第113話 緊急会談
アークとバルバロの勘を信じ、一先ずはジークとの会談に応じる事とした俺。甲板の上にテーブルと椅子を用意し、向かい合わせになるようにして座る。ジークは事前の連絡通り丸腰で、武器の類は持っていない。しかし丸腰と言えども、あの通りの戦闘力だ。侮って良い相手では絶対にない。俺の背後にはもしもの時に備え、クリスとアークに控えてもらう。
こんな事をすると、俺の秘宝であるクリスを敵前に出すのは危ないのではないか? なんて思われるかもしれないが、まあ、その辺も色々と対策はさせてもらっている。女性に触れる事ができないだなんて、そんなジークの言葉を丸っきり信じている訳ではないさ。
「フフッ、まだ信用してないって顔だね。用心深い事は良い事だ。詐欺の対策にもなるからね」
「……ハァ、毒気のない顔でよく言うよ。けど、それはそちらも同じ事じゃないのか? 同盟の締結が目的だとか言っていたが、初めて会う相手によくそんな事が言えたな? 正直な話、アンタも俺も信用し切ってはいないだろ?」
「もちろん!」
相変わらずの眩しい笑顔で、よくもまあここまで爽快に答えてくれるものだ。マジで眩しい、目が痛い。
「君の言う通り、無条件に相手を信用するなんて事は健全とは言えないからね。だから、一つ提案させてほしい。対象に悪事を自白させるという私のスキル、『一問一答』を覚えているかな?」
「当然、頭には叩き込ませてもらったけど――― おい、まさか」
「そのまさか、この力をウィルさんに使って、私の同盟相手として相応しいかを判断したい。もちろん、使うのはウィルさんの了解を得てからだ。使われて都合が悪いのなら、この時点で断ってくれても良い」
「海賊相手に悪事を吐かせて、納得のいく結果になるとは思えないが…… それにしても随分とまあ、色々と俺達に選ばせてくれるのな。で、断ったらどうするんだ? その時点で敵対するのか?」
「まさか、疑わしきは罰せずだよ。流石に同盟の話はなしにするけど、この場で戦いに発展する事はない。私達が大人しく帰るだけさ。ああ、能力を使って私が納得のいく回答を得られなかったとしても、それは同じだよ? 断言しよう、この場でウィルさんがどう答えようと、私は危害を与える気はない。ま、正当防衛をする場合は別だけどね」
言っている事が綺麗過ぎて、逆に怪しい奴だ。ただまあ、海賊を語ってはいるが、実質今の俺達の主な活動はほぼ漁師さんな訳で。これまで戦って来た相手もモルクにバルバロと、ジークで言うところの正当防衛的なものしかない。悪事を吐かされたところで、そこまで酷いものは出てこないと思う。
「……条件を飲もう。その『一問一答』とやらを、俺に使ってくれて構わない」
「おお、ちょっと意外だな。海賊なのに即断即決、本当に良いのかい?」
「ジークから言って来た事だろ。それに、こんな僻地に住んでいるんだ。別に秘密にするような悪事なんて働いていないんだよ。ほら、さっさとやってくれ」
「ハハッ。なるほど、変わった海賊だね。オーケー、それなら聞こう。ウィルさん、貴方がこれまでに起こした悪事の中で、尤も罪深いものは何だい?」
ジークがそう俺に問うと、不思議な事に俺の口は勝手に動き出していた。
「人を殺した事だ。俺がこの世界に来たばかりの頃、海の上で奴隷船と出くわした」
俺は奴隷船の船員達と交戦し、これを殺していった事を淡々と語っていく。その際にアークを仲間にしたなど、細かなところを喋る事はなかったので、恐らくは俺が罪と認識している部分のみを語らせる力なんだろう。さて、奴隷船の船員の殆どを全滅させたところまで話した訳だが、ジークはどんな反応をしてくれるだろうか?
