第3話 悪魔なマニュアル
メニューに表示されたボタンを押した直後、眼前に小さな光が浮かび上がった。その光はくるくると回ったり、大きくなったり小さくなったりと、変化を繰り返している。これはもしや、ランダムに抽選している最中なんだろうか? その変化を眺めながら待つこと数秒、光が取り巻く変化が落ち着き始めてきた。俺よりも頭一つ分小さい程度の人型にまとまって、徐々に徐々にと輝きが収まっていく。
「こ、この度はお招き頂き、誠にありがとうございますっ!」
メイドさんだ、メイドさんが現れた! 長い銀の髪に赤い瞳、黒を基調とした格式の高そうなメイド服。悪魔らしき尻尾に羊っぽい角や蝙蝠の翼のようなものがあるが、ちゃんとしたメイドさんだ! しかも気品のある凄い美人さんだ! ああ、いや、④のボタンを押してこんな事を言うのも何だが、ちゃんと人の形をしたモンスターが現れて安心したんだ。言ってしまえば、ゴーレムなメイドさんが現れる可能性もあった訳だし、その場合はイカダが死んでいたかもしれないし。ともかく、俺の選択は間違ってはいなかった。動揺する俺であるが、向こうも緊張しているのか、若干噛んでいる。
「悪魔の使用人、クリス! ここに参上致しまぁー……(バタリ)」
そして倒れるメイドさん。って、おい!
「ど、どうした? どこか体調が悪いのか?」
「い、いえ、我々悪魔は、太陽の光に弱いものでして…… できれば、何か日の光を遮るものはありませんか……?」
「遮るものか? あー、遮るもの……」
さっき唐突に出てきた宝箱しかねぇ。
「……この宝箱に入るか? サイズ的には大丈夫そうだが」
「そ、それは生物が入る事ができない、保管機能のあるものでして……あぅ……」
やばい、メイドさんが早くも瀕死だ。折角呼び出したメイドさんを死なす訳にはいかない。ひとまず、俺の体でメイドさんの頭だけでも影で隠してやるか。頭に敷くものも何もないから、膝も貸す。
「悪いが、今俺の手持ちはこの宝箱だけなんだ。呼び出しておいて本当にすまないんだが、ダンジョンマスターってのもよく分かってなくてだな……」
「い、いえ、こちらこそすみません。大分楽になりました。と言いますか、こんな体勢で本当に申し訳ありません」
「気にしないよ、そのまま横になっててくれ」
直接太陽光を浴びなければ悪影響は少ないのか、肌を出している首より上を隠してやると、少し元気になったようだった。ロングスカートで良かったです、はい。
「改めまして、私は悪魔の使用人のクリスと申します」
「俺の名前は……ウィルというらしい。状況は全く理解していないんだが、よろしくしてくれるとありがたい」
「と、当然ですよ! 絶対によろしくする事をお約束しますっ! 私、マスターに仕える為に生まれてきましたのでっ!」
ひしっ!と、手を握られる。待て、手を握られるのは素直に嬉しいが、生まれてきたとはどういう事だ? なぜにマスター? その辺りをクリスに聞く。
「ああ、すみません。私とした事が何の説明もなしに……私、こういう者でして」
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クリス 17歳 女 悪魔の使用人 ユニークモンスター(ウィル)
HP :40/40
MP :150/150
筋力 :E
耐久 :E(+1⇒E+)
魔力 :B+
魔防 :B+
知力 :A
敏捷 :C
幸運 :D-
スキル:夜適性C
スキル:炎魔法B
スキル:スーパーメイドS(家事+3)
装備 :悪魔のメイド服(耐久+1効果、家事+2効果)
悪魔のメイドカチューシャ(家事+1効果)
革靴
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「不束者ですが、よろしくお願い致します」
「ああ、これはどうもご丁寧に」
クリスは名刺を手渡すように、手元に小さくまとめた画面で自分のステータスを公開してきた。ほう、俺にステータスを見せる事もできるのか。って違う! これもまあ重要な情報だけど、今知りたかったのはそっちじゃない!
―――で、それから俺はクリスに色々と話を聞いた。クリスはダンジョンマスターである俺の配下として召喚されたモンスターで、この不思議な力によって生まれたんだという。だから俺をマスターと呼ぶと。色々とツッコミたい気持ちは分かるが、そこは我慢して頂きたい。俺だって半信半疑なんだ。クリスは初見では難解過ぎるダンジョンマスターの能力を説明する役割も担っているそうで、生まれたばかりながらもその能力の知識をマニュアル程度に備えているらしい。マニュアルって何だ、マニュアルって。
「真面目に文章に起こしてしまうと、それはもう分厚い解説書になってしまうようでして」
「そんなに面倒な能力なのか、ダンジョンマスター…… で、それは誰から聞いた情報なんだ?」
「いえ、それは私にも分からず……」
クリスにも誰によって知識を与えられたのかは分からない、と。この世界を創った神様か何か、とでも思っておこう。深く考えたらキリがない。
「私如きに貴重なユニークモンスター枠を使ってくださるなんて、感謝の言葉しかありません……! 強力なドラゴンなど、他に魅力溢れる皆さんがいましたのに……」
「ドラゴンなんか出てきたら、このイカダなんて一瞬で沈んでしまうよ。ところでさ、ユニークモンスターって何だ?」
さっきから質問してばかりだが、今は情報を得る事が先決である。
「ええとですね、マスターはダンジョンマスターな訳ですが、使役できるモンスターには二種類の枠があるんです。少しダンジョン創造メニューをお借りしますね」
そう言って、クリスはメニュー画面をすすいと切り替えていく。
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ウィルのダンジョン(ただのイカダ) 残りDP:1000
ユニークモンスター(残り枠:0)
・クリス(悪魔の使用人)
通常モンスター(残り枠:5)
・空き
・空き
・空き
・空き
・空き
フロア構成
①丸太のイカダ(クリス)
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「これがマスターのダンジョン情報になります。ひとまずは必要最小限の情報が見えるよう設定しました」
「……ダンジョンって呼んで良いのか?」
ただのイカダやで。フロアもクソもないで。ついさっき無理だろと叫びはしたが、まさか『ただのイカダ』で表現対応されるとは思ってもいなかったです。
「マスターはダンジョンを運営する支配者ですので、そこで働くモンスターを使役する事ができます。普通、召喚したモンスターは通常モンスターの枠に分類されるんですが、今回は初回という事で、私はユニークモンスターとして召喚されました。次回の召喚からは通常モンスターの枠に入りますので、そこはご注意ください。新たにユニークに設定するには、枠の解放、ユニークへのランクアップにDPが必要になります」
「うお、色々と新情報が…… ま、まあそれはともかく、肝心の二つの違いは何なんだ?」
「通常モンスターは感情がなく、ステータスも一定なんです。対してユニークモンスターは、感情が芽生え経験による成長をします。ユニーク化する時にステータスが強化されたり、スキルが変化する事もありますね。自軍を統率する幹部がほしい際は、ユニークモンスターがお勧めです!」
それ、間接的にクリスが幹部って事になるんじゃないか? たぶん、本人は全くその事に気付いていない。つうかさ、あの選択でドラゴンやらゴーレムを選んでいたとして、そいつらは言葉を話す事ができたんだろうか? できなかったら、その時点で解説の意味を成していないと思うのだが……
「では、ダンジョン作りの第一ステップ。モンスターを召喚してみましょう」
俺の膝で寝ているクリスが、とてもマニュアルっぽい事を言い出した。
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