第61話 洞窟探索

 本日の目的地である北の洞窟は、島を取り囲む岩山の壁から下方へと潜り込むように形成されている。地面と平行に進むのではなく、徐々に下へ下へと下っていく構造だ。岩山の洞窟だけあって、壁は全てゴツゴツとした岩。頑丈そうだけど、場所によっては鋭利な岩で肌を切ってしまいそうで危ない。入り口はかなり大きく、天井部は氷柱型の石が無数に並んでいる。これ、鍾乳石って言うんだったかな? それらが大きく開けた口に生えた牙のように見えて、これから中に入る身としては少し物々しく感じちゃう。入り口付近のここら辺はまだ大丈夫だけど、奥の方は太陽光が届かず、何かどうなっているのかほとんど視認できず。暗いし何か寒いし、ぶっちゃけ怖い。


「うわぁ、やっぱり暗い暗い! 探索を断念したのも納得よね~。あ、でも途中までは頑張ったんだっけ? こんなところ、よく骨狼ちゃんは探索できたわね?」

「ボーンウルフハ元々闇ノ世界ノ住人、我々ト同ジク夜目ガ利クノデス」

「ああ、なるなる」


 スカルさんの説明に納得するアーク。その横で同じくなるほどと納得する俺&クリス。


 さて、改めて今回の探索メンバー、その通常モンスターの部を紹介するとしよう。元祖第1ダンジョンの皆は本日トマリンと一緒に漁に出ている為、今回は第2ダンジョン所属のゴブリンクルー八体、スカルさん二体に協力をお願いしている。そんな感じのメンバーだ!


 え、サハギン達はどうしたかって? 船に随伴しなかった残り十体のサハギンは素潜り漁をお休みにして、拠点で留守番してもらっているよ。拠点を無人にする訳にはいかないし、こんな密閉空間にサハギン達を連れて来たら、耳がやばい事になりかねないもの。


「スカルさんやボーンウルフはともかく、俺達にこの暗闇はちと辛い。クリス、炎で洞窟内部を照らす事ってできるか?」

「お任せください。えっと、こんな感じで……」


 クリスが両手を軽く上に向けると、ボウッ! という音と共に、宙にふよふよと浮く手の平サイズの火の玉が人数分生成された。


「これは『ラムベント』という魔法でして、熱のない無害な炎を作ります。攻撃には適しませんが、指定した対象に付いて回る性質と十分な光量がありますので、ランプ代わりとして最適ですよ」

「おっ、本当だ。ちゃんと俺に付いて来てくれる」


 試しに歩いたり小走りをしてみる。緩急をつけて移動しても、クリスの作った火の玉の一つは、俺の速度に合わせて追い掛けて来てくれた。 ……ちょっと可愛いかもしれない。


「平均的な人間の身体能力でしたら、全力疾走しても問題なく機能してくれる筈です。ただ、アークさんレベルの方が本気を出されると───」

「あれ、付いて来ないわ?」


 アークが一瞬で10メートルほど移動すると、火の玉は困った様子でその場で小さく旋回し始めた。段々と飼い主を見失った子犬に見えてくる。


「はい。今のように速過ぎると対象者を見失ってしまいますので、探索時は移動速度に気を付けてください。誤って振り切ってしまっても、再度近くに寄ってあげればまた追い掛けて来てくれますよ」

「なるほどね~。ほら、タマ! 今度は私を見失っちゃ駄目よ!」


 自身に割り振られた火の玉を招き寄せ、唐突に猫のような名前を付け始めるアーク。確かに火の玉だけどさ。それにしたってお前、タマって……


「ま、まあ分かりやすいから良いか。じゃ、光源も確保できた事だし、洞窟調査を開始しよう。フォーメーションは前回と同じ、ボーンウルフを先頭にして行くぞ」

「私はそのすぐ後ろね~♪」

「はいはい、承知してますよ。くれぐれもタマを迷子にさせないでくれよ?」

「りょうか~い」


 こうして洞窟内へと歩みを進めた俺達。ボーンウルフが独自調査した範囲では、ほとんどが一本道であると判明している。とりあえずそこまでの道のりで迷う事はないだろう。ただし洞窟自体が結構広い空間なので、岩陰などにモンスターが隠れていないか、常に注意を払っておく。


