第67話 海賊の財宝

 地縛霊としてこの場所を離れる事ができない。そうグレゴールさん達は覚悟を決めている。しかし、こんな場所でいつまで幽霊として生きていくかも分からないなんて、そんな拷問染みた扱いを許容してしまって良いんだろうか? こんなにも情に厚く、怪しさしかない俺なんかを心配してくれた人達を。


「助ける方法は…… ない事もない。けど、それを実行するにはDPが必要か」


 それも、かなりの量の。地道に漁で稼いでいけば、そのうちに達成できるとは思う。だがその間、グレゴールさん達はずっとこの船で過ごす事になる。それはとても心苦しい。


「マスター、海賊船の探索に向かったスカルさんから念話です」

「ん? あ、ああ、分かった」


 いかんいかん。熟考していたせいか、スカルさんの念話に気が付かなかった。何かあったんだろうか?


『ウィル様、海賊船ニテ途轍モナク大キナ宝箱ヲ発見致シマシタ。取リ急ギ、確認シテ頂キタク。繰リ返シマス。ウィル様、海賊船ニテ───』


 おっと、お宝を遂に発見したのか。スカルさんの『魂の呼声』は広範囲に伝達する事ができるが一方通行、返答するにはこちらから出向かなくてはならない。ここからだとメール機能も範囲外だ。


「そのお宝次第で、がっぽりDPを稼げないもんかねぇ。って、それは虫がよすぎるか」

「えっと、マスターには何かお考えがあるのですか?」

「ああ、ちょっとね。グレゴールさん、海賊船を探索していた仲間が呼んでいるようなので、少し様子を見て来てもよろしいでしょうか? それほど時間はかからないと思いますので」

「ええ、もちろんですとも。初めて歓迎すべき友人が来訪されたのです。少しと言わず、いくらでも待ってみせますよ」

「はははっ、そこまで気負わなくても大丈夫ですって。あ、そうだ。もうあの海賊達がいない事を、甲板から確認されては如何ですか? 俺から聞いた話よりも、直接自分の目で確認した方が安心できるってものですよ」


 子供達の遊び相手としてクルー達を二体だけこの場に残し、俺達は一旦船の外へと移動する事に。グレゴールさんの奥さんが船から陸に出る近道を教えてくれたので、わざわざボートに乗り直す必要はなかった。


「ウィル、絶対離さないでね! 絶対よ!」

「分かった分かったって。その代わり、俺の腕を握り潰さないように注意してお願いよマジで」


 彼方にて様子を窺っていたアークも、俺達が移動すると悟りやむを得ず同行。恐怖を和らげる為なのか、俺の腕をぎっちりと抱き締め離れようとしない。振りでも何でもなく普通以上に痛いから、本当に腕の扱いには気を付けて頂きたいものだ。


「ゴブー!」

「ウィル様、コチラデス」


 船の出入口にて奥さんにお礼を言い、ここで見送ってもらう。船の甲板や壁からは、幽霊の子供達がはしゃいだ様子で手を振ってくれていた。海賊がいなくなったのを確認したんだろう。笑顔が実に眩しいし、とても微笑ましい光景だ。けど、中途半端に顔とか体の一部分だけ透過して出されると、反射的にビビってしまう。幽霊らしい特徴だとは思うんだが、ちょっと心臓に悪いよなぁ。


 その後、海賊船探索チームと合流。案内人をスカルさんにバトンタッチしてもらい、今度は海賊船の中をぐいぐいと進んで行く。この船の持ち主である海賊達は既に討伐しているので、もう新手が現れる事はない。俺達は目的の場所へと早々に足を踏み入れ、眼前に置かれた大きな、それはもう冗談みたいに大きな宝箱を目にした。


「……え、何これ? この壁、宝箱? 宝箱なの?」

「て、天井まで届きそうな大きさですね。特注品でしょうか?」


 船長室と思われる部屋に置かれた宝箱(?)は、高さも横幅も奥行きも、俺の身長を軽く超えていやがる。常識的な宝箱サイズからかけ離れたそれは、巨人の所有物かと錯覚してしまうくらいにでかかった。


