第101話 第三ダンジョン船

 ジェーンとの会話を終え、いよいよダンジョンの拡大を実施する時が来る。まずは第三ダンジョンである二隻目の帆船を生成。いつものように摩訶不思議な現象と共に出現する、新たなる俺のダンジョン。具体的には海の上に、どこからともなく集まって来た木材が次々と変形&合体。その手の合体ものが好きな男の子であれば、思わず瞳を輝かせてしまうであろうシーンが眼前で展開されていた。


「「「おおー!」」」


 事実、俺やトマ、一部のエーデルガイストの男衆は熱い視線を向けていたよ。


 新造船だけあって、出来上がった帆船はピカピカの新品だ。とはいえ外見や内装、船員や機能まで一隻目と全く同じであるから、乗り心地は殆ど変わらないと思う。


「はー、一瞬で船ができるだなんて、驚きだ」

「ビスタさんなら、船も作れるんじゃないのかい?」

「いやいや、俺の鍛冶で作る刃物とは別物だって」

「おっきー! ぴっかぴかー!」


 試運転を行う出港式では、拠点の皆が港に集結。老若男女揃えば色々と話も弾むもので、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。そんな中で第三ダンジョン船が出港すると、また港の方から歓声が上がり始める。そんな意図はなかったんだけど、楽しんでもらえたのなら何よりかな?


「バルバロ、この船の乗り心地はどうだ?」


 この帆船に乗るのが初となるバルバロに、俺はそんな問い掛けをしてみた。海賊の先輩、そして船の専門家としての意見を伺いたかったんだ。


「ああ、悪くないねぇ。初めはモンスターの船員なんてと訝しんだもんだが、実際に乗ってみればよく働いているし、指摘するところがないほど作業も的確だ。けど、アタシらとやり合った時のこいつの速度は、こんなもんじゃなかった筈だよ? 勿体振らずに最高速で走りなよ、最高速で」

「あれはそう簡単に持続できるもんじゃないんだよ。俺が能力で風向きを、リンが魔法で波を操作して、初めて可能になる操船術なんだ」

「じゃあ、ちょっと! ほんの少しの間だけで良いから!」

「えー……」

「船長さん、私は大丈夫ですよ。魔法の特訓にもなりますし」

「ほら、ちっちゃいのも、ああ言ってるよ!」

「お前なぁ……」


 リンの優しさに免じて、バルバロに要求通り、入江から島の外に出た辺りで速度を出す事にする。


「おおっ、これがあの化け物船の! 速い速い、良いね良いねぇ!」

「ひゃっほー!」


 船の最高速を堪能するバルバロ、そしてなぜかその隣で一緒に速さを楽しんでいる、皆のアークお姉さん。二人とも、頼むから馬鹿みたいに船から身を乗り出すな。トマが真似したらどうするんだ。


「お二人とも、そろそろ真面目にやりましょうね?」

「「げぇ、クリス(角娘)!?」」


 そんな事を言おうとしたのも束の間、笑顔だけど凄まじく圧のあるクリスに詰め寄られ、やんちゃな二人は鎮圧されるのであった。


 とまあ、こんな調子で島の周りを何周かした後、実際にバルバロに船の指揮を執らせてみたり、休憩がてらに漁をしてみたりと、お試しクルーズは順調のまま終える事ができた。ふう、一先ずはDPを使おう、第一段階終了っと。第三ダンジョン船、港に帰還。


「で、次だけど、ユニークモンスターを―――」

「―――ウィル、私の鉄球外してくれるんでしょ? それなら、こっちが先!」


 アーク自由形、今日もマジでフリーダム。


「一応、鉄球の解呪が一番高価なお買い物だったから、最後にしようと思っていたんだけど…… ああ、うん。分かった分かった。そんな鼻息荒くしなくても、今ショップから銀の鍵を買うから」


 さらば、俺の60万DP……! 大金をリリースして、銀の鍵二つを購入……!


