第135話 限定版勝利報酬
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一流のダンジョンマスターさん、秘宝略奪戦三度目の勝利おめでとうございます!
他参加者から『慈愛の心の片割』を奪取した事で、勝利が確定した事を認めます。
奪取した秘宝を担当の神へと転送します。
ダンジョンマスター用の勝利特典をプレゼント致します。
◆『5000000DP』を手に入れた!
※転送された秘宝が半分であった為、勝利特典が一部制限されます。
ご了承ください。
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「………」
目の前に現れた特典画面を前に、俺は何とも言えない表情を作っていたと思う。辺りを見回すと、見慣れた俺の仕事場(美食亭の事務所)だった。どうやら唐突に思考をあちら側に飛ばされ、好き放題言われた挙句、聞きたい事を何も聞けずに戻って来てしまったようだ。
いや、この特典自体は頗る嬉しいよ? 今回の特殊な事情が考慮され、新たなダンジョンを増やす権限こそ貰えなかったが、プレゼントされたDPは破格の500万だ。前回の特典が50万DPだった筈だから、実に十倍である。これだけで超魔導長重砲(20万DP)が二十五個もショップで購入できてしまうよ。
本業の収益でも換算してみようか。現在の漁における一日の収益が約30万DPだから、その十六日と半日ほどもの収益――― う、ううん……? 何か、こう言ってしまうと少し霞んでしまう気がするな。残している海賊のお宝も50万DP程度だったし、実は知らないうちに結構なDPのインフレが起こっていた……? ま、まあショップ価格は据え置きなので、その点は安心なんだけどね。
「けど、何だろう? この微妙に納得のできない複雑な気持ちは……」
行きが勝手なら帰りも勝手、争奪戦の前情報が殆どなかった事とか色々と問い詰めたい話が沢山あったのに、用が済んだら直ぐにバイバイしやがって。ジークんとこの『秩序』の神様は、その辺懇切丁寧に教えてくれそうな雰囲気があったぞ? 見た目は幼かったけど、雰囲気で何となく分かる! 絶対そうだ! あっちの神様はうちよりよっぽどまともだ!
「マ、マスター、ご無事ですか!?」
俺がそんな風に心の中で文句を言っていると、クリスが扉を壊す勢いで事務所に入って来た。なるほど、クリスも前と同じように、さっきの光景を目にしたのか。そして俺の元へと馳せ参じた、と。
「ああ、行き帰りこそ唐突だったけど、この通り俺は無事だよ」
「よ、良かったぁ…… いつもの争奪戦の展開と違う流れだったので、余計に心配してしまいました」
「ハハッ、気遣ってくれてありがとな。クリスはもう分かっていると思うけど、争奪戦にも無事勝利できた。ジークが時間差で秘宝を手にして、この変なタイミングになったみたいだ。あっ、そうそう、皆にもこの事を伝えないと」
「大事なお話ですし、直接お伝えした方が良いですよね? 一度集合をかけましょうか? 戦闘後の処理を始めてから、もう随分経ちますし」
「ああ、休憩を兼ねて集まろうか。いい加減、俺も数字から目を離したい……」
扱う数字の桁が大きくなると、それ相応の緊張感に襲われてしまうのは世の常。つまり、メンタル的にもめっちゃ疲れるのだ。目も脳も心も疲れるのだ……
いつもなら頼りになり過ぎる助っ人、リンとジェーンが手伝ってくれるんだけど、リンは現場で鹵獲した魔導艦の管理役の一人として活躍中、ジェーンは敵艦内に大量に出た怪我人達を回復し続けた影響で、俺以上に疲労困憊な状態にあるからな。流石にこれ以上無理はさせられないという事で、ベッドで横になってもらっているところだ。
「だからこそ、俺はこうして孤独に数字と戦っていたのである。まる」
「ええと、マスター?」
