第68話 お茶目さん
蓋の開けられた宝箱によじ登り、その中身を確認する。そこにあったのは確かに食べ物ではなく、戦闘で使えそうな武具でもなかった。それらの代わりにあったのは、一面の黄金と大粒の宝石。そう、宝箱はありとあらゆる財宝で埋め尽くされていたのだ。
「マ、マジかよ……!」
想像以上の光景に、俺は思わず息を呑む。これらが見た目通りの本物であるのか、一般市民の感性しか持ち合わせていない俺には分かる筈がない。しかし、人類未踏の地とされるこの無人島、海賊達が死しても護ろうとしていた状況が、紛れもなくこれらが海賊の財宝であるのだと、俺の脳が訴えて止まないのだ。
「ウィル、どうしたのよ? ガッカリし過ぎて気落ちしちゃったとか?」
「お前、この状況でどうしてそんな…… い、いや、アークならそんな反応になるか。よし、ちょっと冷静になった。ありがとう、アーク」
「……? よく分からないけど、存分に感謝なさい!」
大きな胸を張るアークに労いの言葉を掛けながら、下で待機していたクリスにも声を掛けておく。宝箱の上まで飛んで来たクリスは、どちらかと言えば俺寄りの反応をしてくれた。クリスの共感に少し安堵。
「マママママ、マスター、どうしましょうこれっ! どどど、どうしましょうこれっ!」
「おおおおお、おち落ち着けクリス。れれれ冷静になれ、話はそれからん! そうだ、深呼吸だ深呼吸!」
「「しんこきゅ───!」」
そして動揺するクリスに引っ張られ、再び俺まで動揺してしまう。それだけこの光景は、俺達に刺激が強過ぎたのだ。
「テンパってるところ悪いけど、こんな財宝があったからってどうするのよ? 私達、商人と取引なんてできないのよ? 食べられもしない売れもしない宝なんて貰っても、仕方なくない? これ、ただ重くて光ってるだけじゃないの」
アークの容赦のないツッコミ。俺とクリスは刹那で冷静になった。
「お、おう。真顔で核心を突いてくれたから、おかげでまた冷静になれたよ……」
「すみません。私とした事が、使用人としてあるまじき動揺を……」
「本当にね!」
幽霊絡みで後れを取っていた事を気にしているのか、今のアークはここぞとばかりにドヤ顔を繰り出してくる。妙なところは子供っぽくて、こう言っては何だが可愛らしい。
「ま、確かにアークの言う事はもっともだけどさ、俺達にはショップという便利だけど足下を見てぼったくる、心強くも逞しい味方がいるじゃないか。これだけの財宝を売っぱらったら、どんな高級料理の材料でも買えると思わないか?」
「やったわね、二人とも! 金銀財宝万々歳よっ!」
「本当になー」
先ほどとは打って変わって、金貨を掬いはしゃぐアーク。御覧の通りアークさんは裏表のない、とっても素直で素敵な女性なのです。しかし、これは嬉しい誤算だった。大して期待もしていなかった海賊の財宝が、まさかここまで凄いものだったとは。
「よし、これだけの元手があれば……!」
海賊の財宝を俺の宝箱に移し替え、この海賊船での目的は達成された。俺は次の目的を達成する為、再度グレゴールさん達のいる難破船へと戻る。
◇ ◇ ◇
「───今、何と?」
「俺達の仲間となって、一緒に地上の拠点に住みませんか、と。単刀直入に申し上げますと、移住のお誘いをしているのです」
客船であった難破船に移動した俺は、改めてグレゴールさんに提案した。
「私達が外に……?」
「で、できるのか、そんな事が!?」
「母ちゃん、僕達お外に出られるの? また太陽の光を浴びられるの?」
「そ、それは、ええと……」
騒めき立つ周りの人々は、俺の誘いに半信半疑といった様子だ。
「ちょっとウィル勝手に何を決めちゃってんの私は反対だって幽霊無理ぃ~~~!」
ま、一番騒いでいるのは、遠くの定位置に着いたアークな訳なんだけども。クルー達に押さえられながら、早口で色々とまくし立てている。すまん、アーク。食事はマジで提供するから、こればっかりは我慢して。
「……ウィルさんの申し出は大変ありがたいのですが、先ほども申しました通り、私達は『地縛霊』のスキルを持っています。これがある限り、私達がこの船を出る事はできま───」
「───いいえ、できる可能性があるんです。貴方方四十七名、全員がこの船から出られるかもしれません。俺は魔王ではありませんが、ダンジョンマスターです。ついさっき、隣の海賊船内から奴らの財宝を発見しました。俺はその財宝を元手に、拠点からこの入江までダンジョンを拡大し、繋ぎ合わせたいと考えています。もちろん、この難破船も含めて」
「ここも? ま、まだ話が見えないのですが…… それが一体、私達にどう作用すると言うのです?」
