第75話 解決策
ジェーンが船に乗り始めてから一週間が経過した。その間にも目まぐるしく変化は起き続け、文字通り俺は目を回すような忙しさに追われている。しかし、頑張って努力と工夫をするほどに、俺達のダンジョンはより良く発展していく実感もあった。これ以上にやりがいを感じられる事って、他にないんじゃないかな? 例を挙げるにも色々ある。漁業は更なる進歩を続けているし、期待の新魚人として召喚したあのサハギン達は、何と次なる種族へと進化を遂げたんだ。
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スティングサハギン
HP :110/110
MP :0/0
筋力 :C-
耐久 :C
魔力 :F
魔防 :F++
知力 :D++
敏捷 :C-
幸運 :D(プラス1⇒D+)
スキル:槍術C
スキル:水泳C+
スキル:貫通E
装備 :海幸の銛
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一定以上槍を扱う事で進化する、その名もスティングサハギン。サハギンは元々スキルに『槍術』を持っていたし、今回の進化は王道を行くものになったと思う。能力としては肉体面が逞しくなり、スキルの槍術が順当に強化された。新たに『貫通』を会得した点にも注目したい。
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スキル:槍術C
槍を扱う技術を得る事ができる。Cランクであれば天才的な腕前であり、槍を扱うに不都合な状況であろうと遺憾なく実力を発揮する。
スキル:貫通E
対象の耐久を低下させた上でダメージを与える事ができる。Eランクであれば耐久マイナス2効果。
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御覧の通り、どちらのスキルも戦闘向きのものだ。今のサハギン達は俺と同等の身体能力を持った上で、槍の扱いも天才的ときている。事実、模擬戦をやってみたら俺ではもう相手にならなかった。攻撃がヒットすれば耐久を低下させて、より確実なダメージを与えられる。今や彼らは我が海賊団にとっての白兵戦の主力、そう言っても良いだろう。
「サハァ───!」
「ギィ───ン!」
……鳴き声も相変わらず、耳を塞ぎたくなるほど元気いっぱいである。むしろ、こちらもパワーアップしているような…… うん、元気なのは良い事だね! 俺はポジティブに捉えるよ!
さ、気を取り直そう。サハギン達が活躍するのは、何も戦闘に限った話ではない。先の進歩した漁の件、こちらにもサハギン達は大きく貢献している。これまで俺達は船での漁に網を使い、サハギン達は素潜りで別行動をさせていた。しかし、ここで先日船の管理を任せたトマが、新時代への一石を投じたのだ。クルー達が海中に網を放ち、船の護衛として同伴していたサハギン達に、魚群をその設置ポイントに誘導するよう指示。するとどうだろう。この漁法であれば一日にアベレージ8万DPという、これまでで最大の成果を挙げる事に成功したんだ。その日より、この追い込み漁は俺達のドル箱として活躍している。
「うん、トマは凄いなぁ!」
「え? キャプテン、急にどうしたんだい? ちょ、急に頭を撫でないでくれよ~!」
もふもふ、モフモフ。
「あっ! ウィル様、ウィル様。あちらに小さな気配が沢山あります。おそらく目的の魚群かと」
「でかしたジェーン! 今日最初の獲物、絶対捕まえるぞ! スカルさん、クルーと随伴している海のサハギンの全員に、あの位置が絶好のポイントだって伝達してくれ」
「承知致シマシタ」
新たな仲間として乗船したジェーンも、目覚ましい働きを見せている。ただ、ここまで来るのに心配が全くなかった訳ではない。ソナーマンとして活躍するにしても、外見に限って強面なスカルさんと話すにしても。
まず問題となったのが、万が一に船が何らかの攻撃を受けて損傷した際、ダンジョンの地縛霊として根付くジェーンは船から脱出できない、という点だ。霊体なので海水も透過する為、溺れるという事はないが、やはり脱出できないのは頂けない。溺れなくとも、損壊したダンジョンと共に沈んでしまう。というか、ジェーンを一人になんてさせる訳にはいかないのだ。で、その解決案として採用したのが───
「ジェーン、船酔いとかしてないか?」
「ふふっ、大丈夫ですよ。ウィル様の肩はとても居心地が良いです」
