第98話 歓迎会

 話を整理しよう。俺と同じ神の駒であるバルバロとモルクには前世の記憶があり、場合によってはその時の経験を活かし、この争奪戦に臨んでいた。なるほどなるほど、そいつは大きなアドバンテージになるよな――― って、何で記憶があるんだよ!? こちとら絶賛記憶喪失中だよ!?


「小僧、お前…… 参加順が最後だっただけでなく、記憶までない状態で戦っておったのか……」

「あー、優男が言ってたっけ。不利な条件でスタートするほど、勝利した時の対価も大きくなるって。つまりさ、かしらの神は凄まじく不利な条件で争奪戦に参加したって訳だ。流石のアタシもその神の頭の具合を疑っちまうねぇ。大馬鹿なのか大物なのか……」


 状況を理解した二人は、揃って同情をするような視線を俺に向けて来た。クッ、順当に勝ち抜けば徐々に記憶が戻って行くとか、そんな感じの流れだと思っていたのに! プラス、秘宝の事とかの争奪戦の重要な事柄を伝え忘れてるし、あの神ッ……!


「よ、よし、飯を食おう、飯を。元気を取り戻すにはそれが一番だ」

かしら、アタシが酒を注いでやるよ。アタシが男に酒を注ぐなんて、世界がひっくり返っても起こらない奇跡だよ? ほら、もっと喜びなって、な? だから酒を飲もう?」


 争奪戦の厳しさを知っているからなのか、二人ともめっちゃ優しい……! でもバルバロ、その優しさに若干私欲も混じってない?


「お待たせしました。デザートを除けば料理はこれで全部ですので、早速歓迎会を――― って、マスター、如何されましたか!?」


 調理場から出て来るなり、クリスが二人に励まされている俺の姿を見て驚く。それはもう驚く。


「ああ、大丈夫だよ。ただ、今しがた知った情報がちょっとアレでさ」

「そ、そうなのですか? えと、どのような?」

「ねえ、それよりも食べましょうよ? 私、お腹、空いた!」

「金獅子、お前はもっと空気というものをだな……」

「いや、そうしようか。折角の歓迎会なんだ、切り替えていこう」


 微塵もブレないアークの音頭によって、歓迎会が開始される。


「俺、あの人苦手だよー。直ぐに耳や尻尾触ってくるー」

「別に良いじゃないか、減るもんじゃあるまいし! ……男の獣人を飼うのもアリだな」

「ッ!?」

「モルク、これおかわりッ! 至急ね!」

「馬鹿もん、もっとよく噛んで食え! ワシの首輪にかけた制限にも、そうあっただろうが!」

「高速で噛んでるのよ!」


 ……新旧仲間達の交流はまだぎこちないが、まあ最初はこんなものだろう。


「ところでクリス総料理長、これを裏ごしした後に冷やしたのは、一体なぜなのですか?」

「わ、私も聞きたいです、クリスさ――― いえ、クリス総料理長!」

「ちゃ、ちゃんと教えますから、普段通りに呼んでくれて大丈夫ですよ」

「クククッ、あのモルクが敬語を使ってるよ。やばい、腹がよじれる……!」

「馬っ鹿もん! 健全な厨房は上下関係がしっかりとしているものなのだ! 素人は黙っておれ!」


 尤も、一部では意気投合している組み合わせもある訳だが。


「これ美味しー! あれも美味しー! おかわりー!」

「へ、へい、了解ッス! クラーサ、大盛りで追加だ!」

「ええっ、さっきしたばっかじゃねぇか!?」

「ウィ、ウィル様ウィル様、やはり男性は料理上手な女の子を好むものなんでしょうか?」

「え? まあ一般的にはそうかな。少なくとも、嫌いな男はいないと思うよ?」

「そ、そうなのですね。よ、よーし!」

「ジェーン、お前も青春を謳歌する年頃になったのだな…… う、うううっ……! お父さん、うれじいっ……!」

「……段々カオスになってきてない?」


 とまあ、最終的にはすっかり打ち解けて、馬鹿をし合える程度には仲良くなったのであった。 ……これ、なってるよね?