「あ、いや、何でもないんだ。俺から皆にメールを送っておくよ。集合場所はいつものように、
「フフッ、目に浮かんでしまいますね。承知しました。アークさんをギャフンと言わせるようなものを用意します!」
「おお、そこまで言っちゃう? なら、そんな光景を期待しちゃおうかな?」
「お任せください!」
とは言ったものの、流石のアークも飯を食べてギャフンとは言わないだろ――― いや、正直微妙、か……? うーん、ひょっとしたらひょっとするかも。
◇ ◇ ◇
「ギャフン!」
「言っちゃったよ……」
アーク、クリスの料理の前に完敗。およそ飯を食った時に出すものとは思えない叫びを上げ、そのままノックダウンしてしまった。
「だって、だって美味し過ぎるんだものぉぉぉ……!」
「よし、狙い通りです」
泣きながらそんな釈明をするアークの姿を前に、クリスは満足そうに何度も頷いていた。いやいや、これって狙ってできる事じゃないだろうに。ただ美味しいだけじゃ、あんな叫びは出ないだろうに。最早脱帽するしかない。いつもの事だが、今のアークに話を聞いてもらう余裕はなさそうかな。後で個人的にも伝えておこう。
「さて、アークはさて置き…… サハギン達を率いて魔導戦艦を鹵獲中のハギン、捕虜の監視に当たっているスカルさん以外の面々は集まったみたいだな。そろそろ始めようか」
かくかくしかじか、報酬うまうま。と、ついさっき起こった争奪戦の勝利報告をする。
「ほう、つまりはまたしても提督の名声が高まったと。提督の右腕として、これ以上の喜びは他にない。今日この日を戦勝記念日として、後世に伝えていきましょうや」
「おいゴブイチ、いつからアンタが頭の右腕になったんだい? 冗談は休み休み言いな」
「そうだそうだ! バルバロ姐さんが最強に決まってんだろ!」
「フッ、若いねぇ。お嬢さん方、覚えておきな。噛みつくばかりじゃ、提督の右腕は務まらないんでさぁ」
「よっしまた言ったなこの野郎!? 表に、いや、海に出な! 今日こそはキッチリ負かしてやるよ!」
「姐さん、あたしも行くよ! あいつの脳天に直撃させてやる!」
「面白い。二人纏めてダンディに負かして差し上げよう」
「いや、今は戦闘の後処理中だから、勝手に船を出されたら困るんだが」
今にも漁選手権に出発しそうになっていたバルバロ達を止め、何とか席に戻らせる。取り合えず、ショップで遊戯用に購入していた海モチーフの盤上ゲームを渡し、それで一旦の時間稼ぎをする事に。このゲームは駒一つ一つが船の形をしていて、疑似的な海戦を楽しむ事ができるんだ。ちなみに、仲間内でのトッププレイヤーはリンとジェーンで、俺程度では本当に本気のマジで敵わないレベルだ。おい俺の知力ステータス、そろそろ仕事をしてくれても良いんだよ?
「あー、ジークからの連絡はまだないが、あっちは敵本拠地での勝利だからな。俺達以上に処理すべき事が多いんだろう。神様世界でも特段変な様子はなかったし、まっ、ここは大人しく連絡を待つとしよう」
「了解だよ、キャプテン!」
「その間にも、私達にできる事をやっておきましょう!」
「おっ、良い返事だ。トマとリンは先の海戦でも凄く頑張ってくれて、俺も鼻が高いよ。今後も期待しているからな!」
「へ、へへっ、キャプテンに褒められちゃったよ」
「え、えへへ……」
褒めるついでにトマリンの頭を撫で、俺のメンタルも急激に回復。よし、今後について話を進めようか。
「「ジー」」
……あの、クリスさんにジェーンさん? その何かを言いた気な視線は何です? と言うか、最早自分でジーとか言ってますよね? いや、自分達の頭も撫でろって意図は流石の俺も感じちゃうんだけど、今はそういう時では…… あ、はい。誠心誠意撫でさせて頂きます。
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