───地縛霊のスキルの一端を使って、俺に取り憑かせる大胆な作戦である。『ダンジョン創造』スキルの持ち主である俺の周辺数メートルは、ダンジョン内と同じ扱いである事は以前に説明した通り。それならば、地縛霊の大元である入江の難破船とダンジョンが連動しているのだから、入江の難破船=ダンジョン=俺の周辺、という図式が成り立つのでは? と、予想した訳だ。実際に確認したところ、これが大的中。ジェーンと一緒にダンジョンとは関係のないボートに乗り込み、ダンジョン船から離れる事に成功した。
以後、俺の左肩はジェーンの特等席となり、共に乗船するのがお決まりのパターンとなっている。まあ特等席と言っても、流石に俺の肩に座れるほどジェーンは子供サイズじゃない。俺の背後で少し宙に浮いてもらい、彼女の両手を左肩に置く形と説明すれば、想像できるだろうか? そんな感じそんな感じ。
「いーなー、俺もキャプテンの肩に乗りたいなぁー」
「分かった分かった。今度肩車してやるから、そんな目で見詰めるなって。船の上じゃ危ないから、港に戻ったらな」
「わーい!」
「……(じー)」
リンの無言の視線を感じる。自分も言い出したいけど言い出せない、そんな遠慮と一緒に感じてしまう。
「ト、トマだけじゃ不公平だから、リンも乗せようか?」
「はいっ! 私も乗りたいです! お兄ちゃんの次に予約します!」
「ふふっ、ウィル様は人気者ですね」
「そうかな? うーん、そうだな。だったら嬉しいよ。ジェーンも二人とは随分と仲良くなったんじゃないか? こうやって近くにいても、全然平気そうじゃん」
心配だった点その二は、ジェーンの『多感肌』についてだ。船という閉鎖された空間で、果たしてクルーやスカルさんといった配下モンスター達と仲良く過ごせるのか? またソナーマンとして活動する際、能力の範囲を広げてのジェーンへの影響は大丈夫なのか? どちらも感情に敏感なジェーンにとっての死活問題。この問題を解決するには、根気と根回しが必要だろうと、乗船初日から俺はかなり気合いを入れていたもんだ。
が、その気合いが使われる事はなく、ジェーンは船上での生活を楽しみ、気配を探っても特に影響がない事が判明。俺がどうこうせずとも、すっかりと順応してくれたのだ。陸の上で見せていたあの人見知りが、まるで嘘だったかのようである。もちろん、ジェーンの人見知りは決して嘘や演技ではない。ただ、陸の上とこの船の上とでは、条件が一つだけ異なっていて、その要素がこの問題解決のキーとなっていたんだ。
「お二人とも邪気が全くといって良いほどないので、親しみやすいと言いますか…… それにウィル様に取り憑いたこの体勢だと、不思議と面と向かってお話ししやすいんです」
「ふーん? やっぱり、気配を探る時と同じ効果が働いているのかな?」
そう、全てはジェーンが俺に取り憑いている、この背後霊フォーメーションのおかげである! ……いや、その名称は今名付けたんだけどさ。というのも、ジェーンは俺に憑いていると、多感肌による緊張や反動がなぜか緩和されるらしいのだ。アークの時はあれほど背もたれを盾にしていたのに、クリスやトマリン、果ては相手がスカルさんでも、多少は怖がってはいるものの、初顔合わせの段階で普通に会話が可能だった。気配を探る際も同様で、どれだけ効果範囲を広げようとビクともしない。今のところ、その理屈は不明だ。
「おそらく、ウィル様の後ろにいると安心するから、だと思います。え、あ、いえ、深い意味はなくっ……!」
「お、おおう!? え、えっと、ジェーンにまで頼りにされるとはな。嬉しいよ、ははは
っ……」
なぜか赤面されてしまう。うーん。もしや、俺が思っているよりも純粋な理由で─── いやいや、ポジティブつったって、そこまで希望的観測をしちゃうのも駄目だろ、うん。
「何々、何の話?」
どこからともなくアークが現れる。いつもの事ではあるが、本日も急である。
「ア、アーク様っ!? い、いえいえ、何でもないんです! 本当に、何でも……!」
「そんなに焦ってどうしたのよ? 顔も赤くしちゃって、変なジェーンね!」
俺に憑いたジェーンは、友人となったアークとも自然と話せるようになった。他の仲間達とも普通にお喋りできているんだ。当然だろう。 ……ただし二人の距離はかなーり離れており、ジェーンは俺の背に、アークはマストの陰に隠れての会話だ。ねえ、二人は仲が良いんだよね? 何なのその距離感?
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