第136話 とんでもなく希少価値

「ふう、満足です」

「はわわわわわ……」


 二人の頭を繊細に、そして存分に撫で終え、どうにかクリス達は満足してくれたようだ。ジェーンは何かしらの許容量を超えてしまったらしく、途中からこんな状態になってしまったけど…… 要望に応える事はできた筈だ。うん、多分、恐らくは。


「ここで一斉砲撃! 潔く沈んじまいなぁ!」

「出た、バルバロ姐さんの確殺コンボだ!」

「フッ、こいつはなかなか…… だが、ダンディはこんなところで沈みはしないんでさぁ」

「ほう、これは名勝負になる予感がヒシヒシと……!」


 ……何か、あっちはあっちで想像以上に盛り上がってんな。厨房に居た筈のモルクも、いつの間にか観戦してるし。


「あ、そうだ。船長さん船長さん、鹵獲中の敵さんの船の数、それと大まかな状況がある程度確認できたので、その辺りを報告したいのですが……」


 と、尻尾をブンブン振るうリン。どうやら良い仕事ができた様子だ。もちろん聞きますとも。


「今回の争奪戦で戦った敵さんの船は魔導船と言って、神皇国ラヴァーズが魔導王国クロスベリアを吸収した際に手に入れた、とっても凄い船みたいです。見た事もない大きな大砲が付いていて、その全てが鉄製で、船自体もすっごく大きくって!」

「ああ、どの船も俺らの倍以上のでかさは軽くあったもんなぁ」


 んでもって、どう考えてもこの世界の技術水準を大きく逸脱していた。木製帆船が基本となるこの世界に、蒸気船をふっ飛ばして、いきなり近代的な戦艦を持ち込んで来たようなものだ。中には空母っぽい船も存在しており、今回の戦いではドラゴンの巣として機能していた。更に発展を遂げていたら、ひょっとしたら戦闘機が搭載されていたかも? 科学じゃなくて魔術を極めた先に進化したものだから、魔法的なバリアも展開可能ともう滅茶苦茶である。いやあ、マジで恐ろしいよ。あって良かった、超魔導長重砲。


 で、そのチート戦艦を作り上げたのが、今回の戦いで捕虜となった『魔導の神』の駒、宣教師パー・ワッフルなんだけど…… こんな超技術を持ちながら、ラヴァーズに完敗してしまったのかが本当に謎だ。理由を聞いても、真っ赤になるだけで絶対に答えようとしないしで、謎は深まるばかり――― と、表向きはそう思っておくけど、彼の忠誠心の高さから何となく敗因は察してしまう。彼を反面教師に俺も気を付けたいものだ。ハニートラップ、イッツ男子の敵。


「魔導船は全部で二十七隻ありました。うち、航行に問題ない船が旗艦と空母を含めて四隻、その他の船は中破以上の被害を被り、修理なしでは帰る事もできない状態にあります。船内にはクロスベリアの技術者さんも居ましたが、その……」

「ろくな施設も資材もない海の上じゃ、十分な修理はできないってところか」

「です。一応、ゴブリンさん達に魔導船を動かせるかどうかも確認してみたんですが、そちらも無理のようでした」

「そうか……」


 『器用C』のスキルで大抵の事をこなしてしまうクルー達も、流石に近代戦艦を扱う事はできなかったか。まあ、仮にできたとしても船の規模が違い過ぎて、うちの頭数じゃ絶対的に人手不足になっていただろうが。


「動かす事のできない船、後は沈んでしまった船の部品とかもハギン達に回収してもらって、売れそうなものはショップ行きにするのが現実的かな。壊れた状態だったとしても、あれだけの超技術なら相応のDPにはなるだろ」


 尤も、その相応が一体どれだけのものになるのかは、全く予想ができないのだが。


「頭目、拙者からもお伝えしたい事が」


 と、俺の背後より奇襲気味に話しかけてきたのは、捕虜達の管理を任せていたスカルさんだった。流石にオーバーリアクションで驚く事はもうなくなったが、心臓に悪い事には変わりないんだよな、その登場の仕方……


