第53話 地固め

 再びメールを活用して、トマ達に船を港に寄せてみるよう指示を送る。外見上は完璧に港として完成しているが、果たしてちゃんと機能しているだろうか? システムさん、本当に大丈夫? 島の壁の境を進む際、船がぶつかったらどうしよう。と、心配性な俺はこんな時までドキドキのハラハラだった。


「ゴッブ!」

「ゴブー、ゴブー」

「ゴブゴブ、ゴブブ!」


 しかしそんな俺の不安を余所に、ゴブリンクルー達はテキパキと停泊準備を進めていた。海から島の中心部に向かって船を進め、港が近くなったら見事な手際で減速。気が付けばもう船が港に横付けされていて、ボラードに固定用のロープを括りつけるなど、言わなくても色々とやってくれる。


「ゴブリン達がいなかったら、船を港に着けるのも無理だったよなぁ、俺ら……」

「フフッ、そもそも船を動かすのも怪しいかと。流石にメイドの技能にも、そのようなスキルはありませんからね」


 俺とクリスは一緒になって、懸命に働いてくれるゴブリンクルーさん達を拝む。ありがたや、ありがたや。


「到着! わあ、思っていたよりも、ずっと立派な港じゃない!」

「久し振りの地面ー!」

「お、お兄ちゃん、船から飛び降りたら危ないよ! ちゃんと橋を渡って!」


 船と陸とを繋ぐタラップより、いつもの三人が港に初上陸。アークとトマはかなり興奮気味だ。


「へえ、そうやって船を港に停めておくんですね。へぇ~~~」


 ……訂正。リンも十分興奮気味だった。


「さ、港が無事に出来上がった事だし、次のステップに進むぞ」

「キャプテンキャプテン! その前にちょっと遊んで良い!? 絶対遠くに行かないし、この辺で遊ぶから! 追いかけっことか!」

「お、追いかけっこ……!」


 獣人の血が騒ぐのか、リンまでトマの言葉に反応して遊びたい様子である。まあ二人の今までの境遇と、眼前に広がる豊かな自然環境を考えれば、そうなるのも仕方がないかも。


「ねえねえ、良いでしょウィル? ケチケチしないでさ~」


 だけど、アークまで一緒になって目を輝かせている理由はいまいち分からない。自分も遊びたい? そ、そうか……


「それじゃアークお姉さん、二人をよろしく頼むよ。あ、そうだ。ちょうど良い機会だし、港の周りに防壁を作っておこう。その壁より向こうには行かないように気を付けてくれ」

「「「はーい!」」」


 元気に返事をする三人。さて、そうと決まれば準備準備。


「残りDPと相談して、島のモンスターの襲撃にも耐えられる防壁はと─── コスト的には、この石壁がお買い得かな?」


 メニュー画面で防壁を一覧化し、そこから更に耐久D以上という条件で絞り込む。それでも膨大な数のリストが並ぶ訳だが、俺はその中から『無骨な石壁』に注目した。装飾などの飾りっ気は微塵もない、ただの石製の壁である。ただし設定された耐久はD、5メートルと十分な高さがあり、費用も横幅1メートルで200DPで済ませられる。さほど高価でもない買い物なのだ。


「その防壁でしたら、仮に筋力Cのモンスターに攻撃されたとしても、何度かは耐えてくれると思います。昨日の探索で回った感じですと、お猿さんには登られてしまうかもしれませんが……」

「あー、島の木に登って生活してたもんな、あいつら。警戒して近付いてくるような事はないと思うけど、一応見張り台も必要になるか。あ、いや、壁の上を歩けるように加工すれば、そこで行き来ができる……? んー、ちょいと長くなりそうだ。そこは壁を作った後で考えるとしよう」

「承知致しました。では、どの程度の範囲を囲いましょうか?」

「今後の拠点として発展させていく事になるから、結構な広さは必要かな。クリスはどう思う?」

「ショップで購入したもの、宝箱に保管しているものでしたら、ダンジョン内なら設置した後でもマスターの能力で再配置が可能です。もちろん、これらは建物や防壁なども含まれています。港の建設で多くのDPを支払った後ですし、取り急ぎ広く囲う必要はないかと」

