第100話 第二回・DPの使い道
歓迎会の翌日、いよいよ俺達はダンジョンの大規模改造に取り掛かる事にした。バルバロを仲間にする前段階でDPの使い道等々は決めている為、後は実行するだけ――― なのだが、やはり大金、否、大DPを使う時ってのは手が震えるものだ。そんな庶民派な俺の心も、朝からずっと落ち着きがなくて困る。ついでに俺の足も落ち着きがなく、拠点内の散策に勤しみまくりだ。
「ウィ、ウィル様、いつもより大分心臓の鼓動が早いようですが、大丈夫ですか?」
と、いつものように俺の肩に乗ったジェーンにまで心配されてしまった。しかも、これで本日三回目である。考えてみれば、大丈夫じゃないけど大丈夫と答え、あっちをウロウロこっちをウロウロ、俺が不安になる度にジェーンもオロオロと、何とも言えない悪循環に陥っていたかも。
「………」
……そして今気付いたけど、建物の物影からクリスが心配そうに俺を見守っているのを発見。さしている日傘が建物から大分はみ出ていて、正直隠れているとは言えない感じだ。 ……うん、そんなクリスを気付けないくらい、今日の俺は浮足立ってるって事か。いかん、これはいかんぞ。
「あの、今日やる事を整理してみてはどうでしょうか? このまま当てもなく歩き続けるよりは、心を落ち着かせる効果があると思いますよ? 話し合いをされた時、私もいつの間にか気を失ってしまいましたし、そうして頂けると助かるかも、です」
「そ、そうか? うん、そうだな。ジェーン、ナイスアイディア。じゃ、ちょっと付き合ってくれよ」
「は、はい!」
お言葉に甘えて、今一度整理してみよう。えっと、場所は…… 港が良いかな。防波堤に座って、潮風に当たりながら島の入り江を眺めるのも悪くない。
「やっぱこの場所は良いもんだ。ここにいるだけで心が晴れるよ」
「天気も良いですもんね。あっ、天候はウィル様が操作されているんでしたっけ?」
「ああ、周期的に雨も降らすようにしてるけど、基本は快晴に設定しているからな」
そんな太陽サンサンな天気のお蔭で、隠れるクリスも直ぐに発見できた訳だけど、これって声を掛けた方が良いのかな? 微妙に遠くの位置に陣取っているから、呼ぶにしても何か呼び辛いと言いますか。 ……眼鏡まで掛けて変装している辺り、本人は完璧に隠れているつもりっぽいし、暫くは気付かない振りをしておこう。
「それじゃ、今俺達が持っているDPから確認しておこうかな」
「私達エーデルガイストを仲間にした際に、DPの殆どを使ってくださったと伺っています。しかも、海賊船にあった財宝の一部まで使ったとか。その節は、何とお礼を申し上げたら良いのか、あの……」
「あー、そういう堅苦しいのは止め止め! 俺が好きでやった事だからさ、ジェーンが気に病む必要は全くない!」
「すす、好きだからやった事!? そそそ、それって……!」
「……えっと、勝手にやった事って意味ね」
あの、ジェーンさん? 俺ってば、そんなプレイボーイな台詞は吐けないんですけど? 流石にそこまで分かりやすい勘違い&反応をされたら、俺も察してしまうと言いますか。
「……(グッ!)」
で、隠れているクリスは何でサムズアップしてるのかな? 日傘と一緒に、親指を立てたハンドサインも見えているんですけど? ええい、もう話を戻すからな!
