第52話 拠点作りの第一歩
夜に作業を行うのは流石に危険、それに何だかんだでクリスやアークらにも疲れはあるだろう。俺達が新ダンジョンの建設に向けて行動を起こすのは、たっぷりと休息を取ってから─── 詰まるところ、明日に持ち越す事に決定した。
「トマ、島の様子を話すからさ、それを地図に描き起こしてくれないか? 実際の大きさとかは正確でなくて良いから、大体のイメージを皆で共有したいんだ。トマの画力センスが一番だと思うんだけど…… どうかな?」
「何それ面白そう! 絶対描く!」
「リンちゃんは私の手伝いをしてくれないかな? アークさんが仕留めたモンスター、食べられそうなものや使えそうなものは、マスターの宝箱に詰め込んで来たの。これからゴブリンクルーさんと一緒に、それらの血抜きや解体をするのだけど……」
「ちょ、ちょっと怖いですけど、私やります!」
「じゃ、私はシャワー浴びて寝るわね!」
「オーケー、今日は許しちゃる!」
皆が皆、何かしらの作業に取り組もうとする中、我が道を行くアークはタオル(5DP)を片手にシャワー室へ向かおうとしていた。だが、安らぎを得た俺の心は不思議と穏やかだ。アークは今日の探索で頑張ってくれていたので、そんな我が侭も許容しよう。さあ、明日に備えて思う存分寝ると良い!
とまあ、この日はそのまま就寝時間まで作業に費し、平和に終わるのであった。そして翌日───
「おはよー…… ご飯ー……」
アークが後頭部をぽりぽりと掻きながら、朝食を求めて食堂へとやって来た。時刻は朝の十時、休日ならギリギリオーケーも出そうなものだが、平日なら完全アウトな時間帯である。
「いや、まあ、うん…… あのさ、何であんな早々に寝たのに、起きるのは最後なんだ?」
「うぇー……?」
「……朝飯食って顔洗って、早く脳を覚醒させてくれ。新ダンジョンの設置、もう始めちゃうところだぞ?」
「ふぁーい……」
返事が曖昧この上ない感じでかなり不安。しかしそれから三十分後、アークは無事に覚醒してくれた。
昨日同様、島の浜辺に船を着けるのは危険なので、そこまではクリスと一緒にボートで移動。いよいよ第2ダンジョンの設置作業に移る訳だが、これも俺にとっては初となる試みだ。さっきからワクワクとドキドキが止まらない。
「それではマスター、第2ダンジョンの設置について改めて説明しますね」
「お、再確認か。今日のクリスは昨日よりも一段とやる気じゃないか?」
「そうなんです! マスターのお役に立てるように、私とっても燃えています!」
人差し指を立て、その指先に魔法で炎を灯して見せるクリス。やる気と魔法の炎をかけて実践したんだろうが、決めポーズがちょっと恥ずかしいのか頬まで赤くしている。クリスのお茶目な一面を発見。俺は終始ニコニコ顔だった。
「マ、マスター、やっぱり今のはナシでお願いします…… 思っていたより恥ずかしかったです……」
「ほほう、もしかして燃えるような恥ずかしさもかけて、三重の意味で洒落にしたとか? クリス、なかなか上手いじゃないか。感心したよ」
「あうぅ…… あんまり虐めないでください~」
そんなアイスブレイクを挟みつつ、本題のダンジョン講義へ。
「コホン。マスターが所有する第1のダンジョン、現在はマスターの意向で小型帆船となっていますが、初めはイカダという決められた規格に定められていました」
「ああ、覚えているよ。物の見事にイカダで、それ以上でもそれ以下でもなかった。でも、第2ダンジョンはそもそもの始まりが決まっていないんだろ?」
「はい、その通りです。第2ダンジョンをどこに設置するのか、どういった建造物として造るのか、どの程度の規模に設定するのか、その全てをマスターが決定する事になります。色々と決めなくてはならない事は多いですが、まずやるべき事はどこに、でしょうか」
