第25話 解体

「モルク・トルンク? それがお前らの雇い主の名前か?」

「へ、へい」


 俺が作業を進めていると、訳あって一時的に牢から出していた船員Aからの情報提供があった。彼らの雇い主についての話らしい。ちなみに船員Aは船底で捕まえた男、船員Bは甲板で気絶していた幸運な男である。


「つっても、名前だけ知ったところでだから何? って感じだからなぁ。えっと……」


 ……こいつらの名前も聞いておいた方が良いか。流石にAとBじゃ紛らわしい。


「その話を詳しく聞く前に、お前らの名前も教えろ。二人とも、仲間の癖してお互いの名前も知らないんだろ? ちょうど良い機会だ」

「確かに。俺はトンケ」

「俺はクラーサだ。ところでよ、いい加減この目隠しくらいはとってくれねぇか? 腕を縛られてんだし、目隠しがなくても逃げようがないって」


 甲板気絶男、クラーサがそんな事を懇願してきた。いや、その目隠しはある意味、お前の為のものでもあるんだけど。外したら俺の頬を見て、絶対錯乱するだろうし。今現在、こいつらは目隠しをされた上で両腕を縛られ、その手綱をアークに握られている状態にある。不安と不満が募る気持ちも分かるが、クラーサはもう少し状況を弁えてほしい。


「新人、いや、クラーサだったか? その目隠しはしとけって。心の平穏を保ちたいんなら、余計な事は言わねぇ方が良い。これ、マジな話な」

「は? ど、どういうこった?」


 トンケ、その言い方も十分恐怖を煽っている気がするぞ。まあ、適度に怖がって素直に情報提供してくれる分には助かるかな。


「あ、私そいつ知ってるわよ?」

「うわっ、ビックリした!? え、何!? この声、あの女!? 近くにあの女がいんのっ!?」

「お前、気付いてなかったのかよ…… お前を縛ってる縄を握ってるの、アークだからな?」

「こわっ! な、なるほどな、その為の目隠しって事かよっ……! クソッ、煮るなり焼くなり、好きにしやがれってんだ! だけどよ、これだけは言っておくぜ。俺にそんな趣味はねぇっ! だから優しくしてっ!」

「どんな趣味よ! もう、失礼しちゃうわね!」


 クラーサは勝手に目隠しの意味を納得してくれた。何を想像しているのか、ピュアな俺の心では想像する事ができない。


「っと、話が逸れたな。で、アーク。そのモルクって男を知っているのか?」

「これでも剣闘士をやってたから、そっち関係の話も多少はね。モルク・トルンク、数年前に現れて以来、奴隷商として勢力を拡大した男よ。商人の身でありながら私設艦隊を抱えているとか、拠点を置いている街を実質的に支配しているとか、噂話程度だけど聞いた事がある。ま、勢いの割にはそんなに有名でもないのが、ちょっと不思議だったけれど」


 私設艦隊とは穏やかじゃない単語が出てきてしまった。この世界の奴隷商って、そんなに力を持ってるものなのか?


「アークの言う通りでさぁ。モルクの旦那は完璧主義者だから、運搬が失敗したと知れたら絶対に探索チームを送ってくるはずだ。その前に、この海域からとんずらする事をお勧めするぜ? ってか、絶対にした方が良い」

「ん? 何でトンケが焦ってんだよ? お前からすれば、そのモルクの旦那が助けに来た方が都合が良いんじゃないのか?」

「その逆だよ、あからさまに逆! さっきも言った通り、モルクの旦那は完璧主義者! 失敗した奴には絶対に重罰を与える事で、仲間内ではかなり有名なんだ。俺ら以外は全滅しちまったから、責任を取らされるのは必然的に俺とこのクラーサになっちまうだろ?」

「え、俺もなの!?」

「当ったり前だろ! 何で自分は関係ないと思えるかなぁ…… このクラーサには前にも喋ったが、そんな末路を辿った奴らを俺は何度も目にしてきた。だから俺は、もうモルクの一派からは抜ける事を決意してる。知る限りの情報は全部吐くからよ、どうにか命ばかりは助けてほしいんだ」

「お、俺も喋るぞ! ある事ない事全部喋るぞ!」

「ない事は余計でしょうが…… って言ってるけど、ウィルの判断は?」

「んー」


 敵さんを裏切って自ら情報を言ってくれるのなら、確かに願ったり叶ったりだ。が、クラーサはともかくとして、トンケは妙に頭が切れるところもあるんだよなぁ。それ自体が罠って可能性も、僅かにあるだろう。なら、こっちも中立を気取って様子を見るか。


