第26話 リニューアルしよう
捕らえていたトンケとクラーサを牢から出していた訳を、いよいよ説明する時がやってきたようだ。さっきも言った通り、こいつらが乗っていた奴隷船は綺麗さっぱり解体して、積み荷も全て選別済み。いらぬ物はショップで全て売却して、DPに換えさせてもらった。
そして、俺達の本拠地とも呼べるイカダ。こちらも組み立てていたテントや日用品、その他諸々を片付けてしまって、本当に丸太のイカダしかない状態になっている。その上に乗る者も誰もいない、そんな真っ新な状態だ。
ならば、俺達は今どこにいるのか? 答えは奴隷船から拝借した木材を利用して、ゴブリンクルー達が手作りしたマジなイカダの上である! ゴブリン達の器用さを以ってすれば、こんな事まで可能だったのだ!
……余談であるが、お手製イカダは全部で二つ。俺とアーク、そして捕虜二人が乗るこのイカダと、クリスとトマリン兄妹が乗る向こうのイカダ、ゴブリン達は一時的に控え状態で待機だ。綺麗に圧迫組と穏やか組に分けてしまったのは、安全を考慮しての事である。ほら、万が一にあの子らを人質にされたら厄介だし。
「じゃ、やりますか」
開いたメニューはダンジョンを改変するモード。ダンジョンの基盤となるイカダを、全く別のものにする為の画面だ。そして、これまで貯めてきたDPを使い何をするのかというと――― ダンジョンを船にするのである。お見せしよう、海のダンジョンマスターの真髄を!
「ポチッとな」
既に詳細の設定は終えてある。メニューの決定ボタンを押し、イカダの方へと視線を向ける俺達。
「おおっ!」
そんな驚きの声を上げたのは誰だったのか。うん、たぶん俺だ。だってさ、平面だったイカダが曲線を描くようにして曲がって、その上に高速でダンジョンが建造されていったんだ。こんな摩訶不思議な光景、ダンジョンマスターだって驚く。驚いている最中にはもう、イカダは船として生まれ変わっていた。これぞ俺のリニューアルダンジョン『小型帆船』である。サイズこそはあの奴隷船より小型であるが、ゴブリンを含めた現在の人数を優に乗せる事ができる自慢の船だ。
「すっげー!」
「わわっ……」
向こうのクリスをはじめとした穏やか組の面々も、同じ反応をしている。ふふっ、子供とは嬉しい反応を返してくれるものよ。
「へー、噂には聞いていたけれど、本当にこんな事までできちゃうのね。魔王って!」
「だから、ダンジョンマスターだというに。ま、細かい説明はアレに乗ってからだ」
船の甲板にゴブリンクルーを再召喚、船へ上れるように梯子を下ろしてもらう。
「ゴブー」
「よし、オーケーだ。アーク、俺が先に行っても大丈夫か?」
「この二人を見張るくらい、素手の私でも楽勝よ!」
「うう、悔しい……!」
けど、言い返せない。そんな感じでクラーサが地団駄を踏んでいる。ああ、大丈夫そうだね。
「よっと…… 次、トマとリン!」
「「はい!」」
とまあ、そんな感じで全員が無事に船の甲板へと上る事ができた訳だ。トンケとクラーサだけは、アークが力尽くでぶん投げての強制乗船だったけど、無事だったから問題ない。お手製イカダは折角ゴブリン達が作ってくれたものだし、また使う機会があるかもしれないので宝箱に保管。これでこの一帯の海には、俺の船が残るのみとなった。
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ウィルのダンジョン(小型帆船) 残りDP:1023
ユニークモンスター(残り枠:0)
・クリス(悪魔の使用人)
通常モンスター(残り枠:0)
・ゴブリンクルー ・ゴブリンクルー
・ゴブリンクルー ・ゴブリンクルー
・ゴブリンクルー ・ゴブリンクルー
・ゴブリンクルー ・ゴブリンクルー
・ゴブリンクルー ・ゴブリンクルー
フロア構成
①上甲板(クリス、ゴブリンクルー×10)
②中甲板
③下甲板
ダンジョン装備(周辺10キロまで効果範囲の拡大可能)
・穏やかな海
・晴天の空
・ダンジョン周辺出現モンスターF