「―――とまあ、こんなところかな。正当防衛だと思ってはいるが、人殺しをしたって点は事実だ」
「……ウィルさん、本当に海賊?」
ここに来て初めて、ジークの表情が崩れる。なんだ、その意外そうな顔は?
「海賊は副業で、本業は漁師だよ。モルクみたいなのに襲われたら、俺らも襲い返す。そんなスタンスなんだ、悪いか?」
「
「お、おい、会談中に割り込んで来るなって……!」
「ふ、ふふっ、ぷふっ……」
そう通信機越しにバルバロに注意していると、今度はジークがふるふると小刻みに震えていた。
「い、いや失礼。正直、そんな答えとやり取りが返ってくるとは思っていなくてね。なるほど、本業が漁師な海賊…… ぶふっ! ……またまた失礼、娯楽に飢えているから、こんな面白話を聞くのも久し振りで――― コホン! なるほど、了解した。ウィルさん、貴方達は想像以上に潔白な海賊のようだ。いや、海賊と言うよりも、自警団的な性質を併せ持つ漁業集団かな? まあ、今はそんな事よりも―――」
ジークはおもむろに立ち上がり、再び握手を求めるように右手を出して来た。
「―――ウィルさん、改めて君達に同盟をお願いしたい!」
「いや、肝心の同盟の内容が全然詰められてないんだけど……」
「………」
何事もなかったかのように、スッと椅子に座り直すジーク。こいつ、もしかして案外おっちょこちょい?
「私が君達に同盟を求める理由は単純だ。地理的に次にぶつかるであろう『慈愛の神』の駒、アイ・ラヴァーズの勢力に単独で対抗できないからだ」
バルバロとモルクから聞いていた、他の駒についての情報を思い出す。確か『慈愛の神』の駒は、神皇国ラヴァーズという宗教国家に所属していた筈だ。ラヴァーズはキアスプーン大陸にあり、ジークやモルクが拠点を置いていたフォークロア大陸とは隣り合わせの位置関係となっている。
「何週間か前に、アイは間近にあった魔導王国クロスべリアを攻め落とし、その際『魔導の神』の駒を仲間に引き入れた。と、ここまでの話は君達も知っているだろう。けどさ、次にアイが率いる世界最大の軍団が、どこを標的にするのかは考えてみたかな?」
「……キアスプーン大陸に敵がいなくなったとなれば、次は隣の大陸に喧嘩を売りに行くのが、まあ自然な流れだろうな」
「その通り! しかし悲しいかな、私が所属するサウスゼス王国は決して大国という訳ではなく、とてもではないけど神皇国ラヴァーズには太刀打ちできないんだ。間近の神の駒と共闘しようにも、既にモルクは敗北して行方不明になっていて、今のフォークロア大陸には助けを求められるような相手がいない。そこで大陸から若干離れてはいるが、共闘ができそうなウィルさん達に話を持ち掛けた訳さ! 正直なところ、争奪戦を含めて腹を割って話せるの、ウィルさんしかいなくて困っています!」
「……それだけの戦闘力があるのなら、ジーク単独でも結構良い勝負ができるんじゃないのか?」
「いやいや、物事はそう単純にはいかないものだよ。確かに純粋に戦闘するだけなら、アイが有する『宣教師』達にも負けない自信はある。けど、戦争による被害は甚大なものになるだろう。私や騎士団がどんなに奮闘しようとも、流石に国土全部を防衛するのは不可能だからね。そもそもだ、護るべき者達を見捨てる選択をした時点で、私の『絶対秩序』は私の愚行を許してくれないだろう」
なるほど、ジークを敬愛する国民達から被害者を出す訳にはいかないって事か。強力だけど、本当に難儀な能力だな。
「西のフォークロア大陸が標的になれば、まず狙われるのはジークの国。それが終われば、次に近い俺達の番って事か。確かに他人事ではないが―――」
「ん? あー、この知らせを教えておこうかな。つい先日、神皇国ラヴァーズの軍港から軍艦が出港した。軍艦の向かった方角、密偵が集めた情報からして、目的地はここだ」
……はい?
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