第20話 戦果

 恐るべき強敵、金獅子との激戦を経て、俺達は初陣となるこの戦いに終止符を打った。いやー、一時はどうなるものかと思ったよ。特に最後の戦いは、一歩間違えていたら俺達の方がやられていた。難敵とはああいった輩をいうんだろうな。本当に信じられないくらいの接戦だったわー。


 ……と冗談はさて置き、俺達は現在戦闘の後処理に追われている。金獅子とかいう物騒な二つ名を名乗っていた美女をゴブリンクルー達に運び出してもらい、ひとまずは俺らの根城であるダンジョンへ。捕らえられていた獣人の子らも、不衛生な船底とはおさらばして、マイホームに移動してもらう。とはいえ、相手は奴隷だったとしても子供である事に変わりはない。見ようによっては愛嬌のあるゴブリンであるが、怖がられる可能性が大いにある。今回はクリスに案内役を譲らせて、残ったゴブリン達には目ぼしいものがないか、奴隷船の船内を漁ってもらう事にした。俺も奴隷船の甲板上にて作業中だ。


「ゴブ!」

「おう、お疲れ。見つけたものは宝箱に入れておいてくれ。運ぶのが困難なら、その都度俺に連絡な。手動で宝箱に入れとくから」

「ゴッブゴッブ!」


 さあ、何でも保管してしまう宝箱の応用編だ。今回の仕分け作業の間に、どんなにでっかいものでも鹵獲品であるのなら、例の宝箱に収納可能という事が判明した。宝箱から数メートル範囲にあるものであれば、たとえこの奴隷船だって詰め込める異次元仕様である。


 更に、どうやらこの宝箱は配下のモンスターと同じく、ダンジョン創造の力を使って俺の近くに召喚する事もできるようなのだ。これらの特性を利用して、持ち運びできるものはゴブリン達が、巨大なものは俺自らといった具合に、宝箱に戦利品を入れて入れて入れまくる。で、宝箱に入れたものはメニュー画面に表示されるようになる為、ここより獲得した全てのアイテムを確認する事ができるって寸法だ。実物を見ただけでは使用用途が不明なものも、メニューを通せば補足説明が表れる。ふふっ、このメニューを通せば俺も一流鑑定士よ。


 って、んなアホなテンションで舞い上がってる場合じゃない。戦利品が次々と舞い込んでくるのはありがたい話だが、その管理を主導するのは俺の役目。何分情報量が多くて繁忙期真っただ中なのだ。表示画面を新規入手分から並べ直してはいるけど――― 処理速度が追い付かない!


「おっと」


 言ってるそばから、何やら重要そうなアイテムを発見。『奴隷契約書』が三つ…… これ、あの船員が言っていたアイテムかな? 契約先がフリーな状態の奴隷を、正式に服従させる為のものだったか。開けられた金庫と一緒に納品されている辺り、ゴブリンクルー達に渡したピッキングツール(70DP)は有効活用されているらしい。ピッキングまでできてしまうゴブリン、マジ有能。


「ゴーブ」

「くそっ、放せっ……!」

「ん?」


 威勢の良い男の声が聞こえてきたと思えば、ゴブリンらに捕らえられた状態で見知らぬ男が連れて来られた。いや、見知らぬといっても服装を見れば、奴隷船の船員って事は丸分かりなんだけど。俺の顔が見えないよう、男には目隠しがなされている。例の如く俺の顔を見て、騒ぎ出したらお話どころじゃなくなるからな。その予防策だ。


 その上で甲板の床にうつ伏せになるようにして倒され、両腕を押さえ付けられる船員の男。ゴブリンクルーの筋力、確かDだったか。大の男でも跳ね除けられないところを見るに、Dでも普通の人間相手には十分に通じるのかね。


「よう、てっきり全員息の根を止めたと思っていたんだが、まだ生き残りがいたんだな」

「クッ……」

「どこに隠れていたんだ? ああ、言わない場合は容赦なくぶった斬るから、そのつもりで口を開いてくれ。甲板ならあの子らには見えないだろうし、処分するのも楽でいい」

「わ、分かった! 言う、言うよっ! その、頭に殴られて甲板で気絶してたんだ。気が付いたら船はこの有様だし、ぶっちゃけ何が起こったのか把握してねぇ。アンタら、一体何者なんだ……?」

「気絶? 頭ってのは、あの筋肉坊主の?」

「ああ、そうだよ……」


 はー、俺達が喧嘩を買う前から甲板の上で気絶していて、事が起こってからは倒した死体の中に混じっていたせいで気が付かなかったのか。殴られた経緯は知らないが、なかなか悪運が強い。


「殴られた云々で大体の察しはつくけどさ、アンタはこの船ではどんな仕事をしていたんだい?」

「み、見習いの船乗りだよ。この船の仕事は今回が初めてで、船についてもあまり詳しくない」

「ふんふん」


 自ら何の価値もないと吐露しているようなもんだし、どうやら嘘をつけない性格のようだ。何かを隠しているとしても、それほど重要な情報は持っているとは思えない。


「ま、アンタの処遇は後に考えるよ。お仲間と一緒に、牢の中に入ってゆっくりしてくれ」

「ろ、牢?」


 目隠しのせいで見えていないんだろうが、俺の後ろには船底にて発見した立派な檻が鎮座している。恐らくは、金獅子を入れていた牢だったものだ。船長の死体が牢の鍵を握り締めていたから、すぐにそうだと判断する事ができた。後は船底にて宝箱を召喚して、一度収納してから甲板にて再度――― という流れだ。そして、この牢には投降したあの船員(目隠し済み)が既に入っている。


「お、おい、押すなって! 自分から入るっての!」

「……その声、新人か?」

「あ? あ、ああっ! お前っ! ……名前、なんだっけ?」

「あー、そういやお互い名前も言ってなかったもんなぁ。しっかし、お互い悪運だけはあるみてぇだ。これからどうなるかは、まだ分かんねぇけどよ」


 うん、仲良く獄中生活をしてくれそうだ。名前も知らないのはどうかと思うけど。さて、生存者の確認もこれで最後かな? そろそろ船内の探索も終了する頃だ。


「ゴッブブー」


 噂をすれば何とやら。船内のガサ入れを担当していた全てのゴブリンクルーが俺の前に整列し、完了の報告と共に敬礼してくれた。ゴブリン達の言葉は未だに理解していないから、代わりに合図を決めていたのだ。なぜこの合図なのかって? 気分だよ、気分。


「使えそうなもんはこれだけか。よし、それじゃ売却――― といきたいところだけど、その前に腹ごしらえをしよう。クリスが食事を作ってくれている。二班に分かれて交代で休憩、一組目は俺と一緒に奴隷船からホームに移るぞ」

「「「「ゴッブ!」」」」


 意思疎通できるか不安だが、あの獣人の子ら、そして金獅子と改めて会話しないと。さっき見つけた契約書が良い方向に導いてくれれば上々か。子供達はクリスを間に挟めば何とかなりそうだけど、金獅子は微妙なところなんだよなー。また暴れ出したら、今度こそ敵として処理しなくちゃならなくなる。できればそれは避けたいところだ。


「あのー、俺らの食事は……?」

「忘れてないから安心しろって。後でこの船の貯蔵品から、人数分運ばせるよ」

「ありがてぇ。間違っても美味い代物じゃねぇが、ないよりはマシってもんだ」

「……そうそう。有益な情報が何かあれば、食事のランクも上がるかもな」

「「えっ?」」


 ゴブリンの何体かには、こいつらの目の前でクリスの料理を食べてもらおう。匂いだけでも効果抜群だろうなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る