「つまりですね、皆さんには地縛霊として船ではなく、ダンジョンに根付いてもらうんです。俺のダンジョンが難破船をも飲み込めば、地縛霊のスキル対象はそのままダンジョンに移る…… と、俺は読んでいます。読み通りにスキルが働けば、グレゴールさん達はダンジョン内を自由に、堂々と歩く事ができるでしょう。俺達の拠点はまだまだ発展途上ですが、軍資金さえあれば住居だって一瞬で建造が可能です。衣食住と身の安全、これらは俺が全力で保障します。代わりと言っては何ですか、皆さんの得意分野を活かして、何かしらで働いてもらう事にはなると思いますが」
「……組織や国に所属するのだとしたら、その対価は当然でしょうね。ですがウィルさん、なぜ私達を海賊の財宝を使ってまで、そこまでして助けてくれようとするのですか?」
それまで困惑の色があったグレゴールさんの瞳から、一切の迷いが消える。そしてこの問だ。おそらく、皆を率いる代表として俺を確かめているんだろう。なら俺は嘘偽りなく、思いを正直に答えるだけだ。
◇ ◇ ◇
拠点に帰り門を潜ると、その直後に港にダンジョン船が停めてあるのを発見。どうやら一足先に、リンとトマ達は帰って来ていたようだ。次いで、二人が俺達の下へと駆け出してくるのも視界に入っている。
「キャープーテーンー! おっかえりぃ~~~!」
「ハァ、ハァ……! せ、船長さんに、皆さん…… お、お帰りなさいっ……!」
元気に一番乗りするトマに、走って疲れて息が絶え絶え、だけど頑張って来てくれたリン。なんて贅沢な出迎えなんだろうか。そして二人とも、よく無事でいてくれた! 俺は嬉しいぞ!
「聞いてくれよキャプテン! ゴブさんとサハギィーンが協力してさ、短時間で最大の成果を上げられる新たな漁法が…… って、アークの姉ちゃんはどうしてあんな遠くにいるんだい?」
「それに、何だかすっごく唸ってません?」
「ガァルルルルゥ……!」
「あー…… 話せば長くなるんだが、まあ実際唸ってるよ、アークの奴」
「「?」」
俺やクリス達が纏まって来たのに対し、アークはクルー二人と共にその遥か後方の物陰から顔を覗かせていた。唸ってます、めっちゃ唸ってます。
「ええとだな、あの状態のアークにも関連しているんだけどさ、二人に報告しておきたい事があるんだ」
「「報告しておきたい事?」」
「それはだな─── この拠点に、新たな仲間達が加わりますっ! それでは登場して頂きましょう。エーデルガイストの皆さんです!」
努めて明るく振舞い、リズミカルに小気味良く言葉を響かせる。さあ、自己紹介の舞台は整った。よろしくお願いします!
「ど、どうもこんにちはっ! グレゴールと愉快な仲間達です!」
「「───っ!?」」
地面よりヌッと頭から現れ、トマとリンに挨拶するグレゴール代表。同じように現れその背後に並び立つは、ちょっと透けていて足のない四十六名の人々。唐突であんまりな出来事に、二人は全身の毛を逆立たせ全力で背後へと跳び───
「───グレゴールさん、かなり警戒されてますって。子供にはキツイですって。何でそんなショッキングな登場の仕方にしたんですか?」
「そ、その、久方ぶりの外に思いのほか興奮してしまいまして…… インパクトのある登場の方が、覚えやすくて良いかなって……」
「トラウマとして覚えてしまいますよ……」
アークだけでなく、トマリンにまで警戒されてしまった。この調子だと関係の修復が、グレゴールさん達の最初の仕事になりそうだ。
「リンちゃんトマ君、安心して! 大丈夫です、この方々は怖くないんですよー!」
「二人とも、クリスに騙されてはいけないワゥルルルゥ!」
「「ええっ!?」」
「ア、アークさん!?」
クリスがリントマを安心させようとしているが、それを物陰からアークが叫びを上げて阻止。どちらの言を信じたら良いのか分からず、混乱するリントマ。最中にいるグレゴールさん達は、あわあわするばかりで─── と、ともあれ、本日よりちょっとお茶目で紳士淑女な幽霊達が、俺達の仲間に加わったのであった。
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今回の戦果
・海賊の財宝 ⇒ 順次売却予定(100万DP相当)
・エーデルガイスト四十七名 ⇒ 村人枠に採用
・俺の近くで倒した敵から得たDP
①ガスガイスト一体(合計80DP)
②シーボーン八十四体(合計4320DP)
③バッカニアブラッソ一体(合計3790DP)
④それ以外は範囲外だった為DP入手なし
戦果獲得後の所持DP:440731DP
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