「へえ、建造物の再配置か! 家具とかの移動には何気なく使っていたけど、海では建物なんてものとは縁がなかったもんなぁ」

「ですね。その分これから、ダンジョンマスターの力をバンバン磨いていきましょう! マスター、微力ながら私もお手伝いしますので!」

「ハハッ、クリスには微力どころじゃないくらい助けられてるよ。じゃ、今は本当に必要最小限の広さに留めようか」


 陸の港区画の広さは大よそ300平米、学校にあるプールほどの面積だ。海に面していない陸地を囲うとすれば─── 約50メートルの防壁が必要となる。費用は200DP×50メートルで10000DPなり。うーん、必要経費とはいえ大金、いや、大DPだ。


「んで決定、と」


 ボタン一つで港の時と同様、地面から飛び出る無骨な石壁群。ズズズと出現するそれらに、トマとリンが耳と尻尾をピンと立たせながら飛び上がっていた。分かる、分かるよその気持ち。俺もクリスに助けを求めたものだ。


 一方アークはというと、唐突にシャドーボクシング風のウォームアップをし始め──― ねえ、ストレス解消用の壁じゃないからね? 壊したら泣くからね? ……今のうちに厳重注意しておこう。


「分かってるわよ、可愛いジョークみたいなもんじゃないの」

「破壊を伴うジョークなんて可愛くねぇよ……」

「リン、トマ! まずは私が追い掛けてあげる! ハンデとして、後ろ走りで追い掛けてあげるわね。十数えるから、今のうちに逃げなさいっ! い~~ち、にぃ~~───」

「よっしゃ、逃げろー!」

「わ、ま、待ってぇ~~~」

「───はぁ~ち、きゅ~~…… じゅうッ!」

「うおあっ!? 後ろ走りなのにはえぇ───!」


 ……行ってしまった。ちくしょう、元気が一番だよねっ!


「だけどさ、これ以上施設を増やすとなると、マジでDPが枯渇する気が……」

「先に第2ダンジョンに配置する通常モンスター、ダンジョン装備を整えますか?」

「それが良いかも。それを終えて残ったDPで吟味しよう」


 という訳で、モンスターの配置へ。クリス曰く、ダンジョン間でもモンスターの所属異動が可能との事だったが、折角なので新しいモンスターはないかと探してみる。


「お、新モンスター発見」


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サハギン

HP :80/80

MP :0/0

筋力 :D+

耐久 :D

魔力 :F

魔防 :F+

知力 :D+

敏捷 :D+

幸運 :D-

スキル:槍術D

スキル:水泳C+

スキル:なし

装備 :屑鉄の槍

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 解放条件を確認してみると、ダンジョンマスターが海上或いは海周辺で二十日間過ごすというものだった。はー、俺が条件の対象になるパターンもあるんですね。更なる進化条件の達成を目指して、このまま一年くらい頑張ってみようか? うーむ、あの神様の事だし、冗談ではなく真面目にそれが進化条件になっていそうなのが怖いところ。最終的に数十年レベルまでいったら、俺泣いちゃうよ?


 サハギンっていうと、魚の顔を持った半魚人だっけ? HPがそれなりに高く、他ステータスも魔力・魔防以外はDで固まっている。このままでも島のモンスターに通用する力を持っているが、おそらくはゴブリン種やスケルトン種と同じで、これを基軸に進化させていく事になるんだろう。となれば、更に強くなる可能性が大いにある。


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スキル:槍術D

 槍を扱う技術を得る事ができる。Dランクであれば一流の腕前であり、大抵の長ものを手足のように扱える。


スキル:水泳C

 水中を泳ぐ事ができる。Cランクであれば荒波の中でも泳ぐ事ができ、+であれば更に水中での呼吸が可能となる。

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 スキルの中身にも注目。良いなぁ、実に良い、どちらも良い! これは我らの産業に新しい波をもたらすぞ!

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