、今も残っている海賊の宝のようなものであろう? そういった保険は幾らあっても良いものだ。枕を高くして寝られるからな」

「ったく、何でモルクの枕が高くなるってんだい。まっ、アタシも頭がそう言うのなら、特に文句はないよ」

「バルバロ姐さんがそう言うのなら、アタシも!」


 元気に手を挙げるブルローネに続いて、他の面々も俺も私もと賛同してくれた。


「ギャフン!」


 中にはそんな叫びも聞こえてきた気がしたが、これは無視する方向で。


「よし、次に今日の本題についてだけど…… 稼ぎに稼いだDPの使い道、どうしようか? 皆の率直な意見を聞かせてくれ」

「マスター、ここは調理器具の新たな道を開拓するべきかと! 生活の基本はやはり食、全ての行動の原動力に繋がります! 新たな可能性を秘めた料理を口にする事で、皆さんのコンディションは更なる高みへと達するでしょう! 料理の質が上がれば、ショップで売る際にもより多くのDPを入手する事ができます! 毎日が美味しくて、労働の質と利益も上がって、皆ハッピー! これを外す手はないかと!」

「そうだそうだ、クリス総料理長の仰る通りだぞ、小僧! 購入の際はこのモルク、大いに勉強させてもらう!」

「私もクリスの意見に賛成! って言いたいところだけど、皆の戦闘インストラクターとしてこのアーク、ひと言物申すわ! ここで皆が使う装備を見直していくべきよ! その辺の海賊とか国の兵士とかを相手する分には問題ないけど、今回みたいな面白兵器が今後の相手になっていくんでしょ? それなりに質が良い装備程度じゃ、圧倒的に力不足! この際、伝説的な武器とか買いましょう! 私も使ってみたいし!」

「で、伝説の武器!? キャ、キャプテン、それって超魔導長重砲より凄いって事……!?」

「つ、つまり、伝説の大砲……!?」

「ブルローネ、アークの甘言に惑わされるんじゃないよ。頭ぁ、アタシらが本当に必要にしてるもんは、船の性能強化だよ。海戦において船足は生命線、こいつを鍛えない手はない。んでもって、頭の力なら潜水機能を取り付ける事も不可能じゃないんだろ? よし、それをやろう! きっと漁も捗る!」

「おおっ、潜水できるようになったら、アタシのヴァーティカルシーキャノン改にもまた日の目がッ!」

「フッ、お嬢さん方の夢には浪漫がある。浪漫は良い、吾輩もその夢にチップを置かせてもらおう。だが、もう一言付け加えるとすれば…… そう、操舵性を上げるのが望ましい。スピードを上げ、正面に突き進むだけが船ではない。時にはダンディに舵を切る時もあるもんでさぁ」

「あ、あのっ、船も良いですが島の食料自給率を上げる為にも、農園の面積をもっと増やすのも手、だと思います。可能であれば栽培するお野菜の種類も増やして、より良い生育方法についても研究したくって……! そ、そうすればクリスさんの助けにも、少しはなるかも、です!」

「マスター、リンちゃんが健気で可愛――― いえ、お野菜の摂取は栄養バランスを整える上で欠かせない要素、これを逃す手はないかと!」

「そうだそうだ、クリス総料理長の仰る通りだぞ、小僧! 栽培の際はこのモルク、大いに勉強させてもらう!」

「ウィ、ウィル様、私からもお話がありまして、その、街の開発についてなのですが、色々ご相談したい事が結構ありまして…… 鍛冶職人のビスタさんの工房、薬師であるお父様の調薬作業場、雑貨屋や憩いの公園、他にも採掘や薬草採取に適した場所がないかの調査依頼など、色々な開発案が出ているんです。私の方で資料として取り纏めておきましたので、将来を見越した投資としてご一考頂ければなと…… わ、私個人としては小さな図書館があったら良いな、なんて……」

「わっ、そういう要望もアリなの? じゃ、私は闘技場が良いわ! でっかいコロシアムで派手に!」


 うん、なるほどな? ほほーん、それでそれで? うん、うーんうんうん、うん! そっかぁ、そうなのかぁ…… よし、思ったよりも意見が多種多彩! 皆の話に耳を傾けつつ、メモを取る俺の手が止まりません!


 いやさ、冷静にどうするよ、これ? 最後のアークの意見は無視するとして、それ以外は全部が全部必要に思えてくる案ばかりだ。落ち着け、一旦整理するのだ、俺。


・クリス案、新たな調理器具の追加


 これについては最も安価に実現できるんじゃないかな? クリスの言う通り、食は皆のやる気に繋がるし、ショップに料理を販売した時のDPが高値になるのも素晴ら――― いや、待てよ? 知識の乏しい俺には一般的な家庭にある調理器具くらいしか思い浮かばないんだけど、業務用、現代の電化製品、匠の技を駆使した器具とかも含んでいるとすれば、もしかして予想以上に高くつく? ……と、兎も角、クリスと相談の上で実現するしかないな! 現実的な線でお願いしますね、クリスさん!


・アーク案、皆の装備の新調


 先のコロシアム云々はアレだったが、最初のアークの意見は実に尤もなものだった。多少無理をしたとしても、配下モンスターなら一斉にその装備に揃えられて便利だし、費用対効果も抜群だ。次の戦いの事を考えると、クリス達にもより良い装備を持っていてほしい。よし、懐事情と相談の上で切り替えて行こう! 伝説的な装備は多分無理だけどなッ!


・バルバロ&ゴブイチ案、船の性能アップ


 単純な船の性能アップについては良い。やりようは色々あると思う。戦闘面だけでなく、本業の成果も上げる事に繋がるだろう。やらない手はないと断言できる。 ……が! 潜水機能の追加って何だよ!? それ、『海の神』から授かった能力で、漸く実現できたもんじゃないか! DP次第でできるもんなのか? うん、全く分からん! けど、前向きに検討はさせて頂きます!


・リン案、農園の拡大と生育方法の改良


 これも単純な面積拡大は問題ないだろう。一方、農園については殆どリンに任せ切りだから、それ以外は具体的にどういった事をすれば良いのか、正直よく分からない。が、ぶっちゃけ、このままリンに必要なDPがどれくらいなのか試算してもらって、その通りに実行するだけで良い気がする。それだけリンには信頼感が漲っているのだ。


・ジェーン案、拠点の開発


 案件が沢山あるようで、一概に頷く事ができないのがジェーン案だろう。ただ、リンと同じくジェーンに対する信頼感もカンスト気味である為、よほどの事がない限りはゴーサインを出してしまいそう。あ、決して俺がちょろい訳じゃないぞ! けど、拠点が立派になっていくのを見るのって、シンプルにやり甲斐に繋がるからなぁ。今回のDPの使い道次第では、一気に拠点が化けていきそうだ。


・アーク案、派手なコロシアム!


 ボツ。


 ―――とまあ、纏めるとこんな感じになるかな。おっ、整理すると何かいけそう? 全部が全部ってのは無理かもだけど、形にはなりそう? 実は俺の案とかも別にあったりするんだけど、そっちにまで手が回れば良いんだが。


「……よし、何とかしてみようか。皆、やるからには協力してくれよ!」

「「「「「おー!」」」」」

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