第77話 不安を勇気に変えて

 スカルさんより念話を受け取り、砲撃がボートに直撃する前に控えモードに移行させる。対モルク艦隊でも使用したこの最終通告だが、今回は話をする暇もなく攻撃されてしまった。サウスゼス王国の関係者でこの通告の事を元から知っていたのか、それとも元から話を聞こうともしない無法者か。どちらにせよ、敵である事は確からしい。拠点の施設強化をする一方、配下の増強ができていなかったのが少し痛い。それでも、手持ちのサハギン達を全て連れてきていたのは幸いか。


「タダイマ戻リマシタ。迅速ナ回収、感謝致シマス」


 甲板にてスカルさんを再召喚。皆の注目が集まる。


「お疲れ。行ってもらった直後で悪いけど、報告してもらって良いかな?」

「ハ。確認デキタ船ハ全部デ四隻、ドレモ前回ノ海戦デ目ニシタ船ヨリモ小型デシタガ、速度ハアノ比デハアリマセンデシタ。更ニハ一発ノ砲弾デ、小サナボートニ命中サセル狙撃手モイマス。アノ正確サハ、トマ様ノ腕ト競ウホドカト」

「そんなにか?」

「キャプテン、俺だって負けないよ! 俺ならそれくらい、何十発も連続でできるって!」

「わ、私も負けません! クリスさんに毎日魔法を習って、あの時よりも水の扱いが上達してる筈ですもん! 相手よりももっと速く、船を動かしてみせます!」


 敵に対抗意識を燃やしてなのか、トマとリンはかなりやる気だ。確かに二人が積み重ねてきた努力は本物で、今ならばモルクと戦った時以上の狙撃の腕と機動力を発揮してくれるだろう。いやはや、本当に逞しく成長してくれたものだ。


「となると、ボートじゃ危ないかー。自分で泳いで行くのも良いけど、何だか嫌な予感がするのよねー。船さえ寄せてくれたら、私が敵船にカチコミを掛けられるのになー。チラッ、チラッ!」

「チラチラを言葉にしながら俺の方を向くなって。アークがやる気なのは十分分かってるって」


 一方のアークさんは全くブレない。うん、泳ぐ泳がない以前に、君手足に鉄球付いてるからね? それでもアークなら沈まないだろうな、なんて、自然と思ってしまうのが恐ろしい。


「ソレト、敵船ノ帆ニ蒼キ髑髏ガ描カレテイマシタ。恐ラクハ海賊カト」

「海賊? 賞金稼ぎならまだしも、副業の同業者が何でこんなところに?」

「んー、蒼い髑髏? 蒼い髑髏、蒼い髑髏─── ああっ、思い出した! それ、有名な海賊よ! 闘技場で聞いた事があるもの! 今一、二を争うくらい勢いのある海賊で、何でも他の海賊団を潰し回っているんですって! それでついた異名が『海賊潰し』! うひゃー、やる気が出るぅー!」

「な、なるほどな。やる気はともかく、ここにやって来た理由は何となく分かった」

「つまり、その方々は何らかの形でサウスゼス王国から情報を手に入れて…… 次なる海賊潰しの獲物として、マスターが新たに立ち上げたこの船を狙いに来た、と?」

「十中八九そうね! と言うか、絶対そうね!」

「ハァ…… そんな大層な海賊のお眼鏡に適うとは、光栄な話だな。同業者なら賞金も手に入らないだろうに」


 それにしたって、わざわざこの場所を探し出してまでいらっしゃるとは。海賊潰し、か。どんだけその行為に命を懸けていやがるんだか。


「恐レナガラ申シ上ゲマス。私ヲ迷イナク攻撃シテキタ事カラ、敵ハ捕縛ヲ目的トセズ、殲滅ヲ第一ニ考エテイルカト。ソウデナクトモ、カナリ粗暴ナ輩デアル事ハ間違イアリマセン。先ニ報告シタ通リ実力モ確カナノデ、手加減ヤ容赦ヲスル必要ハ一切ナイカト」

「ああ、元からそのつもりだよ。その為にわざわざスカルさんを送って、警告までしているんだ。もうそんな事をしてやる慈悲も理由も、俺達には一切ない。よし! これより俺達は敵船を鎮圧し、逆に全てを略奪する! 準備に取り掛かるぞ!」

「「「「おー!」」」」


 掛け声が上がると同時に、皆が自分の持ち場へと移動を開始する。配下モンスターの装備を、漁セットから戦闘セットに変更。拠点を護ってくれているグレゴールさん達にも、連絡のメールをして、と。


「楽しみね! この戦闘前の空気、とっても美味しいわ!」


 ……なぜかこの場に留まり、空気を楽しんでいるアーク。あ、いや、アークは基本的に自由に動き回ってもらってるから、持ち場がそもそも決まってなかったんだ。単独でも動ける遊撃隊と言うか、そんな立ち位置。


「アーク、飯はちゃんと食ったか? 腹減ってる方が強いのは知ってるけどさ、出会った時みたいに敵前で倒れられたら、どうしようもないぞ?」

「失礼ね! ちゃんと腹八分目で食べてきたし! クリスが調整してくれたし!」


 よし、クリスが提供したのなら安心だ。


「ア、アーク様、それにウィル様は敵が怖くないのですか? これから戦いが始まるのですよね? その、海賊との……」

「ジェーン?」


 俺の肩に添えられた手より、ジェーンが震えているのを感じ取る。ああ、そうか。船旅が克服できても、ジェーンにとって海賊はまた別物のトラウマなんだ。そりゃ不安でいっぱいいっぱいだよな。


「あははっ、全然平気よ! だって幽霊よりも怖いものなんて、この世に存在しないものっ! 肉があれば斬れるし、骨があれば断てるじゃない!」

「え、ええっと……」

「アーク、相手を考えて発言してくれ。まあ、それはさて置き…… ジェーン、俺だって怖くない訳じゃないよ。命を脅かす戦いになるんだ。敵は怖いに決まってる。だけどさ、俺にとっては仲間や家を失う方が、どんな敵よりもよっぽど怖い。だから仲間達の為なら何でもするし、どんな相手とでも戦えるんだ」

「……! ウィル様……」

「って、格好つけて言ってはみたけど、この通り足は震えるけどなっ!」

「えっ?」


 敵を発見してからというもの、俺の両足は震えが止まらない状態だった。これが武者震いなら、船長として多少は格好がついたんだろうが、そんな訳はないのである。


「わ、ウィルったら本当に震えてるじゃないの。まったく、皆の前だからって強がっちゃって~」

「見た目だけでもしっかり気張らないと、リン達まで不安になるだろが。ま、戦い大好きなアークは例外中の例外として、船長の俺だってそんなもんさ。ジェーン、俺と一緒に怖がりながら、ちょっとだけ頑張ってみないか? 港で待つグレゴールさん達の為にもさ」


 ジェーンの手に自分の手を軽く添える。先ほどよりも震えは弱くなっていた。


「……そうですね、その通りです。私、やっぱり臆病でとっても怖いですけど、皆を護りたいという気持ち、確かにあります。あの時は無力でしたが、今の私にはウィル様やアーク様を支援できる力もある。だから私、勇気、ちょっとだけ出してみます……!」


 領域展開。我らがソナーマンの多感肌の領域は、確実に敵を捉えてくれる。そう信じさせてくれる決意が、ジェーンの瞳から感じられた。

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