第127話 突入準備

「せ、船長さん、目標に命中しました。墜落します」

「了解だ。リン、トマ、よくやってくれた」


 バルバロのものを借りたんだろう。通信機から聞こえて来るリンの声に、俺はホッと胸を撫で下ろした。次いで、真上から敵の指揮官らしき女が落ちて来るのを確認。ハギンの部隊に救助&捕縛を命じ、もう一度ホッとする。ああ、上手くいって良かった、マジで良かった……!


「ウィ、ウィル様、上空での戦いも、上手く事が進んだのでしょうか?」

「え、何々? ドラゴンステーキできたの?」


 俺の隣で、というか俺の肩に乗りながらアークの治療をしていたジェーンが、ふとそんな事を問い掛けて来た。俺が安心したのを察知したんだろう。アークも興味がありそうな感じだ。うん、敢えてツッコみはしないぞ?


「ああ、トマとリンが敵の指揮官を撃ち落としてくれたんだ。そうなれば残るドラゴン軍団も、後は瓦解する道しかない。クリスが殲滅するのも、時間の問題だろうさ」

「ま、まあ!」

「へえ、トマリンもやるじゃないの。で、調理はいつ頃終わりそう?」


 いや、だからツッコまないと言っているだろうに。しかし、アークの食い意地は凄いからな。何かしら言っておかないと、延々とこの話を振って来そうだ。


「うーん、何と言って誤魔化すかなぁ」

「え、誤魔化すって―――」

「―――ゴッホン!」


 やばい、声に出てた。助けて、ジェーン!


「え、ええっと、あの…… こ、この作戦、どういった内容でしたっけ? 私、急に復習したくなっちゃいました!」

「え? ジェーン、急にどうしたの?」

「そうかそうか! それじゃ、復習しないとな! 復習は大事だもんな! なっ、アーク!?」

「そ、そうなの? うん、そうかも?」


 よし、アークが釣れたぞ。ここで一気に説明して、話の流れを変える!


「クリスとトマの狙撃攻撃、その次の手がクリス単独での接近戦だったんだけど、実はそれも陽動の側面があったんだ。狙撃を終えて落ちて来たトマ、ハギン達に救助してもらって、こっちじゃなくてバルバロの船に向かわせたろ? その理由は不意打ちをする為だったんだ」

「不意打ち、ですか?」


 よしよし、ジェーンが良い感じに話を合わせてくれてる。


「あー、そう言えば何でバルバロの船に行ったんだろうな~って、不思議に思っていたのよね~」


 そうだったのか~、と、アークが素で感心している。作戦は成功だ。しかしアークさん、これ、既に一度説明している筈なんですけど。作戦会議の時に俺の話、もしかして聞いてませんでした? いや、まあ確かにアークには直接関係のないところだったけど、結構重要ではあるから、ちゃんと聞いてほしいと言いますか。


「そう、不意打ち。夜の適正を得てパワーアップしたクリスは、魔法に関してはアークにも匹敵する。それこそ、ドラゴン軍団を容易に翻弄できるほどにな。けど、早撃ちに特化させた接近戦状態だと、敵の指揮官を生け捕りにできるほど、器用に立ち回る事はできない。指揮官にクリスの魔法を当てたら、それこそ火力が有り余って殺してしまうからな」

「な、なるほど、そこでトマ様とリン様に出番が回る訳ですね!」

「ん? どういう事?」

「さっき、トマとリンが敵の指揮官を撃ち落としてくれたって言ったろ? 具体的に何をやったかと言うとさ、クリスとトマがやっていたあの狙撃を、バルバロの船あっちでリンと一緒にやってもらったんだ」

「ん、んんっ?」


 アーク、この顔は絶対に理解していないだろ。うん、説明のし甲斐があるなぁ。


「クリスの炎は殺意増し増しだが、リンの水による魔法は非殺傷。要はリンの水魔法を大砲代わりに、トマが甲板から狙撃したんだ。ドラゴンに乗る敵の指揮官目掛けて、ズバンとな」


