第69話 仲間の代償(DP)

 謎の洞窟探索、新たなる仲間達の加入。これだけでもイベント目白押しな一日だった訳なんだが、その後にもトマとリンの誤解を解くのに一苦労、アークの機嫌を直すのに二苦労、グレゴールさん達の住居を準備するのに三苦労ほどの苦労を重ねてしまった俺は、ヘトヘトになりながら寝台へと倒れ込んだ。アフターフォローって大変、とっても大変なのだわ。なんて、口調が若干おかしくなるほど疲れた。だけどここでもうひと踏ん張り、最後にDPを精算しておこうと思う。頑張るんだ、俺! やればできる子だぞ、俺!


「……よし、もう少し頑張れる」


 まずはグレゴールさん達、エーデルガイストの皆さん四十七名が俺のダンジョンに加入する為に掛かった費用について。拠点から洞窟の入江までのダンジョンの拡大、横幅1メートルの道を伸ばして繋げる一大工事だ。何分洞窟は島の最北端にあり、洞窟に入ってからも暫く道が続くのでその道程は大変長い。しかも『地縛霊』のスキルが根付く大元の難破船を取り込むなど、工程も結構な数を経る必要がある。その結果、これには途轍もない費用が掛かった。その額、実に26万7600DP。 ……うん、嘘じゃないんだ。この額でマジなんだ。これだけでも、ここ数日の漁で得た収入のほとんどが消し飛んでしまった。あまりに惨い数字である。しかし、これであくまでもスタート地点に立てたに過ぎない。本当の契約はここから始まるのだ。


 次に俺の財布に襲いかかるは、村人枠の拡張作業だった。既にアーク、トマ、リンの三名を加入させているこの枠だが、通常モンスター枠と同じく一回目は200DP、二回目は300DPと、こちらも増やす毎に費用が上がっていく仕様となっている。モンスター枠よりも割高で、むしろこちらの方が高くつくほどだ。しかも村人枠はトータル計算で、ダンジョンが違うからと段階がリセットされる事もないらしい。要は四人目からのお値段である。で、そんな割高な枠を四十七人分増やす場合、一体いくら掛かるかというと─── 13万1600DP、またも大台を叩き出してくれた。既に俺の手持ちDPは瀕死状態だ。


 しかししかし、これだけで終わる訳にはいかない。グレゴールさん達が仲間になってくれたって事は、先の約束通り衣食住を保証しなくてはならない。もっと言えば、第一に住居を提供しなくてはならない。お試しで建てた『赤煉瓦造りの家(大)』だけでこれを満たすには不十分も不十分、それ以前に世帯毎に家を建てるのが筋ってもんだろう。グレゴールさんに話を聞き、今回加入した人々の家族内訳を確定。最低限の日用品もセットで用意して、そこに住む人数に合った赤煉瓦造りの家を購入、購入、購入─── 大小合わせて計三十一軒の家を、やりくりして4万DPほどを使い建造したのであった。


 しかししかししかし、ここでまた新たな問題が発生。それら全ての家を設置するには、現在の敷地面積では狭過ぎたのだ。という事で、家を設置する前に拠点拡大&防壁追加作業開始。1000平米あった土地を更に5000平米にまで増やし(40万DP)、その拡大に合わせて不足分の防壁110メートルを追加(2万2000DP)。これにより購入した家は余裕を持って敷地内に収まり、家が立ち並んだ事で港街風の雰囲気が一気に増した。道を整備して街灯を設置したりすれば、より一層豊かな街並みになっていく事だろう。それにしても、一度は諦めた人々との交流がこんな形で達成される事になるとは…… 世の中、何が起こるか分からないものである。


 が、ちょっと待ってほしい。今日だけで、俺は一体いくらのDPを消費しただろうか? 今まで言った数字を足していけば分かるだろうが、俺はもうその請求額を見たくない。ただ一つ言えるのは、完全に予算オーバー! ……って事だ。家の購入までは瀕死ながらも何とか生き永らえた俺の懐も、拠点拡大の際に完璧に止めを刺されてしまった。