なるほどなるほど。でも実のところ、どこに何を設置するかは、もう昨日のうちに皆(アークを除く)で決めておいたんだ。
「予定通り、海と繋がるこの浜辺に港を作りたいと思う。毎回ボートでの移動じゃ、効率悪くて緊急時にも対応できないからな」
「ですね。今後の活動の拠点とするのでしたら、移動の効率化が第一かと。船があるので居住空間は確保できていますし、陸の住居はそれほど急ぐ必要はないでしょう」
「それに船での漁とまではいかなくとも、港があればそこで釣りもできる! フフッ、漁業に更なる発展をもたらす事ができるぞ……!」
「で、ですね…… えっと、ちなみにダンジョンの設置に必要なDPは、その土地が誰かの所有物であったかどうかでも、かなり上下するようです。土地を通じて拡張する際も、同様の事が言えますね。ここは人の手が入っていない未発見の無人島ですから、その点は良心的なDPになるかと。また広さについて言えば、先ほど思い出して頂いた最初のイカダの広さが、ダンジョンを設置する際の最低面積だと考えてください」
「ふむふむ」
人の土地に割り込んでダンジョンを広げる時は、通常よりも消費DPがでかいと。まあ俺の場合、最初がイカダで土地なんて概念がそもそもなかったし、この第2ダンジョンもそんなの関係なさそうだ。今は特に気にする必要はないだろう。
「じゃ、早速第2ダンジョンを設置してみようか。場所の指定はここから岩山の壁の辺りまで、こうぐいっと。浜辺から海を伝う形だから、船が通れるようにしっかりと海底の深さも設定して───」
「あ、マスター。所詮私達は建設の素人ですから、港の細かな設定は船と同じく既存のセットから選んだ方が良いと思いますよ。指定した範囲の地形に合わせて、スキルが自動で最適化してくれる筈ですので」
「マジか!? 既存セットはともかく、自動で地形に合わせてくれるのは凄まじ過ぎない?」
となると、下手に俺が弄るよりもスキルのシステムに任せた方が良いのでは? 港として機能させてくれるのなら、諸々を都合よく設定してくれるんだよね?
「じゃ、試しに漁港をベースに範囲指定だけでやってみるか。ええと、さっきの範囲で設置すると、必要なDPは─── じゅ、150000DP、ですかい……」
区切り良く数字を整えてくれる仕様なのか、ピッタリと150000DPであった。現在、俺が所有する残りDPは大よそ300000。実に持ち金の半分が消し飛ぶ計算だ。
「ま、まあ広さが広さですし、これでもやはり良心的かと……」
確かに、イカダと港じゃ話が全然変わってくるもんだ。停泊地や防波堤など、付属品が全て込みでこの値段って事だし…… 一応、船で待つ皆にもメールで伝えておく。買っちゃうよ? お父さん、このお値段で買っちゃうよ!? そんな意味不明な思考を交えながら、クリスに最後の確認の視線を送る。
「───よし! 第2ダンジョン、設置ぃ!」
俺は意を決して決定を押し、大量のDPを支払う。すると直後に、小さな地震を思わせる揺れが発生。砂浜と海の真下から、このダンジョンの骨格を成す港が浮き上がってきたのだ。あまりに突然の事だったので、俺はかなりビビッてしまった。情けなくもクリスにお願いして翼で浮かんでもらい、宙へと退避する。
やがて地震が収まると、俺の眼前には石造りの港が完成していた。大きな港とは呼べないかもしれないが、俺の船を停泊させるには十分過ぎるほど広い、立派な港だ。
「……何つうか、感無量だよ」
「マスター、そ、そろそろ降ろしても良いでしょうか? 私、力がもう……!」
「あっ、ごめん!」
謝りながら完成したばかりの港に降ろしてもらい、自らの足でその出来を噛み締める。こうして俺達は第2ダンジョン『漁港』を手に入れたのだ。
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