「確かに、ジェーン達が村人に加入して、拠点を拡張した際にDPは枯渇した。だが、あの日から十日が経った今、漁で稼いだDP、そしてダンジョン内に村人枠としての皆がいる事で発生したDPが、およそ50万DP! 更に争奪戦の勝利特典で入手したDPも50万! 合わせて100万DPにまで、俺達の懐は潤っているんだ!」
ババーンと心の中で効果音を鳴らす。
「す、凄いです! この短期間に、そんなに……!」
「まあ、バルバロとの戦いで囮に使った帆船に2万DP、島の入り口を塞いだ岩礁で5万DP、他にも鉄檻やそれを入れる小屋、娯楽施設の酒場やら隷属の首輪やらで、もう10万DPは経費として使っちゃってるんだけどね……」
「そ、それでも90万DPありますから、やっぱり凄いですよ!」
ジェーン、本当に心優しい娘やで。まだ海賊のお宝が半分残ってはいるが、これは俺達にとっての虎の子だからな。使う時はもしもの時だ。
「それで、この90万DPの使い道はどういった風に?」
「まずは第3ダンジョンについてだけど、新たに船を作る事にした。今俺達が乗船しているものと、全く同じ帆船だ」
船をもう一隻作る狙いは、平時に行う漁による収益を更に上げる事。そして争奪戦において、また引き起こるであろう海戦、その時に使える戦術の幅を広める事にある。同じ帆船を購入するとすれば、その際に2万DP。それから今の船と同じ数と構成のモンスターを配属させるとすれば、枠を作る費用も含めて16900DP。ダンジョンのフロアを3つに分けると、更に3000DPが飛ぶとして――― 大体4万DPで済む計算かな。今となっては良心的な価格と言えるだろう。バルバロが仲間になって指揮系統に広がりも出て来たし、今だったら増やしても問題ないと踏んでいる。まっ、メンバーをどう振り分けるか等々、細かいところは検証が必要なんだろうけどな。
「船が二隻…… 私はウィル様と一緒、ですか?」
「ん? ああ、ジェーンは俺に憑いて乗船する形になるから、特性的にもそうなるかな」
「そ、そうですか。安心しました」
声に反応して俺が振り返ると、ぱあっと笑顔になっているジェーンが視界に入った。そして、そんな彼女と不意に視線がぶつかる。
「「あっ」」
俺の肩に手を置いてる、イコール、目が合うと大変に近い位置に顔がある訳で。二人して急いで視線を逸らしたが、俺もジェーンも顔が紅潮して、何だか変な雰囲気になってしまった。クリス、すまん。今のは事故なんです。
「わ、悪い。そういえば、憑依した状態で二人で長話するの、今日が初めてだったな。いや、俺の不注意だった」
「い、いえ、私も少し顔を寄せていましたし、私も不注意でした。すみません……」
「「………」」
ちょっとした沈黙が場を支配する。この場を見ているクリスが心配になって、ふとそちらを見てみると、またクリスがサムズアップしていた。その隣には、いつの間にかグレゴールさんと奥さんの姿もって、アンタらそこで何やってんの!?
「つうか、クリスはどんな感情で見守っているんだ? 全く分からん……」
「ウィル様?」
「あ、いや、何でもない。話を続けようか」
お次のDPの使い道は、ユニークモンスターの発現について。使い道と言ったが、既に俺達にはユニークモンスターの専用枠が一つあったりする。これは第2ダンジョンを増設した事で増えた枠だったのだが、慎重を期して手付かずになっていたんだ。多分だけど、第3ダンジョンを解放したら、もう一つ分枠が増えるんじゃないかな。
「最初はクルーのゴブイチに、ダンジョン増やしてまた枠が増えたらスカルさんに、10万DP払えばまたまた枠が増えるから、それでサハギンをユニークモンスター化させたいと思ってるんだ」
「一気に三枠も……! 戦力がとっても強化されそうですね!」
「どこまで強化されるかは、まだ未知数だけどな。けど、俺もかなり期待してるよ」
最後のDPの使い道になるが、これにはアークの力を弱めている邪詛の鉄球、こいつの解除に動きたいと考えている。但し、この鉄球の解呪が可能な『解呪の鍵(銀)』は、大変に大変にお高い代物で、なんと二つで60万DPもしてしまうのだ。だから、今日のところは二つまでの解呪に止まる。にしても高い、高過ぎるよ……!
「とまあ、そんな感じに使っていって、残ったDPは拠点の衣食住の補填に当てようって話になった。これについては後で詰めるけど、ジェーンの知識も当てにしてるから、その時はよろしくな!」
「は、はい、頑張りましゅ! ……ます」
遠くの方で、クリス&グレゴール夫妻がサムズアップしているのが見えた。
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