「天井に少し大きいくらいの蝙蝠がいるけど、襲ってくる気配はなし、か。やっぱ猪効果がここまで発揮されてんのかねぇ?」

「猪効果って、この前ぼたん鍋にしたアレ? とっても美味しかったわよね!」

「ああ、猪肉にスープがよく染み込んで、これがまた美味いのなんのってぇ違ーう! いや、鍋自体は凄まじく美味しかったのは本当だけど!」

「あはは…… マスターの仰る通り、この洞窟も外と同じようですね。物陰や天井に隠れるモンスターはいるようですが、まるで敵意を感じません。新たな島の主として、私達を認めている可能性が高いです」

「ああ、そういう事。ウィルがいきなり料理の話を振って来たから、もうお腹が減ったのかと思っちゃった」

「俺としては、そんな話を振ったつもりは微塵もないんですけど……」

「ソロソロ、前回ノ調査中断箇所ニ差シ掛カリマス。ゴ注意クダサイ」

「あ、はい」


 スカルさんに注意を促され、どこかに飛んでいきそうになっていた警戒心を取り戻す。ここより先は全くの未知の世界なんだ。きちんとマッピングしながら進まなければ。


「あら、分かれ道ね」


 などと思ったそばから、早速の分かれ道。T字路になるように、きっかり左右に道が分かれていやがる。


「風はどっちに向いてる?」

「左ですね」


 クリスがかざした炎の揺らめきで風を感じ取ってくれた。差し当たっての針路を左に設定。まあ結局は全部見て回る予定だったので、遅かれ早かれってところではある。迷っても仕方がない。まずは風の流れる場所を目指すのだ。


「ギ、ィ…… アァ……」

 ところがT字路の左に進もうとした直後、途切れ途切れの声のような異様な音が、背後より聞こえた気がした。嫌な予感を感じつつも、背後を振り向く。皆にも聞こえていたようで、タイミングよく一緒に振り返っているところだった。気のせいではないらしい。


「……皆、一応聞くけどさ。今何か喋ったか?」

「いえ、私は何も」

「私は前にいたから、方向的に違うわよ? もちろん、お腹の音でもないわ!」


 アーク、お前まさか、それを持ち芸にするつもりなんじゃ…… って、今はそれどころじゃない。


「グゥゥ…… ア、アァー……」


 背後の暗闇の奥より、不気味な声と共に何者かが姿を現す。ボロボロの衣服を身に纏い、片手に折れた剣を持った人骨の群れだ。髑髏の口から意味を成さない言葉を発し、こちらへと歩を進めている。島のモンスターにしては珍しく、明らかな敵意がある様子だ。


「……あれ、何だかすっごく見覚えがあるような?」

「奇遇だな、俺もだ。つうか、アークとセットで見た記憶がある」

「私もです。と言いますか、おそらくスカルさんが進化する前の種族で、ええと……」

「シーボーンデス。シーボーン」

「「「そう、それ(です)!」」」


 スカルさん、今日はすっげぇ冴えてるで! とまあ冗談はさて置き、まさかこんなところで野生のシーボーン達に出遭うとは思ってもいなかった。海の近くだから、スケルトンから進化したんだろうか?


「確かシーボーンも『死者の復活』スキルを持っていたよな? 倒せる事は倒せるだろうが、また復活しちゃうんじゃないか?」

「ああ、大丈夫大丈夫。ああいうタイプは粉になるまで砕けば成仏するから」


 清めなきゃ駄目かと思ったら、物理で解決できるそうです。 ……ん?


「……もしかしてさ、船でシーボーンを練習台にしてた時、割と手加減してくれてた?」

「は、何の事よ? そんな事より、私がアレの相手をするからね! じゃっ!」


 そう言ってアークは、シーボーンの群れに単身で突入して行った。フッ、照れ隠しか。助けは要らないと思うけど、一応クルー達を何体か応援に向かわせておく。


「マスター、前方からも不気味な声が聞こえます」

「何だ何だ、猪効果が切れたのか? じゃ、こっちは俺らがやりますか」

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