 ファイアワークスバレットでの狙撃は、クリスとトマの息が合わないと使う事ができない協力技だ。当然、それをリンと行う場合も条件は同じなのだが、そこは流石、双子の兄妹と言うべきだろう。二人は『カタラクトバレット』をこの短期間で物にし、作戦を成功に導いてくれたのだ。


「ドラゴンから情報を得る事はできませんが、敵の指揮官とは話ができます。だからこそ、敵指揮官の捕虜が欲しかった訳ですね、ウィル様!」

「うんうん、その通り!」

「なるほどねぇ。最悪の場合、ダンジョン内で止めを刺した方が、DPにもなってお得って事ね! ウィルったら、色々考えてる~」


 うんうん、それもまあその通りだけど、物騒だからあまり口にはしないでね!


「まあ、兎も角だ。これで宣教師と思われる敵を二人捕らえる事ができた訳だ。今のところ他に敵が打って出て来る様子はないし、残るは向こうにいる船団のみかな。アーク、そろそろ最後の攻撃を仕掛けるけど、バルバロの船に戻らなくて良いのか?」

「あっ、そうだった! すっかり終わった気になっていたけど、まだ戦えるんだったわね! クリスが作り置きしてくれた特製お弁当を持って、ちょっくら行って来るわ!」

「おう、健闘を祈るー」

「き、気を付けてくださいねー……」


 いつぞやにジークが見せてくれた海渡り、それを見様見真似でアークが披露してくれた。短い距離ではあるが、マジで海の上を走ってる。弁当片手に疾走してる。すげぇ、やべぇ。


「ついさっきまで重傷だった人間とは思えないな……」

「ま、まあ、元気なのは良い事ですし……」

「提督、呆気に取られるのも良いですが、こちらからの次は支援はどうしやす?」


 ゴブイチの言葉で現実に戻る俺。そうだ。アークも言っていたが、まだ戦いは終わっていないんだ。通信機でバルバロに連絡する。


「バルバロ、トマをこっちに戻してくれ。作戦の最終段階に入る」

「おっ、遂に来たか! 了解だよ、かしらぁ!」


 作戦の最終段階、それは敵船全ての無力化、つまりは敵船の制圧を意味する。前にも言ったが、そうしないとお宝や残る敵指揮官を捕まえる事ができないからな。その為に第二ダンジョン船が突貫し、バルバロ達が敵船に乗り込む必要がある訳だが―――


「―――もちろんこんな状態じゃ、まだ安全には送り出せないよな。スカルさん、いるかな?」

「ここに」


 名前を呼ぶと、俺の影から浮かび上がるように、スカルさんがスッと姿を現した。うん、ビックリするから普通に出て来てほしい。心臓バックバクですよ、もう。


「ス、スカルさん、トマが戻って来次第、『新スカルさん弾』を使う事になるけど…… 大丈夫か?」

「頭目、拙者は既に死んでいる身。心配は無用です。それに此度の策、拙者の能力を十全に活かせる見事なものではありませぬか。頭目の期待に応えてみせましょうぞ」

「そうか…… うん、期待している。リンやバルバロ達が安全に敵船に辿り着けるかは、スカルさん次第だ。その力、思う存分発揮させてくれ」

「御意ッ!」


 覚悟だけでなく、暗殺者の如きクールなポージングまで決めてくれるスカルさん。その様は率直に言って、かっけぇっ! って感じだった。絶妙なタイミングで風が吹いて、ローブのマフラー部分が靡いてるし。何だそれ、サービス精神旺盛過ぎるだろ。ダンディなゴブイチも、これには嫉妬してしまいそうだ。


「いえ、吾輩とは格好良さの方向性が違いますんで」

「そ、そうか?」


 俺にはよく分からない領域の話だな…… あと、勝手に心を読まないで。


「では、トマ殿が来たら伝えてくだされ。拙者、先んじて大砲の中で待機していると」

「あ、ああ、分かった……」


 そんなかっけぇの直後だっただけに、大砲の中へ自ら入って行くスカルさんの姿は、何ともミスマッチに感じられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る