「ですが、鍵穴は普通の大きさです」

「鍵まででかくなると、流石に管理が大変だったんだろうな…… スカルさん、この宝箱に合いそうな鍵はあったかい?」

「船内ヲ隈ナク探シマシタガ、残念ナガラ」

「あー、難破した時に鍵だけ流されたパターンか。骨船長の残骸にもそれらしいものはなかったし…… ゴブさんや、かなり厳重そうな宝箱だけど、ピッキングツールで開けられそうかな?」

「ゴブ……」


 腕で×の字を作り、分かりやすく無理である事を表すクルー達。くっ、ゴブさんの万能『器用』スキルも通じないだとっ!?


「……無理矢理に開けて良いのなら、私が挑戦してみるけど?」

「えっ、アークが?」


 俺の腕にしがみ付くアークさんより、突然の申し出。


「意外だな。鍵開けの経験があるのか?」

「旅をしていた時にちょっとはね。要は鍵か容器を破壊すれば良いんでしょ? 私、これでも結構いい線いってるのよ、フフン!」

「ほ、方法はともかく、鼻息を荒くするほどの自信はあるって事か。ホントに方法はともかくだけど……」


 ショップを隈なく探せば、適したアイテムがありそうなものである。しかし考えようによっては、アークのパワーに任せてみるのも有効な手かもしれない。何せ、アークのステータス幸運値は鉄球の呪縛を受けておらず、本来の力を発揮させたAのままなのだ。Aといえば伝説的な値であり、俺達の中でも群を抜いている。


「うーん、でもなぁ。罠とかあったらどうするんだ? 力任せに開けると、絶対作動しちゃうだろ?」

「ダンジョンに置いてる宝箱ならまだしも、これって自分の船に乗せてたものだったんでしょ? なら防犯性能が高くても、爆発したりはしない筈よ。精々毒ガスを噴出させたりが関の山。ま、爆発しても私は平気だけどね」

「毒ガスを精々とか言っちゃう辺り、発想がアークだよな…… おし、そこまで言うならアークを信じよう! アーク以外は部屋から退避! 身の安全の確保だ!」


 船長室の扉の陰より、ジッとアークを見守る俺ら一同。万が一の為に高級ポーション(100DP)と解毒薬(10DP)を用意。全員の退避が完了した事を確認して、アークにオーケーサインを送る。


「ふんっ!」


 メキッと宝箱と蓋の境目に指を突っ込み、バキバキバキッと力尽くで開けようと力むアーク。サイズもそうだが、外側が鉄板で囲われている宝箱は見た目的にも頑丈そのものだ。そんなちょっとした城塞を思わせる鉄壁の宝箱が、秒単位で無残な姿に変わり果てていく。重機で建造物が破壊されるイメージ、そう喩えれば分かりやすいだろうか? 結果として海賊の金庫は見事に開封。さっきまであの両腕に掴まれていたと思うと、冷や汗が止まらない。あの時は手加減してくれていたんだね……!


「フッフッフ、どんなもんよ! 私が言った通り、やっぱり罠もなかったわ!」

「いやはや、見事なもんだよ。思わず戦慄しちゃったよ」

「もう、ウィルったら大袈裟ね! フフフフフンッ!」


 大袈裟でも何でもなく、実際に俺の心境を述べただけなんですが。


「それで、宝箱の中身は何だった? アタリか?」

「んー…… いいえ、残念ながらハズレね~」

「……そっか」


 外れ、か。ま、そんなもんだよな。少し期待はしちゃったけど、現実は甘くないって事だ。


「食べ物とか武器が何も入ってないもの。入ってるのと言えば、こんな黄金とか宝石ばっかりね。心底残念だわー。ほら、こんなのばっか」


 そう言って、アークは煌びやかな黄金を掬い取って見せてくれた。そうだな、心底残念んんんんんんんっ!?

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