第55話 まだまだ発展途上

 俺が持つスキル『ダンジョン創造』はランクがSであるが為に、ダンジョン装備の効果が及ぶ範囲が周辺10キロと、途轍もなく広大なエリアをカバーしていた。しかし今回の場合、その広過ぎる効果範囲がマイナスに働いてしまった形だ。そこで俺は考えた。この効果範囲、ダンジョン装備別に調整できないものか、と。


「……できてる」

「できてますね……」


 物は試しにと、メニューにオプション的な機能はないかと探してみたら…… あった。そしてできた。


「港全体が少し余裕を持って収まるくらいで調整。これで島のモンスターは、ダンジョンには近寄らなくなる…… よな?」

「そ、その筈です。範囲内は危険度F程度のモンスターしか近づけません」

「オーケー、それ自体は朗報だ。これで安心して夜も眠れるってもんだよ。けどさ、それなら防壁必要なかった気がしないでもないような……」


 防壁建造費、10000DPなり。


「い、いえ、決してそんな事はないと思います! 拠点とは得てして堅牢な壁で囲まれているものですし、その有無で視覚的に、延いては気持ち的な安心感が違いますから! モンスター以外にも、色んな危険が潜んでいるかもしれません! それに、ええと…… 壁がないとトマ君やリンちゃんが迷子になっちゃうかもですし、特にアークさんが危ないですっ!」


 クリスが必死に俺のフォローをしてくれた。うん、涙が出ちゃいそう。最近の俺、何だか涙脆い気がする。


「そ、そうだよな。特にアークが興味本位で突っ走って行きそうで、ちょっと怖いもんな!」

「そうですそうです! なので壁は大事です!」


 アーク、本当にすまん。俺達の動揺を鎮める為に、ちょっとだけ犠牲になってくれ。今晩の俺のおかず、豪華にした上で一品お前にあげるんで、何卒、何卒。


 壁の有用性を再確認した俺とクリスは、どうせならもっと有効活用してやろうと、ショップより『無骨な石階段』を1000DP支払い二つ購入。こいつを防壁の内側二か所に設置して、その上に登れるよう改良。これで見張り台としても使えるようになったのだ。更には前の海戦で入手した『サウスゼス王国式最新カノン砲』を並べちゃったりして、一気に要塞感が増し増しに。ま、大砲に使う砲弾などの倉庫を別途作らないと、まだ上手く活用できないんだろうけど。防壁から出入りができるように、『重厚な門』も1200DPで設置。


 で、最終的には以下のようなダンジョン編成に至る。


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ウィルの第2ダンジョン(漁港) 残りDP:116800

ユニークモンスター(残り枠:1)

・空き

通常モンスター(残り枠:0)

・サハギン×20

・ゴブリンクルー×8

・スカルシーウルフ×2

村人(残り枠:0)

フロア構成

①漁港(サハギン×20、スカルシーウルフ×2)

②防壁上面(ゴブリンクルー×8)

ダンジョン装備(周辺10キロまで効果範囲の拡大可能)

・穏やかな海

・ダンジョン周辺出現モンスターF(ダンジョン周囲のみ限定展開)

・ダンジョン周辺オブジェクト捕捉

=====================================


 大体はクリスとの会話の通りだろう。他にやった事といえば、一フロアだけでは万が一の時に危険なので、1000DPを支払い(通常モンスター枠の追加同様、フロアも増やす毎に消費DP増加)防壁の上を区切ったくらいだろうか。宿泊施設なども作りたかったが、その気になれば船で泊まる事ができるので今は我慢。かなりのDPを使った事だし、一度間を置いて冷静になりたいと思う。何分、今日は俺の感情が忙し過ぎた。


「そういえば、第2ダンジョン用にユニークモンスター枠も増えたよな。こっちはどうしようか?」

「折良く、今のところ脅威らしい脅威はありません。とても貴重な空き枠なので、慎重に決めた方が良いと思います」

「ま、そうするのがベターだよね。俺としてはゴブリンクルーかスカルさんのどちらか、って考えていたんだけど」

「ゴブリンクルーさんですと、航海や連携に特化できそうですね。漁においても更に貢献してくれそうです。スカルさんはどういった方向に成長するのかちょっと想像できませんが、とても頼りになりそうな予感がヒシヒシとします!」

「そうそう、だからこそ悩むんだよ」


 拠点作りやDPの遣り繰りは多くの悩みを生むものだが、ああでもない、ならこうしてみようと皆でワイワイ話し合うのが楽しくもある。この件については後で議題に挙げてみよう。それにしてもクリスは褒め上手だよな、やっぱ。


「ウィル、大変よ!」

「ア、アークさん?」


 これでひとまずは一区切りかなと俺達が一息ついた直後、アークが血相を変えてそう叫んでいた。あのアークが焦るなんて、一体何が起こったのか。緊張感が一気に最高値まで高まる。


「っ! どうした!?」

「一大事一大事! この広さじゃ、追いかけっこするには手狭過ぎるのっ! すぐ終わっちゃうから、もっと広くして!」

「うぇーん、アークの姉ちゃん速過ぎるぅ……! 後ろ走りで鉄球も付いてるのにぃ……!」

「お、お兄ちゃん、ほら泣かないで。負けん気が強いのは凄い事だよ。私なんて、最初から勝てるとは思ってなかったもん」

「「………」」


 緊張感マックスからの、予想外な衝撃。現状を理解するまで少しの時間を要し、どう言葉を投げ掛けようかで思い悩み、また時間を要する俺達。まずはアーク、お前人にものを教えるのは結構得意な癖して、遊びには手加減しないのかよ。なぜにトマが泣くほど本気でやってしまったのか。


「クリス、トマ達のフォローをお願いして良いか? 俺はアークに注意しておくから」

「承知しました。その、頑張ってくださいね?」

「ああ、頑張る」

「え、何々? 早速広くしてくれるの?」


 その後、苦労しつつもアークにあまり子供を泣かすなと説得する事に成功。遊びは相手が誰だろうともちろん本気で、アークとしてはそれが常識デフォルトだったらしいが、説明を丁寧にする事で一定の理解を示してくれた。


 同時にこの狭さを何とかしてとの希望を出された訳だが、そこはDP稼ぎ頑張りますとこれからの発展に期待してもらう事に。若干我が侭なようで、アークの指摘は的を射ている部分もある。今は船の港と安全対策用の防壁があるだけで、とても拠点と呼べる代物でないのは確かなんだ。


「よーし、そうと決まったのなら、新たなメンバーを加えたこの面子で漁業と洒落込みますかっ!」

「ゴブ!」

「サハァッ!」

「ギィーン!」


 一段と賑やかになった我ら海賊団は、暫くの間本業に注力するのであった。

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