かしら、良い雰囲気の海賊じゃないか。ここに酒があれば、もっと良くなるんだけどねぇ」

「……(ニコッ)」

「お、おい、角娘、笑顔で威嚇するんじゃないよ。分かってるよ、飲まないって」

「……(ニコニコ)」

「なあ、こいつ酒入ってるんじゃないのかい? 笑顔なのに凄い圧があるよ? 我が恋敵ながら、アタシでも冷や汗ものなんだけど……」

「いや、単にバルバロの生活習慣を正したくて、心を鬼にしているだけだと思う。ほら、クリスってスーパーメイドだから、曲がった事が大嫌いなんだよ」

「は? 海賊は良いのに?」

「マスターが発案された事は良いのです!」

「ハァッ!? 何だそりゃあ!?」

「ングング…… クリスってば、ウィルに対しては甘々よね~。あ、これもおかわり! 面倒だから、一気に持って来て!」

「りょ、了解ッス! クラーサ、大盛り十皿追加だ!」

「ふぁっ!? じゅ、十皿も!? 見張り役のゴブさん達、お願い手伝って!」

「ゴブー」


 ……ちょっとカオスが過ぎるかな? 場も暖まってきた事だし、そろそろ真面目な話の一つでもするべきだろうか。


「なあ、バルバロにモルク、話の肴に争奪戦の情報について、知ってる事を少し教えてくれよ」

「んー? ああ、アタシは別に構わないよ。いつか共有するべきだとは思っていたしね」

「フン、クリス総料理長の下で働ける事に比べれば、実に安いものだ」


 や、安いのか。気のせいかもしれないけどモルクの奴、仲間に引き入れてからの方が、妙に活き活きとしていないか?


「そうだねぇ、どこから話そうか…… かしら、大前提として、この争奪戦の参加者が全部で十人って事は知ってるかい?」

「ああ、モルクを倒した時に聞いたよ」

「お、おい、まさかあの時、そんな初歩的な事についても知らなかったのか? だからワシを挑発して、情報を引き出していたのか……?」


 更にモルクに哀れまれてしまった。し、仕方ないだろ。実際何も知らされていなかったんだし……!


「じゃ、まずはその辺について確認しておこうか。この世界にはアタシらみたいな神の駒が十人いて、かしらがこの世界へやって来るまで、各々の方法で戦力を強化していたんだ。アタシであれば海賊として仲間を集い名を揚げ、そこのモルクであれば―――」

「―――国の裏で暗躍し、強力な奴隷を配下として集めておった。金獅子はワシにとっての奥の手となる筈だったが、知っての通り小僧らに邪魔立てされ、計画は水の泡となった訳だ」

「あ、それどっちにしろ無理だったわよ? 無事に港に着いたら着いたで、機を見て逃げるつもりだったし。残念だったわね!」

「だ、だからこそ日取りを入念に確認し、ワシが直々に迎えに行く予定だったのだ! 首輪さえあれば、どんなに金獅子が強かろうと、ワシの勝ちだったの!」

「えー、そうかしらねー?」

「こ、このっ……!」


 挑発するアークに反抗しようとするが、暴力行為は禁止事項に当たる為、モルクはその場でジタバタプンスカする事しかできない。


「はいはい、落ち着けって。その辺の事情についても把握してるよ。で、それからそれから?」

「駒を代理に立てた神達――― 十神って言うらしいんだが、そのうちアタシが名前を知ってるのは、自分とこの『海の神』、モルクんとこの『隷属の神』、兵力で言えば一番であろう宗教狂いの『慈愛の神』、単独での戦闘力でトップを争う『戦の神』、『秩序の神』だ。ああ、『魔導の神』ってのもいたんだが、こいつの駒はこの前負けてたよ」

「は、負けたのか? そんな情報、ワシは知らんぞ!?」

「単にタイミングが悪かったんじゃないかい? アンタが行方不明になったって話、大体その時期と重なっていたからねぇ」

「ぐぬぬ……!」

「ちなみに負かしたのは『慈愛の神』の駒だ。その後にアタシがかしらに負けたから、『隷属の神』、『魔導の神』、『海の神』陣営は敗北。残る参加者は七人になる訳だ」

「残るは七人、か」

「今だからぶっちゃけるけど、かしらを含めてそれ以外の駒については、全然足取りが掴めていなかったんだ。まったく、かしらはとんだダークホースだよ。ま、アタシは海が専門だし? 内陸に籠られでもしたら、情報の集めようがなくってねぇ。モルク、何か付け足す情報はあるかい?」

「……『大地の神』の駒については、噂程度には知っておる。が、『原初の神』、そして『そらの神』については、ワシの方も全く情報が集まらんでな」


 お、おおう、当たり前のように参加してる神様の名前を知っているんだな、二人とも。この時点で凄い敗北感……

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