「お、お疲れ、スカルさん。捕虜から何か聞き出せたのか?」

「いえ、残念ながら。パー・ワッフル並びに宣教師の者達に平和的な尋問を続けているのですが、どうにもこの者達は口が堅く、情報を漏らしそうにありませぬ。配下の者達も同様で、鋼の如き忠誠心を発揮させています」

「宣教師どころかその部下も、か。平和的とはいえ、スカルさんが尋問しているんだ。単純な信仰心だけが理由じゃないだろうな」


 ここでも邪魔だてするか、アイの謎能力。本当に厄介な力だよ。


「お伝えしたいのは、拙者のいち意見です。リン殿ほど有益な情報ではありませんが、是非とも頭目の耳に入れておきたく」

「そう畏まらないでくれよ、スカルさんの事は信頼しているんだ」

「感謝の極み(ズズイ)」


 表情の代わりに喜びを表現しているのか、ズズイと俺ににじり寄るスカルさん。うん、圧が凄い。


「で、その話っていうのは?」

「ハッ。『魔導の神』の駒であったパー・ワッフル、そして今回の戦いで敗北した『慈愛の神』の駒であったアイ・ラヴァーズは、秘宝を奪われた時点で、神から授かった能力も失ったと考えるのが自然でしょう」

「モルクやバルバロの時と同様に、って事か?」

「ん? 呼んだかい、頭?」

「何だ、デザートの催促か? まさか貴様までアークのような事を言うようになるとは……」

「えっ、デザート!? 不味いわ、またギャフンを言う羽目になっちゃう!」

「違う違う……」


 最早俺一人のツッコミでは処理し切れないのですが。クリス、ジェーン、助けて!


「この喜びを噛み締めています」

「はわわわわわ……」


 あ、駄目っぽいですね、これは。


「能力を失った者は元々の素質に合ったスキルに置き換わる、それは先の二人が証明済み。頭目の仰る通り、パーとアイも同様かと」


 スカルさんも凄い。普通に全スルーで話を続けるつもりだ。


「故にパーは超技術の船、或いはそれに類する何かを作る事ができず、アイは洗脳染みた指導力を発揮できない状況にあります」

「……パー達が未だに凄まじい忠誠心を見せているのは、どう考えている?」

「アイの力は強制的に対象を魅了させるような不可思議なものではなく、信者達の理想とする姿を演じ、その時々で最も欲していた言葉を口にするタイプだったのかと。今はまだ、その記憶の余韻が強く影響しています」

「ああ、なるほど。今の素の状態のアイと再び会わせない限り、信者達の頭の中には最後に目にした理想のアイが残り続けているって事か」


 で、そんな頭の中の理想のアイの為に、今も頑張っていると。


「まあ、これ以上不自然な勢力拡大ができなくなったと考えれば、そこまでの障害にはならないか。ジークとの同盟を続ける為にも、どうせ捕虜達は返す事になるだろうし、アイ自身も神の駒でなくなった訳だし。どちらにせよ、確認はジークの連絡待ちだな」

「頭目、アイよりも注目すべきはパーの方かと」

「パーの方?」

「奴が『魔導』の力を失った今、今回鹵獲した魔導船はこの世界における唯一無二の存在に違いありませぬ。仮にこれらを頭目がDPで購入しようとすれば……」

「……思っていた以上に、とんでもない額になる?」


 試しにショップを開き、魔導船と似たような船を探してみる。 ……うわ、これは酷い。今の俺達でさえも、一隻も購入できないくらいの金額が提示されてしまった。


「それだけの価値があるものは、一割の値で売り払ったとしても十分なDPとなり得ます。が、もう自力での入手が困難なほどの希少性、ゴブリン達の将来的な成長を見越すとなれば、何隻か残しておくのも悪くないかと」

「……確かに、今後クルー達が更なる進化を遂げれば、『成長C』のスキルも強化されるかもしれないからな。自分らで使わないにしても、何かしらの交渉の道具として活用できるかもしれない」


 今回の特典に日々の漁だけでも、今のところDPには困っていない。なら、目先のDPよりも未来の可能性を残しておくべきか。


「拙者がお伝えしたかった事は以上になります故。ではッ!」


 そう言って、スカルさんの姿は音もなく消えてしまった。じ、尋問、頑張ってね……!

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