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船をダンジョン創造の力を行使して作るといっても、設計に関しててんで素人な俺に一から作れるはずもない。なので今回は、メニューのカタログに予め載っていたモデルをそのまま引用させてもらった。心の中で「ダンジョンなのに船もあるんかい!」とツッコむも、イカダがある時点で今更か、と勝手に納得。まあ見ての通り、今回の戦いで得たDPのほとんどを費やした。
大きく変わった点といえば、やはりフロア構成だろう。以前はただのイカダのみだったこの欄が、今では上甲板、中甲板、下甲板の三層から構成されている。全体的な大きさはあの奴隷船に大きく劣るものの、そこは機能性重視という事で。まずは皆を連れて、船の中を案内しながら説明するとしよう。
まずはフロア構成の一番上に記載された上甲板、俺達が今立っている場所だ。帆を張る為のマストや、その上に設置された見張り台などもここに含まれている。また露出した甲板だけでなく、船首と船尾部分にかさ上げされた船室が設けられている。今は何も設置していないのでただの空き部屋でしかないが、ゴブリン達が釣りをしてきた成果を早々に捌けるよう調理場兼食堂、大砲なんかを置ける格納庫に活用したいと考えている。
次のその下にある中甲板に降りて行けば、ここからは完全に船内の密閉された空間だ。小さめの部屋が幾つか並んでいたり、共有のラウンジ、手洗い場や風呂場があるこの層は所謂生活スペースに当たる。手洗い場や風呂場にはDPを特に使って良いものを! などと考えていたのだが、最新式は予想以上にDPを食ってしまう為に、ポットントイレと汲み上げ濾過式のシャワーに留まってしまった。いつか、いつか洋式トイレとおっきな浴場を作る! それが今の大いなる目標だ!
「で、ここが下甲板、所謂船底の部分なんだけど、ここだけは例の牢屋をもう設置しておいたから、この中で思う存分羽を伸ばしてくれ! トンケとクラーサ!」
「何でそこだけ抜かりない感じなんだよっ!」
「クラーサ、騒いだって仕方ないだろ。命があるだけマシってもんだ」
アークに付き添われ、奴隷船から拝借した牢屋に入れられる男達。この下甲板、今のところは牢屋部屋しか用途を考えていないんだが、残りのスペースはどうしたもんかな…… 倉庫とか? ま、後で考えておくとしよう。
「―――という訳で、これが新しく造った船になる」
ゴブリンクルー一体をマスト上の見張り台に、一体を操舵、二体を牢屋前の見張り、残りに本業の釣りを任せたところで、中甲板のラウンジに集合する俺達。まだ全然家具類を揃えていない為、奴隷船から拝借したテーブルと椅子だけしか置いていない状態だ。これらはお世辞にも良い品とはいえないから、さっさと買い替えたくはある。
「この立派な船、本当に船長さんの力で造ったのですか? す、凄すぎて、実際の船を見ても信じられません……!」
「やっぱりキャプテンすげぇや! 凄い凄いっ!」
「ホントよね。魔王が根城を創造する能力を持ってる事は知っていたけれど、全然そういうダンジョンには見えないもの」
「はい! 流石はマスターです!」
「フッフッフ! 止せ止せ、褒めたって俺の鼻しか伸びないぞ? フッフッフ! 一応、それぞれに私室を割り当てるつもりだ。俺、クリス、アーク、トマとリンで五部屋だな」
「え、ええっ! へ、部屋まで頂けるんですかっ!?」
なぜかリンに凄く驚かれた。
「キャプテン、俺らに部屋なんてもったいないよ。その辺の通路でも十分だよ」
「いやいや、子供をそんなところに寝かせるほど薄情者ではないよ。もう作っちゃったし、観念して使ってくれ」
「え、えっと…… お兄ちゃん、どうしよう?」
「……なら、せめて俺とリンで一部屋にしておくれよ。本っ当に、それで十分過ぎるくらいだからさ」
「んー、そう言われたってなぁ」
「それならマスター、私はマスターと相部屋で十分ですよ。ほら、色々と身近にあった方が便利でしょうし」
「クリスはクリスで自重しろな?」
「あう……」
クリスの主張は置いておくとして、トマとリンが一部屋で済むのなら、一つは空き部屋となってしまうか。んー、まあまだ見ぬ仲間用って事で。
「ウィルー! 一通り部屋を見て来たのだけれど、私は浴場の近くの部屋ね! はい決定!」
どの部屋も大きさと構造は同じだから良いけどさ、アークはアークで自由過ぎた。
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