「ハァ、ハァ……! ア、アーク、これが呪いを解く鍵だ。どの鉄球を外すかは、お前が決めろ…… がくッ……!」


 大金を使った衝動に耐えられず、アークに鍵を渡した次の瞬間、膝から崩れ落ちてしまう俺。


「ええっ、ウィル!?」

「ああっ、マスター!? マスターが倒れました! ととと、取り敢えず私が、膝枕を……!」

「わわわ、私が魔法で回復をををっ! ウィル様、傷は浅いですっ!」

「せ、船長さん、胸元を開けて楽にしますね!」

「リン、それはキャプテンのズボンだ! 落ち着けって!」


 ……何か、物凄くわっちゃわっちゃしてる。


「何をやっとるんだ、あの小僧は?」

「慣れない事をしちまって、心が耐えられなかったって感じだねぇ。そんな青いところも、また美味そうだ!」

「バルバロ、貴様なぁ……」

「あまり怖い事を言わないでくれよ。俺のガラスのハートにヒビが入るぞ?」


 と言いつつ、俺復活。覚悟を決めていたお蔭で、何とか致命傷で済んだようだ。


「それじゃ、両足の鉄球を外すわよー。両腕の方は、武器として使えるし!」

「あいよー」

「切り替えが早いな……」


 それこそ、俺の数少ない取柄の一つだからな。さて、鉄球も無事に外れたようだし、アークのステータスをドン。


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アーク・クロル 19歳 女 人間 元剣闘士

HP :852/852

MP :0/0

筋力 :S(マイナス4⇒A+)

耐久 :S-(マイナス4⇒A)

魔力 :F--

魔防 :D--

知力 :E-

敏捷 :A++(マイナス4⇒A--)

幸運 :A

スキル:全武器適性A

スキル:飢餓の力B

スキル:闘争本能B

装備 :白スカーフ

    衣服

    ブーツ

    邪詛の鉄球+(筋力・耐久・敏捷マイナス2効果)

    邪詛の鉄球+(筋力・耐久・敏捷マイナス2効果)

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「わあ、体が軽い! これなら、もっとおっきな魚を釣れるわね!」

「あ、そこは漁業基準で考えてくれてるのね…… しっかし、改めて見ると、やっぱり凄まじいステータスと能力だ――― ん、あれ? 残ってる鉄球、名前にプラスが付いてる? こんなの、前にあったっけ?」

「ああ、それは邪詛の鉄球の非常時形体だろう。正規の方法でないやり方で鉄球を二つ外すと、鉄球に更なる呪いが付与されるようになっておるのだ。その状態になると、銀の鍵でも解呪は無理であろうな」

「ハァ!?」


 ハァ!? と、あまりのショックに心の中でも、驚きの声を反復してしまった。


「モ、モルクお前、何でそんなアホな仕様に……!?」

「勘違いするな。ワシではなく、売り手側である闘技場がそんな仕様にしたのだ。尤も、この伝説級の遺物で拘束された、これまた怪物級に強いアークに見合うだけの大金を、ワシは積んでおったのだぞ? その辺をよく理解するが良い」

「クッ、確かにすっごい金は払っていそうだったけど……! ま、待て、それじゃあ正規の方法ってのは? 他に鍵があるのか?」

「正規の鍵はワシの屋敷に隠しておる。だがワシが行方不明となった今、その屋敷もどうなっておるのか分からん。それを期待するのは止した方が良いだろう」


 な、何という事だ。俺が心を挫きながらDPを払い、その上で購入した銀の鍵でさえ無理となれば、残るはショップに並ぶ最上級品の解呪アイテム、『金の鍵』を使うしか望みはないじゃないか! え、えっと、金の鍵のお値段は――― 桁ががががが。


「……はい、最後にユニークモンスター化、いくぞー」

「現実逃避したわね」

「ああ、心がもたなかったんだろうねぇ」

「マスター、私の膝枕ならいつでもご利用ください!」


 うん、もう終日利用したい気分です。

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