「追手を差し向ける可能性自体はまああるとして、この広大な海の中で、どうやって俺らを見つけ出すんだよ? どこにいるかも分からない俺らを探し出すなんて、それこそ無理のある話じゃないか? 陸地と違って、目撃情報も何もないんだぞ?」

「うんうん、確かにそうだよな!」

「うんうん、確かにそうよね!」


 この二人アークとクラーサはその場の勢いだけで生きてるんだろうなぁ。俺の言葉にすっかり納得してしまった様子で、揃いも揃って深く頷いている。


「……ここだけの話なんだが、あるかもしれないんだよ」

「あるっていうと?」

「モルクの旦那が、俺らの居場所を知る方法が、だよ」


 トンケ自身も偶然耳にした話らしく、本当かどうかの確証は正直なところない。そんな前置きをしてから、トンケはアークに付けられた鉄球について語り出した。


「―――って事でよ、その鉄球は枷であり、居場所を知らせるマジックアイテムでもある訳なんだ」

「へー、そうだったんだ。用心深いわね~」

「そうだったんだって、やけに軽い反応だな?」

「え? だって見つかったとしても、倒せば良いだけの話でしょ? 簡単な事じゃない!」

「………」


 アークがこれまで、どんな風にピンチを乗り越えて来たのか、手に取るように理解する事ができた。一方のトンケはいやいや何言っちゃってんの? と言いたげな口の開け方をしている。


 そんな意見はさて置き、トンケは暗にこう言いたいんだろう。発信源となっているアークをどこかの大陸に逃がすなりして、早いところ安全を確保したいと。まあ確かに、そうなればモルクとやらはアークのみを追う事になるから、俺達の安全は約束されたようなもんだ。


 だが、俺がその選択肢を選ぶ事はない。第一にトンケが偽の情報を流して俺達を混乱させ、アークと仲違いをさせようとしている恐れがあるからだ。トンケの情報の真偽はどうやったって分からない。よってこの話は参考程度に留めておいて、結論の決め手にはするべきではないんだ。ま、これはあくまで建前で、次の第二の理由が一番大事な事なんだけどな。


 ―――アークは俺達の仲間なんだ。アークが俺を裏切らない以上、俺はアークを裏切らないし、その信頼にも応えよう。ダンジョンマスターとして多くの人々と触れ合えないのなら、せめて俺を信じてくれる奴らの想いには報いる。それが俺の決めた生き方だ。


「……ま、精々今後の方針の参考にさせてもらうよ」

「そうしてくれ。後、動かす船はうちの奴に乗り換えた方が良いぞ。あんなイカダじゃ、波に乗ってどこに行くか分かったもんじゃないだろ? 幸い、アンタはゴブリンを操れるようだからな。人手も不足する事は―――」

「いやー、あの船はちょっとなぁ…… 汚いわ臭いわで、俺的に却下です」


 論外中の論外、キングオブ論外である。


「うんうん、ウィルは分かっているわね! めっちゃ汚いし臭いのよ!」

「……な、なあ。確かにそうかもしんねぇが、それじゃあのイカダで航海するってのかい? そりゃ無理ってもんだろ?」

「トンケが言いたい事は理解してるよ。だけどもうお前らの船、全部解体しちゃったんだよね」

「「……は?」」


 船全てを売っただけあって、ショップでも結構なDPの足しになりましたとも。で、これからやるのが俺なりの解決法だ。


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今回の戦果


・一部解体した使い古しの中型運搬船(細かな備品含む) ⇒ 臭いし売却(12620DP)

・金貨等一部財宝 ⇒ 宝とかあっても仕方ないので売却(6857DP)

・使い古しの小型ボート×5 ⇒ 整備されておらず強度に問題あり、一応宝箱に保管

・カトラス等武具類 ⇒ 状態が悪く粗悪であった為売却(345DP)

・特注の檻 ⇒ 捕虜収容用に使用

・堅パン干し肉等の食料備蓄 ⇒ 状態の悪いものは一部売却(7DP)

                それ以外は捕虜用食料として宝箱に保管

・テーブルや椅子等の家具類 ⇒ 比較的まともなものを選別して宝箱に保管

・奴隷契約書×3 ⇒ 奴隷解放の際に使用

①剣闘士奴隷『金獅子』アーク・クロル

②獣人奴隷トマ

③獣人奴隷リン

・船員二名 ⇒ 牢へ収容

・俺の近くで倒した敵から得たDP

①船員三十四名(合計2140DP)

②船長一名(合計380DP)


戦果獲得後の所持DP:25770DP

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