 とまあ、そうは言ってもここまでは当初の予定通り。この場面で活躍すると言えばアレしかあるまい。そう、皆大好き海賊の秘宝である。ここぞとばかりに俺はその半分をショップで売り払い、50万DP分を補充した。それはもう、盛大に売っぱらった。売値の渋いショップさんでこれだけの値段で売れるって、実際にはどれだけの価値があるんだよ! と、そう驚いたものだ。残りの半分は緊急時の備蓄として宝箱に保管中である。


「───収入支出諸々計算して、DPはちょうどスッカラカンってところかな? いや、お宝がまだ残ってるし、仲間が増えた事を加味すれば大勝利には間違いないだろ。どっちにしろ拠点増築は避けては通れぬ道、投資だと思えば良い事尽くめじゃね?」


 計算機をベッドの脇に放り投げ、何とも言い難いやり遂げた感に浸る。寝転びながらガッツポーズ。さっきまで猛烈に眠かったのに、今は変に頭が冴えてしまっている。困ったな、これじゃあ暫くは眠れそうにないぞ。


 おもむろに窓を開き、外に目をやる。ここは記念すべき一軒目の大きな家、その三階の俺の部屋(仮)だ。眺めが良くて、海と街並みが一望できる。


「まだ外は賑やかだなぁ」


 外では歓迎会という名の祭りが開かれ、拠点は広場を中心に賑わっていた。あちこちで明るい笑い声が聞こえてくる。


 っと、クリスを発見。歓迎会用にクリスが料理を振舞い、クルー達が配膳をしているところだ。数年振りの食事にえらく感動されてしまい、クリスの料理は涙脆い皆さまから洪水級の涙を頂戴していた。まったくもって、あの美味さは罪深い。


 最初こそ見た目で怖がられていたスカルさんやサハギン達も、踊って歌う宴に交じって仲良さ気だ。スカルさんの独特な骨ダンスと、叫びにしか聞こえないサハギンボイスは…… まあ、ご愛敬という事で。笑いが取れてるからオッケーであると判断する。オッケー!


「あの二人も楽しそうよね」

「だなー」


 トマとリンはすっかりエーデルガイストの皆と仲良くなり、誤解を吹き飛ばしてこの祭りを楽しんでいた。喧騒の中心には常に二人がいるまでに人気だ。かく言う俺も、ついさっきまでそこにいた口だったりする。苦労の最後に待っていたのは、心地の好い遊び疲れ。それでもまたあの輪に入りたいと思ってしまう俺は、結構な強欲なんだろう。


「……で、何でアークは俺の部屋にいるのかな? あんまりスムーズに登場したから、驚く暇もなかったよ」

「もう安息の地がここしかないからよ…… 外が敵で一杯だからよ……」


 うん、そうだった。トマリンの誤解は無事解決したが、アークの苦手意識は未だ解決していない。事情を知ったグレゴールさん達は努めて友好的に接してくれているんだが、アークはお得意の身体能力を活かして逃走を繰り返し、そのまま今に至っている。このままでは一向に問題は解決しないだろう。大好きなご飯も今日ばかりは喉も通らず─── いや、飯だけはしっかり食ってたわ。お残しもせず綺麗に平らげていたわ。


「あー…… 今回の件、アークには悪いと思ってる。本当にすまなかった。けどさ、あの人達が悪い人じゃないって、アークだってもう分かっているんだろ?」

「それは、まあ、ちょっとは……」


 返事は煮え切らないが、アークはちゃんと理解してくれていると思う。突発的な言動が前に出がちだけど、アークだってあの人達に負けないくらい良い奴なんだ。心のどこかで苦手をなくしたいと思っているだろうし、だからこそここに来たんだと俺は信じている。


「俺が同席して間を取り持つからさ、明日辺りに少しだけでも触れ合ってみないか? 今までの幽霊のイメージが完璧に崩れるぞ、きっと」

「……怖くない?」

「怖くない怖くない。同世代の女の子とかだったら、なおさら話しやすい筈だ。だからさ、ちょっとだけ頑張ってみよう」

「……ん、分かった。ちょっと頑張ってみる」


 交渉成立。アークの頑張り、明日はしかとこの目で見届けるぞ……!


「よし、じゃあ今日はもう自分の部屋に戻って寝ろよ。いつもならとっくに寝ている時間だろ? 無理は禁物───」

「───ううん、ここで寝る」

「へっ?」


 アークのこの一言に、俺の頭は完全に冴えてしまった。

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